第11話 異界突入 パート1

 僕等は異界に足を踏み入れた。


 その瞬間、僕の目の前は真っ暗になり何も見えなくなった。何も聞こえなくなった。





 そして、しばらく経つと何か聞こえてきた。


 幼い女の子の叫び声だ。


 『私の所為じゃない!! 私は!! 私はただ皆んなを助けたかった!! それだけなのに!! なんで私の家族を殺した!? なんで私は殺されないといけなかったの!? 家族を殺した奴等は許さない!! 絶対に許さない!! 呪ってやる!! 呪って!! 苦しめて!! 痛め付けて生きてきた事を後悔させてから殺してやる!!』


 その言葉が聞こえた数秒後に目の前に映像が映し出された。


 黒い髪の毛の幼い可愛らしい女の子。


 艶やかな黒髪をした整った顔立ちの女性。


 ひょろっとした体型の優しい顔をした男性。


 その3人が多くの人々に囲まれて木の棒や鍬で殴られていた光景。


 女の子も女性も男性も動けないように縄で縛り上げられていた。人々は身動きが取れない彼等を殴り付け、木の棒や鍬で叩き、罵声を浴びせている。


 男も女も痛みに苦しみがら死に絶えた時、女の子は叫んだ。


 『お前達を私は絶対に許さない!! みんな呪い殺してやる!!』


 女の子はそう言った後、ナタで首を切り落とされた。


 なんとも胸糞悪くなる光景だ!!


 そして、僕は助けたいと思うのに!!


 僕は見ている事しか出来ない!!


 どうしてだよ!?


 どうして僕はその場にいてあげられない!?


 なんで僕はその場にいてあげられなかった!?











 気が付くと木製の建物の中にいた。見た感じ廊下か。


コウ

「ここが異界ってやつかー。なんか時代劇で出てきそうな和式の廊下だなー。木材の隙間から差し込んでくる日の光からして夕方かー? さっきまで夜だったはずなのによー」


 さっきの声と映像はなんだったんだ?


 そしてなんで僕は『その場にいてあげられなかった』って思ったのだろうか?


鉄也

「コウ。姉さん。ここに入ってくる途中に何か変な声が聞いたり、何か映像みたいなモノは見たりした?」


コウ

「ん? いや、見てないなー」


アルト

「私も見てないよ」


鉄也

「……」


 僕しか見たり、聞いたりしていないのか?


アルト

「鉄也は何か見たり、聞いたりしたの?」


鉄也

「……気の所為だったのかな?」


 『異界を作るタイプの能力者』とは何回か戦う事があった、異界に入り込んだ事もあったけど……。


 さっきみたいな声が聞こえたり、映像が見えたりしたのは今回が初めての経験だ。


コウ

「それでー? 『異界を作るタイプの能力者』の仕業かー? この現象はよー」


鉄也

「それは間違いないよ。けど、今回の失踪事件と関係あるかはわからない」


コウ

「それでよー? なんか策はあるのかー?」


鉄也

「基本的には戦わない事だよ。『異界を作るタイプの能力者』は自分の作り出した空間にいる間は基本的には何をしても死なないし、殺せない。どれほどダメージを与えたとしても自分の作り出した空間にいる限り、どんな傷も癒える」


コウ

「っ!? それじゃ勝ち目がねぇじゃねぇか!!」


鉄也

「だから基本的には戦わない。こっちのスタミナを減らされるだけだから」


コウ

「なら逃げ回るしかねぇのかよ」


鉄也

「そうだね」


 『異界を作るタイプの能力者』が自身の作り出した空間にいる時に倒す方法はある。


 だがいろいろと面倒なのだ。


 だから基本的には相手の作り出した空間にいる敵とは戦わない方がいい。


鉄也

「『異界を作るタイプの能力者』の最も有効的な倒した方はなんらかの方法で異界から引き摺り出して、相手を殺す勢いでぶん殴る事だ」


コウ

「ならなんでわざわざ異界に入ったんだよ?」


鉄也

「この異界を作った奴が今回の失踪事件に何か関わりがあるか調べないといけないから。まぁ、異界を長い時間出せる奴なんてそうそういないから短ければ1時間。長ければ2日で異界は消滅すると思う。まぁ、能力者の実力と条件さえ揃えばかなり長い時間出せるらしいけど」


 『異界』を作り出し、維持するのは相当なエネルギーを消費する。僕のエネルギー量と『ファントム・マジシャン』を使ってもそんなに長い時間は出していられない。精々5時間が限界だ。


 僕は通常の能力者のエネルギー量より500倍以上のエネルギーがあるらしい。『ファントム・マジシャン』はかなりなんでも出来る能力だ。それでもそれほど長い間は出していられない。


 ちなみに『異界』を長時間出して維持する方法は能力によって異なるが、大抵は異界を出した場所になんらかの理由でエネルギーが集まりやすい所である場合が多い。


 その事を踏まえるとそんなに長い事、異界は出していられないはずだ。


コウ

「ちなみに異界が消滅したらどうなるんだ?」


鉄也

「元いた場所に強制的に出される。異界に入り込んだ物とかも全部出されるはずだよ」


コウ

「うーん……。まぁ、とりあえず探索してみるか。出口も探さないとならないし」


鉄也

「まぁ、仮に出口が無かったり、長時間異界に閉じ込められたとしても脱出する方法はあるからヤバイと思ったらすぐに逃げれるんだけどね」


コウ

「おー。そういえば鉄也は時空間移動する技があったなー。すっかり忘れていた」


 『ファントム・マジシャン』の能力技『銀星ぎんせい』。この技は僕の能力を銀色の球体に変化させ、それに僕のエネルギーを流し込む事により効果を発揮する。僕が1度でも行った事がある場所、知識で知っている場所、知り合いのいる場所に時空間のトンネルを作り出し瞬間移動する。


 この技を使用すれば地球の裏側に移動する事すら可能だし、この技を応用すれば一瞬で相手の背後を取る事も可能だ。


 移動だけでなく戦闘でも応用が効く。僕のとっておきの技の1つだ。


 まぁ、この技があったから上司に世界中に行かされて様々な仕事を押し付けられたりしたけど……。


 今思い返せば、『ファントム・マジシャン』に文字の読み書きや言語を理解する力がなかったら本当に困る仕事ばかりだったなぁ。


コウ

「まぁ、その力があったから英語のテストはいつも満点なんだから別にいいんじゃねーかー?」


鉄也

「……コウ。さらっと僕の心を読むのやめてもらえない?てか読心術はどこで会得したの?」


コウ

「レンタルDVDショップで会得した」


鉄也

「レンタルDVDショップにはそんな力ありませんよ。まぁとにかく調査開始するか」



 僕等は異界を探索し始めた。


ーオマケー


ゴリラ

「鉄也はどこだ!?」


白桜

「ん? あぁ、ゴリオくんじゃないか」


ゴリラ

「うをぉっ!? 久々に名前で呼ばれた!? って!? 白桜様!? なんでこんな所に!?」


白桜

「ちょっと気になる子達がいてね」


ゴリラ

「白桜様、今回は何を企んでいるのですか?」


白桜

「いや、別に。僕はただ……あの子を救える子達かなって思ってね」


ゴリラ

「鉄也達に何か試練でも与えたんですか?」


白桜

「まぁ、ヤバくなったら助けるつもりだけどね」


ゴリラ

「白桜様が無償で誰かを救うなんてするとは思えませんけど?」


白桜

「まぁ、お手並み拝見しているところさ」


ゴリラ

「……まったく神様の考える事はわからねぇよ」


白桜

「正確にはこの世界の創造主だけどね」

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