第61話 桃色三者会議

 別の子がおずおずと右手を上げて、次の質問をして来た。


「あのー、わたし、彼氏が居るんですけど、男女交際ってうるさそうですか?」

「どうだろう、気にしたことなかったけど…、あやはどうだ?」

「うーん、学園内で誰かが付き合ってるって話も聞こえてこないしねぇ。」


 学園の校則では不純異性交遊の禁止以外、明確に書かれたものはなかった筈だ。

彩菜と顔を合わせて思案していると、涼菜が助け舟を出してくれた。


「ゆうくんとあやねえって、学園でどんな風に過ごしてるの?」

「え? 俺たちは今と変わらないと思うけど。」

「うん、学園でもこんな感じだと思うよ? それがどうかしたの?」

「ってことみたいだよ?」

「分かった、大丈夫みたいでホッとしたよ。」


 質問した女の子は心底安心したように胸を撫で下ろしている。

俺と彩菜は再び顔を見合わせ、二人してぷっと吹き出してしまった。

自分たちが学園内でどのように見られているか、すっかり失念していた。


「そっか、ごめん、俺たちが学園から何も言われてないから、多分大丈夫だと思う。」

「ふふ、そうだね、ずっとくっ付いてても、廊下で手を繋いで歩いても平気だもの。」


 彩菜が手を握って来たので、彼女と視線を合わせて握り返す。

再び女子三人が黄色い声を上げた。


「「「きゃーっ」」」


「お兄さんとお姉さんって、校内でもそんなにラブラブなんですかー」

「でも、去年は涼菜もお兄さんとそんな感じだったよねー」

「俺たちにとっては普通のことなんだけどね。」

「そうだよー、うちに居る時はもっとくっ付いてるしねー♪」


 涼菜が抱きついて来たので左手を上げて胸に受け入れる。

彼女の頭に手を下ろして軽く撫でてあげた。


「よしよし、すずは可愛いな。」

「えへへ、ゆうくん、大好きー♪」

「「「うわーっ」」」


涼菜の様子を見た女子三人からは黄色い声ではなく、大変なものを見てしまったというような引き気味の声が漏れ出ていた。


「なんか、涼菜とお兄さんの好き好きっぷりがパワーアップしてない?」

「うん、これは去年の比じゃないね、既に相当ヤバいレベル。」

「お兄さんって、涼菜のうちでもそんなにベタベタなんですか?」

「いや、流石に親の前じゃ…「今あたしたちだけで一緒に住んでるから、いつもはもっと甘えちゃってるもん♪」

「「「えっ?」」」


 俺の返事に被せられた涼菜の言葉に、さらにドン引きする女子三人。

流石にこのまま涼菜には任せておけないと思ったのだろう、彩菜が話を引き取って説明を試みるも…


「あはは、あのね、私たち三人、ちょっと事情があって夏休みに入ってから共同生活を始めたの。この子、それが楽しくて仕方ないんだよねぇ。」

「あ、それって夏休み中だけってことですか、んー、それにしても…」

「親が隣に住んでるから、私たちも親も、安心して暮らせてるって感じなの。」

「でも、それって、夜はヤリたい放題ってことじゃ…」

「ちょっと、ストップ!」


 彩菜の若干苦しい説明に追及の手が伸びようとしたところで、最初に話し始めた子から静止がかかった。


「すみません、ちょっと中座しまーす。二人とも、こっち来て!」


彼女は他の二人を少し離れたところに連れて行き、ヒソヒソと内緒話を始めた。

以下は俺たちには聞こえない会話だ。



「このままじゃ収拾つかないから、ちょっと状況を整理しようよ。」

「うん、なんか妄想だけ広がって頭の中ピンクになっちゃう。」

「だね、でもどっから?」

「まず、お兄さんとお姉さんはどう見てもラブラブだよね。」

「うん、間違いない。」

「同意、あれがデキてなかったら変。」

「次に、涼菜はお兄さんにベタ惚れで、お兄さんも涼菜を可愛がってる。」

「うん、それも間違いない。」

「それも同意、あれも完全にデキてるね。」

「さらに、三人は夏休みに入ってから同棲してる。」

「うん、そう言ってた、もう半月は一緒に住んでるってことだよ。」

「つまり、毎晩ヤリ放題ってことだね。」

「と言うことは…」

「涼菜は大人の階段駆け登り!」「泥沼の三角関係!」「お兄さん絶倫!」


「「「……」」」


「まあ、アレだね、結局私たちがどうこう言っても、涼菜が良ければそれで良しってことにしかならないと思うんだけど。」

「うん、今は見守って、何かあったら話を聞いてあげるくらいなのかな。」

「そうだね、夜のことは後でじっくりと聞けば良いし。」

「あんた、そればっかりだよね。」

「でも、気になるよね?」

「そりゃまあ、ね?」

「うん、とっても。」

「二人とも、素直でよろしい。」

「取り敢えず、戻ろっか。あんまり待たせても悪いし。」



 女子三人の話し合いが終わったようで、皆こちらへ戻って来た。

何か成果はあったのだろうか。


「すみません、お待たせしました。」

「いや、こっちこそ、何かグダグダでごめんね。で、どうなったの?」

「はい、さっきの話は一旦保留にさせてください。後日、涼菜からじっくり聴き出しますので。」

「そ、そうなんだ、お手柔らかに頼むよ。」

「はい! それじゃあ、稜麗のことなんですけど…」


 その後、いくつか質疑応答があって、気が付いたら良い時刻になっていたので解散して帰路についた。

別れ際に女子三人が見せたニヤニヤ顔がやけに印象に残った。


「賑やかな子たちだったね。」

「うん、みんな楽しい子だよー」

「元気があってなによりだな。」


 家に帰り着いて冷たい飲み物を一杯いただいてから、直ぐに入浴の準備をした。

三人とも若干疲れが残っていて、早めに風呂に入って心身ともにリフレッシュしたかったからだ。


 いつものように三人でゆったりと入浴すると、心も体もしっかり解きほぐすことが出来た。

この後寝るまでの間、三人で心行くまでイチャイチャしたのは言うまでもない。


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