- 幕間 - お宅訪問(その2)

以前、師匠の悪い噂を聞いた時に"とんでもない奴"だと思ったけど、それはある意味間違っていなかったのだと思う。


「皆さんと言っても、ここでお兄さまとご一緒させて頂いているのは、私たち四人だけですけどね。」

「じゃあ、他の人たちとは別の場所でってことなんですね。」

「どうでしょう、お兄さまが皆さんとどのように過ごされていらっしゃるのかまでは分かりませんので。」

「え、そうなんですか?」


 わたしが彼女たちと同じ立場なら、彼氏が他の恋人たちと何をしているのかが気になって聞き出そうとするだろう。

ひょっとしたら、胸ぐらを掴んで問い詰めてしまうかも知れない。

そんなことをすれば、ギスギスするのは確定だけど…


「師匠に聞いたりしないんですか?」

「お兄さまがお話しくださることはありますけど、こちらから伺うことは余りありませんね。」

「女性同士で情報交換することはありますよ? でも、悠樹は私たちがそれぞれ望む形で接してくれるし愛してくれますから、結局、悠樹が優しくて甘いって話にしかならないんです。」


「なんか、想像がつかないんですけど…」


 自分に合った女性を選んで恋人にするんじゃなくて、好きになった女性に合わせて恋人になると言うことなのだと思うけど、複数の女性に対して同時にそうしているなど、やはり師匠は只者ではない。


「城之崎さんも体験してみれば分かりますよ?」

「へ? それって、どう言う…」


「あれ? 三人とも、まだシャワー使ってなかったんだ。」


 わたしたちの後にシャワーを使うことになっている師匠が顔を出した。

わたしたちは随分と長話をしていたようだ。


「すみません、すぐに…」

「あ、悠樹、丁度よかった。悠樹も一緒にシャワーに入らない?」

「か、神崎先輩?!」


 待たせては申し訳ないので直ぐにシャワーを浴びることを告げようとしたところで、神崎先輩がとんでもないことを言い出し…


「りおんさん? お兄いさまの手管を学ばれるのであれば、身をもって知って頂くのが一番だと思いますよ?」

「アデラインさんまで?!」


アデラインさんが耳元で悪戯っぽく囁きかける。


「うん、良いよ? それじゃあ、とっとと入っちゃおうか。」

「ちょっと待ってー?!」


 更には師匠が目の前でシャツを脱ぎ出そうとするので、そうはさせじと咄嗟に飛びついたまでは良かったのだが…


「くすっ、りおんちゃん、積極的にアタックしてくれるのは嬉しいけど、俺は女性じゃないからね?」

「へ?」


気づけばわたしは師匠に抱きついていた。


「うひゃー?! ごめんなさいー!って、うわっ?!」

「りおんちゃん!」


 動揺したわたしは慌てて彼から離れようとしてバランスを崩し、後ろにひっくり返ってしまった。

けれど、体を床に打ち付けることはなかった。

師匠がすんでの所で抱き止めてくれたのだ。


「間に合って良かった。大丈夫?」

「ひゃ、ひゃい…」


 師匠に抱き竦められて、わたしは訳も分からずドギマギするばかり。

心配する彼の問いかけにさえ、まともに返事ができないとは…

図らずも、わたしは身をもって師匠の手管を知ることが出来たようだ。


「(これが誑しの真骨頂と言うことか…)」


 わたしは師匠の腕の中で、顔を真っ赤にしながら、そんなことをぼんやりと考えていた。


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