@panda1364

第1話 芸人としての自分

思えばこの道を志した頃からずっと壁に向かって生きている気がする。


なぜ壁に向かってネタ合わせをするんだろう。

お笑い芸人が本番の舞台に立つ前のネタ合わせ、練習。

皆誰に教わったわけでもなく壁に向かって行う。

劇場の壁、公園のブロック塀、ワンルームの黄ばんだ壁。

広い空間で練習すれば良いのに、舞台には壁はないのに…


そんな現実にある壁に向かって今日もくだらない事をがなり立てるそんな1人の芸人の物語。



「お願いします、若鍋プロダクション所属のハニートーストと言います!漫才やります!」


今日もダメだった…

芸歴3年目のコンビ芸人ハニートースト。

そのボケ担当が僕パンダだ。

本名の響きがパンダっぽくて体がでかいから付けた芸名。別にパンダという動物に愛着なんかない…むしろ犬が好きだ。


毎週のようにネタライブやバラエティー番組のオーディション、ライブの主催者や構成作家、番組のスタッフの前でネタをやっては来ない出演オファーを待つ日々…

相変わらず今日も今日とて仕事はない。


売れない芸人が生活費を捻出する方法は大きく分けて四つある。


親からの仕送り

アルバイト

借金

女に食わせてもらう


90%の芸人はアルバイトをしている。

恵まれた10%の芸人だけが親の仕送りでパチンコをしたり、女の家を泊まり歩いたりして暮らしている。

もちろん僕はアルバイトとたまに借金をするぐらいの90%の方だ。


アルバイトも芸人にはなかなか難しい。

せっかく入れたシフトが前日にオーディションやライブの手伝いの連絡が来て休まなきゃいけなくなる。

それが続くとバイト先も出勤が安定しないからとシフトを入れてくれなくなる。

そんな事を繰り返してアルバイト先を転々とする芸人は多い。


僕も3ヶ月勤めたカラオケのバイトをクビになった、理由はもちろん急な休みでシフトを守らないからというものだ。

すぐにでもバイトをしなければ来月の家賃も払えない、そんな時たまに会う他事務所の先輩が声をかけてきた。


「パンダ君お酒好き?」


もちろん好きだ

「大好きですよ、飲みに連れてってくれるんですか?」


「いやバイト探してるんだったら紹介しようかなと思って、楽しくお酒飲んでお喋りするだけでお金もらえるバイトあるんだよね。」


この時は全く知らなかった。

あの誘いが人生を変える事になるなんて…


第二話 バイト初日編に続く

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る