ドライフルーツ
横溝照之 あんどイーニしゅまペ
早朝
素早い動作が夫の目を覚ました。寝室の窓はカーテンに覆われているが、外の光はそれをも通り越して、暗闇の部屋に色を付けている。だがそれは決して明るい色ではない。強いて言えば冷たい色だった。
しかし視線はそちらへは向かない。一番最初に夫が見たのは、数時間前のセックスの為に裸となった――― 妻の女体の起き上がる瞬間だった。
「もう朝か」
「ええ。5時半よ」
妻は事実を語っていた。アパートの建物の反対に位置するキッチンへ向かえば、真っ赤な太陽が空をオレンジ色に染めているのが分かる。そこで夫と妻は早朝のコーヒーを共に作りはじめる。
夫は――― 無言で昨夜に作っておいたコーヒーを二つのグラスに注ぐ。
妻は――― 無言で冷蔵庫から牛乳を取って残りの空白を白色で埋める。
夫は――― 妻がどれほどの量を飲むのかを良く知っている。
妻は――― 夫がどれほどの割合を好むのかを良く知っている。
そんな事、聞くまでもない。
コーヒーを飲みながら、二人は距離を置いてお互いを見つめ合う。
夫は太すぎでもなければ瘦せすぎでもなく、整えられた筋肉質の体型をしており、身体は綺麗で、特に顔と性器は実に立派なものだった。
妻は茶髪のぼさぼさのボブカットと青色の瞳を持ち、モデル級のスレンダー体型と引き締まった股関、そして何よりも大人びた顔が魅力的だ。
裸の二人がどこを見るか――― それはもちろん「眼」だ。夫と妻は睨めっこのように瞬きすらしない、喋りもしない、視線を他の物へ移したりもしない。ただ見つめ合いながら、目覚めるまで静かにコーヒーを飲み干すだけだった。
その後、二人はアパートの小さな構造を逆手にそれぞれの支度を始める。
夫は寝室で着替えを、妻は洗面所で美容を始める。
背広姿になった夫は洗面所で歯磨きを、化粧を終えた妻は寝室で着替えを始める。
このようなヴァイス・ヴァーサを繰り返して、二人はお出かけの準備が整った。夫は玄関を妻のために開けて、妻は出ると同時に夫が訪れるのを待った。そして二人は同じ道を歩いていく。
夫婦はお互いを可愛とは思わない。個人的に魅かれるモノも二人は持っていない。
それでも夫婦は幸せだった。
ドライフルーツ 横溝照之 あんどイーニしゅまペ @EnigShuMaPe
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