第121話 宿泊準備

 勤労感謝の日の昼前、我が家は可愛いお客さまを迎えていた。


「ありがとうございます、重たかったですよね。」

「俺は大丈夫だけど、愛花こそ、キャリーケースのキャスター、壊れなかった?」


 今週、金曜日の放課後から月曜日の朝まで、愛花が3泊4日の長いお泊まりをすることになった。

最終日の月曜日は朝、我が家から直接学園に登校することにしたので、自ずと金曜日は制服のまま来てもらうことになる。

ただ、流石に3泊分の着替えなどを携えて学園を行き来する訳には行かないので、今日予めうちに持ち込んでおいて、火曜日の夕方に持ち帰ることにしたのだ。

ちなみに、月曜日の夕方に持ち帰らないのは、俺が司書当番なので荷物運びの人足がいないためだ。


 ところで、なぜ愛花が我が家に修学旅行並みの長期お泊まりをするかと言うと、理由は2つある。

1つ目は、愛花が以前から俺と清澄姉妹が一つ屋根の下でどのような生活をしているのか興味を持っていて、特に夕方以降の様子に興味津々だったので、ならば実際に見てもらおうと言うことになったのだ。

そして、2つ目は、俺と愛花が二人っきりでイチャイチャする時間がなかなか作れないので、出来れば、夜を含めてゆっくり過ごしたいと思ったからだ。


 ならば、1泊でも良いのでは? と言うご意見もあるだろう。

そうしなかったことにも訳があるのだが、それはおいおい分かることなので、この場では割愛させていただく。




 荷物を別室に運び入れてから、四人で昼御飯を食べながら暫し歓談していた。

今日は海老ピラフと野菜サラダを用意した、ピラフは食材を準備して炊飯器で炊くだけなので意外と手間がかからないのだ。


「愛花ちゃん、ご両親は何か言ってなかった?」

「はい、流石にお付き合いを始めて、いきなりお泊まりには驚いてましたけど、自分たちに面倒がなければ、それで良い人たちですから。」

「日曜日に挨拶に行った時も、そんな感じだったよね。」


 愛花を見舞った翌日、彼女の家族に付き合い始めたことを報告した。

愛花の両親は顔を合わせて切り出した時こそ目を丸くしていたものの、直ぐに興味を失ったように席を外してしまった。

これには愛花と京悟くんが恐縮していたけれど、事前情報から予測できたことなので、そんなものだろうなと思った程度だった。


「多分、明日から同棲すると言っても、気にしないんじゃないかと思いますね。」

「愛花、そのことで話したいことがあるんだ。」

「そのこと、ですか?」

「同棲のこと。」


 愛花を見舞って帰宅してから、彩菜と涼菜に彼女の病状を話した後、愛花と付き合い始めたことを報告し、将来的に我が家に住まわせたいと相談した。

姉妹は祝福してくれると共に、将来のことについても賛同してくれていた。

ただ、課題もある。


「この家は俺の実家だけど、今は俺の爺さんのものだから、勝手なことは出来ない。彩菜と涼菜の両親にも支援を受けているし、俺を信頼して二人を預けてくれているから、きみのことを認めてもらう必要がある。」

「ゆうのお爺さんのことは、ゆうに話してもらうし、私たちの親には私たちが話すけど、どっちもこれからだから、どのくらい時間がかかるか分からないの。」

「きみの家族のこともあるし、どのみち直ぐという訳には行かないと思うんだ。」

「そうですね、君やお二人と一緒に暮らせるのは嬉しいですけど、お話のとおりだと思います。」


 俺たちはまだ保護者が必要な年齢で、彼らの庇護のもとで生活している。

それを蔑ろにすれば、当然、何かしらの報いを受けることになる。


「だから、今はまだ出来ないけど、18歳になれば違ってくると思うんだ。」

「それなら、大学進学の時が良いかも知れませんね、もしも遠方なら、部屋を借りることになるでしょうし。」

「そう言うこと、その時を目標にして外堀を埋めて、きみをこの家に招きたいんだけど、受けてもらえないだろうか。」

「はい、元々叶わないと思っていたことですから、待つことくらいどうってことありません。うちの親へは時機が来たら私から話をしますね。」


 愛花はきっと俺たちの申し出を受けてくれると思ってはいたのだが、やはり本人の口から返答をもらうまでは不安もあった。

こうして笑顔で楽しみしていることを示してもらえると、ホッとすると共にしっかりと準備をしなければいけないと気が引き締まる。

 俺の祖父へは近々あちらから再婚について何かしら話があるだろうから、その機会に相談することにしようと思う。


「ゆうくん、お部屋のこと話しちゃって良い?」

「ああ、頼むよ、すず。」

「はい。愛花さん、お泊まりの時のお部屋なんですけどね、ちょっと狭いんです。」

「どれくらいの広さなんですか?」

「フローリングなんですけど、5畳くらいです。大丈夫ですか? 狭かったら、あたしと替えても良いですよ?」

「ひょっとして、さっき荷物を置いた2階の部屋ですか? それなら大丈夫ですけど…」

「そうです。まだ家具がないですけど、大学進学の時までには用意しますね。」

「家具はこちらで何とかしますから、大丈夫です。でも、そうすると、暫くはうちから使っていない布団を持ってこないといけないですね。どうしましょう。」

「それは必要ないよ。」

「あ、お借りできるんですか? それは助かります。」

「そうじゃなくて、俺のベッドで一緒に寝てもらうから。」

「ああ、なるほど…って、いきなり一緒にですか?!」

「うん、四人でね。」

「え? 四人…、ってことは、彩菜さんと涼菜さんもですか?」

「俺たち、いつも三人で寝てるんだよ。」


愛花は目を丸くして、若干引き気味になっていた。


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