幕間

- 幕間 - お宅訪問(その1)

「く〜、きっつ〜、もうだめ〜」

「もうちょっと頑張ろうか、あと30秒。」

「ぐぎぎ〜〜〜」


 夏休みも残すところ10日となった月曜日の朝早く、わたしこと城之崎りおんは、誑しの師匠として崇める御善悠樹先輩のご指導の下、御善家のリビングで筋トレに励んでいた。


「よし、そこまで。」

「だあぁ〜〜〜」(ドサッ)

「2分休憩したら、次はスクワットだからね。」

「うえ〜、分かりました〜」


 先週の旅行からの帰り道、師匠のような立派なハーレム主になるには生活習慣から倣うべきではないかと思い立った。

ダメ元で彼に相談したところ1日限りという条件付きで御善家での生活を体験させてもらえることになり、約束の今日、美少女たちとのラブラブ甘々な触れ合いを期待しながら喜び勇んでお宅に伺ったのに、まさかいきなり筋トレをさせられるとは…


「はあ、ふう、はあ、ふう…」

「うん、ここまでにしようか。頑張ったね、お疲れさま。」

「はあ〜、ありがとうございました〜」


 器具を使わずに休憩込みで30分とは言え、普段やり慣れないわたしにとってはキツいのなんのって。

疲れ切ったわたしは師匠の終わりの合図と共に、その場にへたり込んでしまった。


「ほら、りおんちゃん、掴まって。ソファーに座った方が体が楽になるよ?」


 カーペットにだらしなく座り込んだわたしに師匠が文字どおり手を差し伸べてくれたので、何も考えずに両手を差し出した。

すると彼はクスリと笑い、わたしの両脇に手を差し入れて体をヒョイと持ち上げ、そのまま軽々とソファーまで運んでくれたのだ。

わたしはどうして良いか分からずドギマギするばかりだ。


「へ? わ、いや、うえぇっ?!」

「今飲み物を取ってくるから、ここで休んでてね。」


 そんな心中しんちゅうを知ってか知らずか、師匠はわたしの頭をふわりとひと撫でしてからリビングを出ていってしまう。

わたしは顔を真っ赤にしながら、半ば放心状態で彼の背中を見送っていた。




「うわっ、ひっろ!」


 御善家の浴室のドアを開けた途端、思わず大声を上げていた。

先週伺った清澄邸の大浴場も桁外れだったけど、一般家庭でこれほど広い浴室は見たことがない。


「本当に広いですよね。私も初めて使わせて頂いた時は驚きました。」

「シャワーが3つあるので、三人が一度に体を洗えるんですよ?」


 わたしの後ろには師匠の義妹にして彼の恋人の一人、御善アデラインさんと、師匠に次ぐ2年生の成績第2位にして同じく彼の恋人、神崎愛花先輩が立っていた。

先ほどトレーニングで一汗かいたわたしは、これから御善ハーレムが誇る美少女二人と一緒にシャワーを使わせてもらうことになったのだ。


「師匠はいつもここで皆さんと入浴してるんですね…」


 清澄邸のパジャマパーティーでこの話題が出た時、目を丸くしたのはわたしと奥寺先輩の二人だけだった。

師匠と同棲している清澄彩菜さん・涼菜さん姉妹と神崎さん、半同棲のアデラインさんは言うまでもなく、御善ハーレムの女性たちにとっては最早当たり前という雰囲気だったことに更に驚かされた。


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