バトルスタート

すけきよV

バトルスタート

 俺はマダノン・ケイ、修行の旅を続ける武闘家だ。

 今日はとうとう世界中の武闘家、特に肉弾系格闘家の漢たちが集まるというアチョの街にやってきた。

 どこに格闘場があるのかわからないので人通りの多い道を進む。人の集まるところには格闘家がいるに違いない。


 しばらく歩くと「こってりスッキリ格闘SHOW! ヤりたいアナタも飛び入りOK!」という看板が見えてきた。

 見世物にされるのはあまり好きではないが、これまでもそういったものに出たことはある。とりあえずここに入ってみよう。


「やあ、にいさん、いい体してるね。観る方かい? ヤる方かい?」

「闘る方だ」

「じゃあ1000トルもらうよ」

「ああ」

「このまま下へ降りて、案内の者にこのチケットを渡してくれ」


 参加料が1000トルということは結構な人気ショーなんだろう。

 帝国格闘大会の各地区予選登録でも10トルだし、地区予選を勝ち抜いて王者決定戦に出るには100トルかかる。

 後ろから聞こえてきた「観る方」の料金も100トルらしい。結構な金額だ。高級酒場でたらふく飲み食いして高級宿に一泊できる。


「チケットを」

「うむ」

「こちらの奥の部屋で準備を」


 案内の者と言ったが、そこらの格闘家が暴れても抑えられるような巨体の不愛想な男が立っていた。なかなか強そうだ。


 奥へ進むと一つだけドアがあり、「控室」と書いてある。中からは強者の匂いが漂ってくる。

 意を決してドアを開けると、そこには様々な個性の格闘家たちが睨みを利かせていた。眼つきがギラギラして今にも襲い掛からんばかりの雄の匂いを発している。

 そこへ入っていくのはなかなか抵抗があったが、帝国格闘大会の王者決定戦の控室を思い出せばどうということもない。


 中へ入り落ち着いて周りを見渡すと、奥の中央に小柄な白い格闘服の少年がおり、男たちはそれを取り囲むようにしている。

 近くにいた男に聞いてみると彼はここのスターなんだそうだ。

 それほど強くは見えないがなにかしらの隠し玉があるのだろう。油断はできない。


 しばらくして再びドアが開き、体にピッチリ合った黒い服の少年が入ってきた。

 少年はそのまま堂々と白い少年の前まで歩き、宣言した。


「今日はお前を昇天させるために来た。覚悟しろ」


 周りは騒めいたが、白い少年はふっと笑みを浮かべると、ゆったりと立ち上がった。


「君が僕の技術に敵うのか? 楽しみだね」


 二人は部屋の中央に歩み出るとお互いを指さしてこう言った。


「まずは小手調べだ。本番の前に少し体を温めなきゃね」


 これは止めなくていいのだろうか。控室内での戦闘はたいてい禁止されている。

 周りを見ると静観の様子、いや、どちらかというと注目を集めている感じだ。

 ここのしきたりはまだわからない。少し様子を見よう。


「最初は筋肉チェックだ。俺が先でいいな」


 黒が言うと、白は笑って、どうぞ、と応えた。

 筋肉チェックとは何をするのか。

 少なくとも喧嘩が始まるような様子はないし、周りも止めないので、これは正常な手順なのかもしれない。


 白よりも少し背の高い黒は、白の正面からわきの下に両腕を潜り込ませ、そのまま背中に手を回した。

 ぎゅっと抱きしめると白が「むふっ」と息を吐いた。

 それから黒は好きなだけ白の背中や肩やわき腹などをまさぐった。白はプルプル震えながら「ふっ、ぁ、はぁ」などと息を漏らしている。


「なあ、あれはなにをやっているんだ?」


 近くの男に尋ねた。


「うるさいな、よく見てみろ。貴重な光景だぞ。黒いのはいま弱点を探っているんだ」

「ほう、あれで弱点がわかるのか。というよりそれを許すとは白は相当余裕なのだな」

「おい、あれで余裕があるように見えるのか? 結構ギリギリだぞ」


 そうか、余裕があるように見せかけて相手の油断を誘うとは。

 そのうち黒は背中に回した手を少しずつ下の方に降ろした。

 腰回りをぐいっと抱きしめると白の体が浮く。


「ぁ、」


 白は黒の首に腕を回して抱き着き、バランスをとっているようだ。

 黒はそのまま腰周りを撫で回し、尻を掴んで揉みしだき、最後にペチっと叩いた。


「うん、張りもあるし、なんかいい匂いがする」

「んっ……はぁ、はぁ、今度は僕の番だよ」


 ようやく下に降ろされた白はそう言って、同じように黒に抱き着き、いろいろまさぐっていたが、すっと腰を落として黒の胸からわき腹に顔を擦り付けた。


「うはっ、それちょ、だめぇ」

「ふふっ、君もいい匂いがするし、腹筋もいい感じだ」


 黒と白はなんだか認め合ったようである。


「なあ、あれは結局どうなったんだ?」


 近くの男に尋ね……ようとしたが、彼は蹲っていた。


「おいどうしたんだ?」

「はぁ、はぁ、いいもの見たぜ。俺も観客席にしとけばよかったかな?」


 男は鼻血を流しながら息を荒げていた。なにがあった。


 黒と白はお互いに右手で指差して高らかに宣言した。


「しかしお前の弱点はすべてお見通しだ!」

「でも君の弱いとこは全部把握したよ!」


 そしてそのまま右手の人差し指で相手の左乳首をピンっと跳ねた。


「はうっ」

「あんっ」


 それから右腕をお互いの首に回すと、左手で右乳首をピロピロリと弾いた。


「やあっ」

「おぁふ」


 なんなんだ。

 二人はそのままもつれるように崩れ落ち、乳首を弄っている。


「おい、これはどうなんだ?」

「ああ、最高だよぅ」


 男は鼻血が噴き出るのも構わずギラギラした目で二人を見つめている。瞬きもしない。

 周りを見渡すと結構な人数の男たちが同じような状況になっている。

 そのときドアが開いて係の者が入ってきた。


「白狼さんと黒猫さん、出番ですよ。準備はいいですか?」

「はぁ~い!」

「よっしゃ!」


 係員に連れられて二人が出て行ったあと、部屋の中は急に騒めきだした。


「狼と猫だとぉ?! どっちがどうなるんだ?」

「黒の方がガタイがよさそうだったが、……アリだな」

「白の奴は結構どっちも好きだからな」

「はぁ、可愛いよぅ、黒猫たん」


 なんだかよくわからないが、名乗りに関して話し合っているらしい。

 たしかにちょっと黒猫は意外だった。格闘家ならもっと強そうな名乗りをするものだろう。黒豹とかならわかるんだが。

 それにしてもそこまで盛り上がるものだろうか。


「なあ、なぜこいつらはこんなに興奮してるんだ?」

「おいおい、いまの見てなかったのか?! ああ控室じゃ本番が観れないからなぁ……」


 よっぽど彼らの試合が観たかったらしい。いまからでも遅くないんじゃないか?

 まあ、俺は闘う方が好きだからこのまま出番を待つとしよう。


 そこに係の者がやってきて告げた。


「次はそこの黄色い覆面の男さんと、えーとあなた、マダノン・ケイさんです。準備しておいてください」


 すると向こうの柱の陰で倒れていた黄色い覆面の下半分を鼻血で染めた男がむくりと起き上がって近づいてきた。

 全身ムキムキで黒く焼けた肌は脂でも塗り込んだかのようにテカテカ輝っている。

 近くに来るとむわっと男の匂いがしてむせ返りそうだ。

 そして男は言った。


「俺たちも筋肉チェックからヤろうか」


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