第5話
「完全記憶……いいなそれ、俺もどうにかして作れないかなそういうの」
この世界の魔法はイメージありきだから出来ないかな……水属性持ってるし、氷にして記憶を凍結するとか。氷は空気が入ってなかったら透明だし凍ってても透けて見えるって感じに考えればいいのではないだろうか。
さて、やって見る前に魔法を一度使ってみる。流石にどんな感覚なのかっていうのもわからないからな。
「んー……確かインベントリに……」
インベントリから闇の魔導書(導入編)を取り出す。表紙は黒い革で作られていて金色の刺繍が入っている。
それを開いて読もうとすると突然手から抜け出し宙に浮いてぱらぱらと開いた。
それと同時にページが光り出し、その光がルネの胸に吸収される。
残った魔導書は端から燃え出し、消えていった。
「…………」
呆気に取られて手を宙に出したまま魔導書があったはずの場所を見つめていた。
「ふぁんたじーだし、そんなこともあるよね」
きっとそう。
気を取り直して頭の中に組み込まれた知識を見る。どうやらあの光によっていつでも本の内容を見ることができるらしい。あんなに分厚い本を読みこまなければならないのかとウンザリしていたが、どうやら内容が自動的に取り込まれるものだったんだろう。
「まずは魔力の感知からか……」
テンプレだなと思いつつ、そういえば小説の世界だったと思いなおす。それなら魔法を出すまでの過程も知っていたはずである。しかし小説ではこんなステータスも掲示板もなかったはずだが。あとこんな読もうとしたら光って勝手に知識が取り込まれる魔導書もなかったはずだ。
もう小説の根幹から崩壊していないかと思いつつ心臓に隣接している魔臓という魔力を作る器官を探る。そこが魔力の源泉で一番魔力の密度が多いから魔力を見つけやすいのだという。
「あ、そういえば」
明けの聖剣の主人公も転生者っていう設定だったよな
そんな声が穏やかな光が照らす聖域に取り込まれた。
なら、主人公に転生したやつも掲示板とか使えるのではないか?
いや、そもそもの話だが明けの聖剣の主人公は元から転生者として設定されている。だからこの世界が本当に明けの聖剣の世界だというのなら主人公はルネ達転生者が持っているステータスとか掲示板とか使えるのか?
だってこう考えると彼は転生した。だけどルネ達みたいな画面の表示は無かった。そういう
ならルネの場合はどうなのかと言うと、更に想像というか妄想を繰り広げる形になるが。
ルネは転生者という
ただ、
そして本来のルネがどうなっているかわからないが、記憶を見る限り奥に沈んでいったような感じだったらしいからこの体に宿っているのだろう。
ただ、画面が出せるのはルネに『俺』が宿っているから。その『俺』が転生者となって画面を開く能力を持っているからではないのだろうか。
だから設定の外にいる
「まあ、実際に会っていないからどうなってるのかは知らないけど」
だけどここが明けの聖剣の世界だというのならその
「あ、なんか新しい感覚見つけた」
胸の中に熱いものを感じ、それを意識して辿ってみる。
「うーん、魔力の巡りとかはラノベだと何種類かあったよな」
1血管の中を魔力が通る。
2細胞の一つ一つに魔力が宿る。
3独自の魔力回路がある。
大方そんな感じだろうか。今まで見たことがあるやつではこれだった。
この中で、この世界での魔力の巡りは2の細胞の一つ一つに魔力が宿るパターンである。浸透とも言う。
心臓の横にある魔臓から魔力が溢れ出し、体中に浸透するのだ。そして体に留まれきれなかった魔力が外に溢れていく。
だけど魔力の巡りと言うように体の中でも流れがある。
魔臓から頭、左腕、左足、右足、右腕と流れてから頭へ行く。それが基本的な、自然な流れだ。
魔力の感知ができたらOK、魔力の流れが感知出来たらなお良し。
そうしたら自然な流れではなく、自分で魔力を動かす。
「ん、んんんんーんんー」
これがまた、難しい。ルネはほんの三十分ぐらいで魔力を感知できたがこれは本来短くても一週間かかる。魔力を動かすのなら一か月はかかる。
試行錯誤すること三時間、ようやく少し動かせるようになった。ほんの少しだけだが。
はたして、このルネの体が魔法に関しての才能が圧倒的なのかそれとも俗に言う転生チートというものか。
一度動かすと次第にどんどん動かせるようになる。
段々流れを早くしていくとそれに呼応して体が熱くなる。
試しにそこらにあった小石を軽く弾くと軽くと全力で投げた時ぐらいまで飛んでいった。
「……身体強化つえぇ……」
魔力の循環を強めるとどうしてか身体能力が強化される。理屈はわからないが強くなるのは確実だ。しかし、軽く弾いただけだというのにあそこまで飛んでいくなんて普通はあり得ない。
作中でのルネ=アンブロワーズは中ボスながらも世界有数の強さを誇っていた。その時対峙していた主人公では敵わないぐらいに。幾度となく登場し、その強さを見せつけ主人公達に苦汁をなめさせていた。
同年代で天武の才を持っていた勇者を圧倒的に越える強さ。
魔力の感知の早さから転生チートかと思ったが、もしかしたらこの体本来の才能なのかもしれない。
「そうなると化け物だな……」
天武の才を持っていた勇者をも越える才能。鬼才と言うべきか、神才と言うべきか。とにかく才能では人間の範疇にとどまっていない。
「あ……」
そこでルネはある一つのものを思い出し、冷汗を垂らす。
「ログから見るとルネは元からラナエルの慈愛を持っていたっぽい。それであの強さで……さらに加護が増えてるから……」
これって、俺TUEEEってできるよな……?いや、今のところやる気は無いけど。だって今までで一回たりとも魔物に遭遇したことすらないし。もうあれ?魔物っているんですか?って状態なのだ。
「っ……」
次は
「む、むむむむむっ……こ、こんな感じか?」
魔力の感知から始めて既に夜も真っ盛りになっていた。練っていた魔力を
「…………は?」
そんなあり得ない光景にルネは本日何度目かの疑問の声を上げる。
普通はこうはならない。いや、よっぽどの熟練者で高密度に練ったとしたらこんな風に軽々と一部とはいえ幹を砕くことだって簡単だろう。
しかしルネは熟練者でもない、拙さの目立つ魔力の練りだ。むしろ魔力を練るとしては及第点ギリギリと言えるぐらいだ。
それなのにどうしてこんなことができるのか。
「……魔力の質?」
魔力を練るという行為は魔力の質を上げる為にやっているものだ。
だが、元から高かったら?
魔力の量もそうだが、魔力の質も個体差がある。
量が多ければ多いほどその魔法は大きくなり、質が高ければ高いほど威力も大きくなるのだ。
「あー、この体、マジでチート。どうしてこんなのが中ボスなんだよ……」
主人公とか、ラスボス、いや裏ボス級だろ。ゲームだとエンドコンテンツとかで出るもんだろ……
声も出ないルネだった。
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