第46話 最終話〜1月1日―元旦― 太田サキ〜


〜1月1日―元旦― 太田サキ〜


川崎大師。

初詣の参拝客は、日本で3本の指に入る。

だから、わたしにとっては苦手な人ごみが、目の前にはうじゃうじゃ居るわけだ。サキは遠い目をして・・しても人ごみはうじゃうじゃしていた。

帰りたい。来たばかりだが、すでに帰りたい。

「おまた~~」

カナが杏アメを買って、戻ってくる。

「はい、一本あげる~~」

くれた。

カナの手には、さらに4本の杏アメ。

「そんなに買ったの?」、

「ちがうよ~~。なんか~~あたった~~」

といっているが、なんだかあわてている。

胸には、金色の飾り。暖かい光が漏れる。

「カナ~~。力つかったでしょ!」

わたしが言うと、ビクッとするカナ。

「つかってないよ~~あたれ~~ってねんじてないよ~~」

カナのわかりやすい嘘に、思わず笑ってしまう。

でもまあ、これぐらいなら・・まあ・・いいか。絶対に止まらないルーレットが当たる事もあるだろう。屋台のおじさんの話のネタにはなるだろう。


夢の世界から帰ってきた後

カナのネックレスと佐川の刺青?は、現実世界についてきていた。

同時に、力も消えなかったようだ。

しかし、空が飛べるわけでも、変身できるわけでもなく。

『簡単な願いが、叶う。』

そんな程度らしい。

佐川の説明では

「これは、もともと人間が持っている力なのだと言ってたぞ」

だったが、佐川は何か隠しているような気もする。

力について、みなで話し合った結果。

『簡単に使わない事』

ということで、結論が出た。

そして、その佐川といえば、こちらのやり取りは無視して、何かを読んでいる。

「はい~~たかし~~」

カナが杏アメを佐川の口に突っ込む。

「ふが・・あ、ありがと」

そういえば、佐川は年末、忙しくしていたみたいだ。

「何を読んでたの?」

「ああ、ちょっとな。十一人の子どもいただろ。アレの調査結果だ。」

わたしの質問に佐川は少し言葉を濁して答えた。

そう、あの子達も、無事に現実に戻ってきていた。

しばらくは、そのことで世間とニュースは盛り上がっていた。

けれど次第に、次のニュースに埋もれていく。現実はそんなものだった。

「見せて」

佐川からレポートをひったくる。

彼らは、様々な経過をたどっていた。

いいものばかりではないけれど、わるいものばかりでもない。

でも、状況に、何かしらの変化があった。そんな内容だった。

「ひと段落って所だけど・・この先どうなるか・・これはまた別の物語。いつかまた別の時に・・」

「それだと終わらないでしょ!」

「始まりだって言ってたけどな、あの爺さんは」

ドクン・・

佐川とのやり取りに鼓動がなる。

これはわたしのではない。

クスタのものだ。

クスタも気になっていたらしい。

あれから、クスタはわたしの中にいる。

そのことは、わたし自身にも影響を与えていた。

「意地悪になった~~」とカナは言う。

「予想がつかない。」と佐川は言う。

「ガキに戻った。」と弟は言う。

「かわいくなった。」と薫は言う。

「うれしいぞ~」と父は良くわからないことを言う。

でも、相変わらず、私はワタシでわたしだった。

今でも時々、古多摩の町を夢に見る。

そんなときは、クスタも一緒だった。

空を見上げると、青空にうっすらと雲がかかっている。

冷たい空気。

こんな日は、太陽が沈む前に、町を金色に染めるのだろう。

遠くの空――高く――澄んだ―――鳥の鳴き声が響いていた。


FIN

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