母
一世
第1話 子ども
小さい頃の記憶は曖昧なものしかない。
母と手を繋いで駐車場を歩き、エレベーターに乗る。手は少し汗ばんでいる。1階の食品売り場につき、エレベータのドアが開く。目の前に光が差し、また歩き始める。母は店内を物色しながら、冷凍餃子を手に取り、買い物カゴに入れた。
「ねぇ、これさぁ、中国製の餃子じゃなぁい??メタミドコスは入ってなぁい??」
周辺で同じ餃子を見ていた主婦たちは、すっと伸ばしかけていた手を戻し、餃子を置いた。私の母はすぐにその場を離れた。
家を出る前、テレビで中国製の餃子の製品にメタミドコスという毒が入っていたという内容のニュースがテレビで流れていた。その記憶は、どこかとても新鮮で脳裏に焼き付いている。同様に記憶に残っているものとして、中国の露店で販売されていた肉まんの中身が半分新聞紙だったとか、あとは何だろう。新型コロナウイルスが流行ったのはつい最近だ。なんで謎に中国ばかり回想しているのだろうか。
買い物を終え、家に帰ると手洗いうがい。そして、テレビを見る。子ども時代はよく分からないポップな教育番組を見ていた気がする。あとは有名どころのアニメ。ドラえもんだったり、サザエさん、ちびまる子ちゃん。クレヨンしんちゃんはバカになるから見るなって言われたっけ。
母が夕食を作っていると、父が帰ってきた。154センチの小柄な男は、「ただいま」と元気よく声を出すと、ネクタイを外し、シャツ、そしてズボンを脱いだ。パンツの下半身に肌着の上半身。これが彼のいつもの家でのスタイルである。
疲れたとばかりに立ち上がったり、座ったり、行動するたびに「よっこいしょ」と声を出しては、温めたいも焼酎を片手にお菓子をつまみ、テレビの前に鎮座している。
今も昔も変わらず、父のこの芋焼酎の匂いが嫌いだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます