第155話 適材適所
七草の節句の翌日、祖父から電話をもらった。
新年の挨拶に続いて、彼の再婚相手との顔合わせについて話があった。
「うちへ来てくれるのは構わないけど、本当に俺の料理で良いのか?」
『以前、お前の腕前の話をしたのを
祖父のお相手と会うにあたっては、こちらから出向くつもりでいたのだが、彼方からリクエストがあって、我が家で食事をしながらということになった。
どのようなものを用意すれば良いかと問うと、何でも良いという料理を作る人間にとって最も厄介な注文を受けてしまった。
「じゃあ、好きにさせてもらうけど、子供も一緒なんだよな、食べられないものはないのか? あと、呑むんなら、自分たちで用意してくれ。」
『二人とも好き嫌いはないようだから、心配いらないだろう、刺身も大丈夫だ。それと、酒は呑まないよ、昼間だし、車で行くからな。』
「分かった、こっちは三人同席させるけど、それは良いんだよな。」
『ああ、それは承知してるよ、流石に彼方は驚いてたけどな、これからのことを考えれば、隠し立てしても仕方なかろう。』
祖父がどのように説明したのかは分からないが、俺には恋人が三人いるという事実は動かしようがない。
その事実が知れることによって祖父の再婚に影響が出るようなら、何としても隠そうとするだろうが、そうでなければ堂々と紹介させてもらうだけだ。
この後、二言三言話をして、祖父との通話を終えた。
結局、会食は来週日曜日の昼頃となり、祖父の側が三名、こちらが四名の計七名で食卓を囲むことになった。
この人数の食事を用意して、更に彼方さんと会話をしながらとなると、結構骨が折れそうだ。
「私と涼菜さんが、お手伝いしましょうか。」
「ゆうくんが作って、あたしたちが配膳して片付けるのが良いかも。」
「それだと、食卓が慌ただしくなるから、纏めて出して一気に片付けられるメニューにするのが良いかもな。」
「あのー…」
「でも、そうすると、品数が少なくなっちゃいますね。」
「あー、ゆうくん、品数多めにするの、好きだもんねー」
「そうだけど、今回ばかりは、しょうがないんじゃないか? 折角食べたいって言ってくれてる彼方さんには申し訳ないけどな。」
「お話中ですけど…」
「小鉢や小皿をたくさん用意して、ミニ懐石風にするのはどうですか?」
「それ良いかも、それなら品数多くても、一度に並べられるし。」
「そうだな、その方向でメニューを考えてみるか。」
「私は何をすれば…」
俺が涼菜、愛花と会食時の準備について相談していると、あらかじめ戦力外通告しておいた彩菜が隣で何やらブツブツと呟いている。
取り敢えず、食事の方向性が決まったのと、これ以上放っておくと彼女が拗ねてしまいそうなので、話を聞いてあげることにした。
「お待たせ、あや、どうした、何か用か?」
「ふえ〜ん、ゆう〜、私だけ、除け者にしないでよ〜」
「よしよし、除け者になんてしてないよ、ちゃんとお前にも役割はあるしな。」
俺の右腕にしがみついて体を悩ましく
「お前には、ホストのパートナーとして、場を華やかにして、かつ和ませるという大役を担ってもらう。大切なお客様をもてなすためには、清楚で知的な佇まいの美人が話し相手になってくれないとな。」
「私が…、ホストのパートナー…?」
「そうだよ、お前にしか出来ないだろ?」
「えへ、えへへ、そうだよね、私、ゆうのパートナーだもんね♪」
「ああ、任せて良いよな?」
彩菜の頭を撫でていた手を頬に移して微笑みを向けると、彼女は大輪の花のような笑顔を咲かせ…
「うん、任せてよ! 私、頑張る!」
その様子を見ていた涼菜と愛花から一言もらった。
「あやねえ…」「彩菜さん…」
「「ちょろい!」」
「ふえ〜っ?!」
その日の深夜、三人の恋人と一頻り睦み合い、トリを取った彩菜と二人で余韻に浸っていた。
彼女は仰向けになっている俺の胸にぴたりと頬を重ね、目を閉じて繰り返し発せられる心音に耳を傾けていた。
「ねえ、ゆう…」
「うん、どうした?」
「すず、最近、落ち着いてるね。」
昨年7月に大きな揺れが出て以来、涼菜の発作はすっかり鳴りを潜めている。
それ以前は、周期は決まっていないものの、時折小さな揺れを感じられることがあり、その都度スキンシップを図ることで彼女の苦しみを散らしてきた。
しかし、ここ半年余りは、涼菜の苦しみに至る兆候を見ることがなかったのだ。
「同居の効果があったのなら、嬉しいな。すずが苦しまなくて済むのが一番だからな。」
俺と彩菜、涼菜が同居することになった2つの理由のうち、俺の発作については、まだ多少の不安はあるものの、清澄姉妹の献身的な支えによって、ほぼ改善されたと思っている。
けれど、涼菜の状態については未知の部分が多くあり、改善に向かっているのかどうかさえ判断がつかないのだ。
「あの子自身が、分からないんじゃね…」
「仕方ないよ、何かあれば、俺が直ぐに対処する。」
今、俺たちに出来ることは、涼菜にストレスを与えないこと、ストレッサーがあれば排除すること、そして、彼女に兆候が見られればしっかりと癒すことに尽きるのだ。
「ゆう、あの子のこと、見ていてあげて? あの子には、ゆうしか居ないの…」
「ああ、誓うよ、俺はすずを離さない、どんなことがあってもな。」
俺と彩菜は、ベッドの片隅で体を小さく丸めて眠っている、愛おしい15歳の少女に視線を送っていた。
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