第375話

パァァァァーーーン!!


ラグナの魔法障壁と少女の拳が衝突し、大きな音を立てて少女が後方へと弾かれる。


少女は拳に魔力を纏うとラグナへと突貫すべく走り出す。


「待った!!待って!!僕だよ!!」


ラグナが慌てて顔を隠すように被っていたフードをめくり、顔を見せる。


「……ん?」


少女が拳を振り上げたまま、ピタリと止まる。


「だから、僕だってば!!」


少女はラグナの姿を見て……


「……ラグナ?」


と目を見開きながら呟いた。


「そう!僕だよ!」


少女は振り上げた拳を下げるとラグナの腕をガシッと掴み、そのまま無言で国境門の中に引っ張っていく。


「ちょっと、フィリス!!」


無言で引っ張るフィリスにラグナは抗議するのだが、


「時間が無い!!いいから急いでついて来い!」


と険しい表情でラグナを引っ張る。


その雰囲気にただ事では無いと感じたラグナは久々の再会を喜ぶ暇もなく、無言でフィリスについて行くのだった。


フィリスが案内した先には馬車が二台止まっていたのだが、片方の馬車は焼け焦げて半壊しており、エチゴヤの護衛達や市民と思われる人々が国境門を守っているであろう兵士達と睨み合いが行われている真っ最中だった。


「……こっちだ」


無事な方の馬車に案内されたラグナの目の前には、悲惨な光景が広がっていた。



「ブリットさん!?」


「や、やぁ……ラグナ君」


右腕右足が本来ある有るべき所に無く、付け根には包帯が巻かれおり、右側の顔半分も酷い火傷を負っていた。


いつ命の灯火が消えてもおかしくない状況でブリットが横たわっていた。


ラグナが唖然としていると、バン!!という乱暴に扉を開ける音と共に青年が馬車の中へと入ってきて、その手には青く輝く液体が入った瓶を持っていたのだった。


「ちょっと退いてもらえるかい!父上!上級回復薬です!」


と青年が息を切らせながら駆け込こんで来るとラグナを手で退けようとした所で、


「ラグナ君!?何故君がこんな所に!?」


と驚き回復薬を持ったまま、固まってしまった。


しかし、


ごふっ!!


とブリットが咳き込むと激しく吐血してしまったのを目にしたサイは


「ち、父上!今すぐこれを!!」


と、慌てて上級回復薬をブリットに飲ませるのだが……


「そんな……傷が塞がらない……」


これ以上の効果がある回復薬など、もはや伝説のエリクサーと呼ばれている回復薬しか存在していない。


「父上!すぐにもう一本上級回復薬を手に入れてきます!」


サイが馬車の外へと飛び出そうとするのをブリットが止める。


「……もういいんだ。自分の状態なんて、自分自身がよく分かってるからね。ゴホッ!」


ブリットの口から大量の血が吐き出される。


「父上!!」


ただでさえ悪かった顔色が更に悪化していく。


フィリスがラグナの服の袖をくいっと引っ張りながら、


「ラグナ……私の時のようには……」


言いたいことは理解出来るのだが……


あれ以来その事が出来たのはハルヒィさんにだけ。


しかも若返る事も千切れた足を治すことも出来なかった。


『それでも……やるしかない……』


ラグナはブリットの側に近寄ると、たとえ無くなった手足が治せなくても……


せめて傷口だけでも塞がるように祈りながら魔力を込めていく。


ゴホッ!ゴホッ!


更にブリットが咳き込むと、あたり一面が血の海のように吐血した血が広がっていく。


「父上!しっかりしてください!」


サイが必死にブリットを励ます。


「お父さま!!」


サイの悲痛な叫び声を聞いた少女が扉を開いて飛び込んで来た。


「……もういい。もういいんだ。私は幸せ者だよ。愛しの子供達に囲まれて逝くことが出来るんだからね」


ラグナは必死にブリットに魔力を流し込む。


『俺はまだ何も……この人に何も恩返しが出来ていないんだ!!』


涙を流しながらも奇跡が起きてくれと祈るラグナ。


その時。声が聞こえた気がした。


『……雫。精霊樹の雫を』


ハッとしたラグナはすぐに収納から瓶を取り出し開封すると、ブリットの全身に振り掛ける。


そして少し残った液体をブリットの口にねじ込む。


「き、君!!お父さまになんてことを!!」


少女が怒りを露わにしながらラグナに掴み掛かると、突然ブリットの全身が光り輝くのだった。



第一巻発売から一週間が経過!

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