第67話 天使が生まれた日
「ただいま。愛花さん、どうぞ上がって。」
「はい、お邪魔します。」
「愛花ちゃん、いらっしゃい。」
「愛花さん、お久しぶりですー♪」
清澄家と御善家の墓参りをした翌週の月曜日、愛花さんと二人で彼女お気に入りのケーキ屋に足を運んだ。
以前、愛花さんが買ってきてくれたケーキが美味かったので、ぜひ他のものも試してみたいと彼女に連れて行ってもらったのだ。
愛花さんがお気に入りと言うだけあって店員と顔見知りだったからだろう、俺を連れて店を訪れた彼女に店員が目を丸くして、オーダー取りそっちのけで二人の関係を追求して来たのには少々驚いたけれど、俺も愛花さんも柳に風に徹して、無事数種類のケーキを購入することが出来た。
「愛花さん、アイスコーヒーとアイスティー、どっちが良いですか?」
「私はアイスティーをお願いします。」
「はーい、少々お待ちくださーい♪」
好みに応じてどちらでも楽しめるように、あらかじめ2種類の飲み物を用意しておいた。
ちなみに、彩菜はアイスティーを、俺と涼菜はアイスコーヒーを選んだ。
買ってきたケーキはどれも程良く上品な甘さのものばかりで、幾つでも食べられそうな気がした。
何種類かのケーキを皆で少しずつ分け合って食べたのだが、女子三人が食べるときは俺が一口ずつ口に運ぶことになった。
清澄姉妹にはいつものことなのだけれど、今回は愛花さんまでノリノリで可愛い口を開けて待っていた。
「愛花さん、仕草がだんだん、あやとすずに似て来たんじゃない? 清澄家の末の妹みたいだよ。」
「ふふ、こんなに可愛い妹なら大歓迎ね。」
「愛花さんが末の妹ってことは、あたしがお姉さんってことだよね?」
「嬉しいんですけど、見た目が末っ子ってことですよね。なんか複雑です…」
愛花さんが本当に複雑そうな表情をしているのを見て、俺たちは思わず笑いだしてしまった。
彼女は頬を膨らませて不満を表したものの、結局、苦笑いとも照れ笑いともつかない笑みを浮かべて俺たちを和ませてくれた。
「愛花さん、ありがとう。どれも美味かったよ。」
「喜んでもらえて嬉しいです。紹介した甲斐がありましたね。」
自分が紹介したものが好評だったからだろう、愛花さんはご満悦のようだ。
彩菜もとても気に入ったようで、掌をパンと合わせて一つ提案をしてきた。
「ホントに美味しかったね。そうだ、すずの誕生日にはここにケーキを頼もうか。」
「そうだな、すずはどうだ?」
「うん、それすっごく嬉しい! 今から楽しみ♪」
涼菜は本当に楽しみにしているようで、満面の笑みで喜んでいる。
俺たち三人が笑顔を寄せ合っていると、愛花さんが尋ねてきた。
「涼菜さん、お誕生日が近いんですね。いつなんですか?」
「9月10日です。もうすぐ15歳になるんですよー」
「再来週なんですね。ぜひ私にもお祝いさせてください。」
「はい、嬉しいです。ゆうくん、あやねえ、良いよね?」
「ああ、もちろん。」
「うん、愛花ちゃん、ぜひお祝いに来てね。」
「ふふ、ありがとうございます。そっかあ、私、少しの間、涼菜さんと同い年になるんですねぇ。」
「愛花さんのお誕生日はいつなんですか?」
「私、12月24日生まれなんです。」
「わー、クリスマスイブじゃないですかー、素敵ですね♪」
「皆さんそう言うんですけどね、そうでもないんですよ。」
愛花さんによると、誕生日とクリスマスイブが一緒なので、幼い頃から家族で祝うパーティーは1回で済まされてしまい、プレゼントも一つしかもらえなかったのだそうだ。
そしてそれは、今も続いているらしい。
「京悟も私のとばっちりで、毎年、クリスマスプレゼントがもらえなくて、小さい時はとても恨まれました。」
友人たちにクリスマスパーティーに誘われても断ることが多く、参加することになったとしても自分の誕生日であることは言い出し難かったようで、結局、仲の良い友人たちにも祝福されたことがないのだという。
物悲しい話に俺と清澄姉妹が口を挟めずにいると、愛花さんは慌てて言葉を繋いだ。
「す、すみません、変な話をしてしまって。今は気にしてませんので、どうか忘れてください。」
そう言って愛花さんは笑顔を見せるけれど、特に友人たちとの話をしている時の彼女からは寂寥の色が見てとれた。
心の内では、やはり寂しさを拭えないのだろう。
そんな愛花さんの様子に、俺は思わず言葉を投げかけていた。
「愛花さん、今年のきみの誕生日なんだけど、俺たちにもお祝いさせてもらえないかな、もちろん、家族のお祝いとは別にね。」
「そうだね、そうしようよ。ちょっとだけ日にちをずらして、みんなでお祝いするの。」
「それ賛成! ね、愛花さん、そうしましょう!」
俺の提案に清澄姉妹はもろてを挙げて賛同してくれた。
唐突な話に、愛花さんは目を丸くして戸惑っている。
「え? え? 嬉しいですけど、本当に良いんですか?」
「もちろんですよ! 可愛い妹のお誕生日ですから!」
「そうね、可愛い可愛い妹のためだもの。」
「もう、恥ずかしいのでそれ以上可愛いって言わないでください。でも、ありがとうございます、本当に嬉しいです。」
そう言って、頬を桜色に染めながらふわりと笑顔を浮かべた愛花さんは、さながら天使のように可愛らしかった。
今年から12月24日は、天使の誕生日としてお祝いすることにしようと思う。
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