第三話 山

「山、ちょーヒマだわぁ。」

 じいちゃんが柴刈りをしている横で俺は大あくびをした。

「桃太郎や、ヒマなら手伝わんかい。」

「よく柴ばっか刈って飽きないね。」

「これがないと焚き付けが出来んからのぉ。」

「なんか、根本が違ってる気がするんだよね。」

「お前は、賢いんじゃから、寺子屋で学んで来いっちゅうとるのに、なんで行かんのじゃ。」

「いや、寺子屋遠すぎんだよ。」

「なんも、遠くなかろ、せいぜい一刻ちょっとじゃ。」

「単位がまだ慣れないけど、2時間くらいかかんじゃん。往復4時間!チャリでもキツイわ。」

 

 俺は桃太郎に転生して、じいちゃんばあちゃんと山で暮らしている。

 山は驚くほどイベントがない。

 いや、あるがインドア派の俺には性に合わない。

 そして、とにかく山は寒い。

 寒さの一因は、服、だ。

 これは、服と呼称していいのか甚だ疑問だが、つまり、布一枚だ。

 お尻丸出しなのは、まだいいが、とにかく前が頼りない。

 意識してない時はいいのだか、意識するとナニがナニしそうで、ナニした場合、丸見えになる。

 見た目がまだ子供だから、この格好なんだろうけど、中身は高2だから結構恥ずい。


 そう、この前も、じいちゃんに言われて寺子屋に行ったのだが、この世界の女の子はめちゃくちゃ可愛い。

 めちゃくちゃ可愛いくて辛かったのは初めての気持ちだった。

 これは、言うと、はいはい、そのパターンね、って言われそうでアレなんだけど、その、つまり、所謂、イケメンみたい、俺。

 いや、ちゃんとした鏡がないからなんとも言えないけど、あの寺子屋でのモテっぷりからしたら。。。

 はいはい、ハーレムパターンね、じゃねーから。可愛いけど真面目に勉強してるからね、女の子たちは。

 で、ナニがナニするかも、って恐怖ですぐ帰った。

 こんな服じゃ、女の子と話も出来ないよ。


「ん、服買えばいんじゃん。」

 俺は思わず口走った。

「なんじゃい?服?」

 じいちゃんが聞き返した。

「あ、着物?」

「着物なんて贅沢な。裸でいいじゃろ。」

「いいわけないじゃん!」

「着物買うたって、銭がないことにはのぉ。」

「じいちゃん、お金ないの?」

「ないって、そんな、見たことすらねぇわい。」

「見たことも!」

「どうしても、銭こさえたきゃ、鬼退治かのぉ。」

「えっ?この流れで?」

「下の村に鬼出没の札が出とったから、退治すればいくらかもらえるじゃろ。」

「うーん、でも、俺に退治出来んのかな。」

「どじゃろな。」

「そこは、出来るって言って欲しかったなぁ。」

「あ、そうじゃ、良いものがあるわい。」


そう言って、じいちゃんは家に帰ってから、

一本の竹をくれた。

「これで、頑張るんじゃ。」

「ウソだろ!?この棒!?だけ!?」

「竹槍じゃ。」

「はぁ、まぁ、何にもないよりマシか。」

「殴って刺す、じゃ。」

「描写がエグいね。」


こうして俺は、布一枚の服と竹槍を持って

颯爽と鬼退治へと出発した。

そして、こう呟いた。

「思ってたのと違う。」

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