第296話

「でもエチゴヤ商会は流石だねぇ。人外な存在から襲われる危険があるっていうのに輸送を続けるんだもん。でも流石にこのまま何度も輸送を頼むっていうのもねぇ……」


「それは……そうなんですよね……他の商家には失礼な言い方になってしまいますが、エチゴヤに何かあったとあれば様々な問題に発展する可能性があります。ヒノハバラが口出ししてくる可能性も考えなければいけませんね……」


う~ん……と悩み始めるミオン。


ラグナは2人が悩んでいる様子を見て、覚悟を決める。


「僕1人で物資の輸送を続けます。」


ラグナの発言に驚くミオンとリオ。


「なっ!?何言ってるの!?駄目だよ、危ないじゃん!!」


「そうですよ!いくらなんでも無茶です!!」


2人の反論に対して、ラグナは首を横に振る。


「これは元々僕がマリオン様からお願いされた事でもあるので。僕1人ならばどうにかなるので大丈夫ですよ?だから心配しないで下さい。」


ラグナは笑顔で答えるが、そんな事を言われて素直に納得出来るわけもない。


「君1人にこんな重圧を背負わせるのは……」


流石のリオも躊躇してしまう。


しかし……そんなリオ達を見て、ラグナは決意を変える事は無かった。


その後……話し合いの末に、ミオンとリオは神殿騎士をラグナに同行させ護衛するという案を出してきたのだが……


それをラグナはやんわりと断る。


「護衛の方がいると魔道具による高速移動が出来ないので……」


「それは……そうかも知れませんけど……」


尚も食い下がるミオンだったが……ラグナは譲らない。


結局、ミオンが折れる事になった。


次回の出発は1ヶ月後。


輸送に必要な物資を集めるのに時間が掛かるからとの事だった。


確かにいくらシーカリオンとはいえ、二国分の食料を揃えるのは時間が必要。


自国で使用される食料を確保し、国内の食料価格が上昇しないように気をつけながら、余剰分を確保。


輸送開始まで一年の猶予があった為、耕作放棄地の回復及び作付け量を大幅に増やし、余剰分は全て国が買い上げていた。


「正直な所、食料支援の相手がアルテリオンとガッデスで良かったよね~。これが仮にエーミルダとかヒノハバラだったら無理だもん。」


「確かにそれはありますね……アルテリオン国とガッデス国の国民の総人数を合わせてもエーミルダよりも少ないですから。それに……エーミルダとなると、距離的な問題もありますし、最短距離で進むにはヒノハバラの国内を通らなければならないという問題もありますから。」


「いちいちヒノハバラを経由していたらエーミルダに着く頃には物資が半分も残ってないだろうしねぇ。商いに対して税を取り過ぎなんだよ、あの国は。」


ヒノハバラに対する愚痴が加速していくリオとミオンなのであった。


暫く愚痴大会を大人しく聞いていたラグナだったが、流石に疲れが出て来たのかあくびをした所で話し合いは終了。


ラグナが現在いる部屋はシーカリオンの王城内にあるミオンの私室との事だったので堂々と出るわけにも行かず、再び階段を降りてリオが封じられている部屋へと戻るのだった。



「疲れているのにごめんね~!愚痴が止まらなくなっちゃったよ。」


「いえ、大丈夫ですよ。」


苦笑いしながら答えるラグナ。


「今日は疲れてるだろうしこのままこの部屋に泊まっていきなよ!よし、そうしよう!」


「えっ!?」


リオからの突然の提案に慌てるラグナ。


「だってさ、もうこんな時間だから今から帰る時間すら勿体ないじゃん。遠慮しなくていーの!」


「そ、そういう訳にもいかないですよ……」


ラグナは断ろうとするが……


「……また一人ぼっちか。」


「……」


リオの言葉を聞いて黙り込むラグナ。


いつもの明るい雰囲気から一転して、寂しそうな表情。


「……分かりました。では一晩だけお世話になります。」


「やったー!!ありがとうー!!」


先程までの表情とは打って変わって満面の笑みを浮かべるリオ。


「じゃあ早速お風呂に入ろう!!」


「お、おふろですか?」


「この身体を作って活動するようになってから、部屋にお風呂も作ったんだよ!湯船もあるぜ!!」


「おぉー。」


「ほら、こっちだよ!!」


リオに手を引っ張られ、浴室に連れて来られるラグナ。


「思っていたよりも広い!!何人も入れそうなくらい大きい湯船だ。って……ち、ちょっとストップ!!一緒には入りませんからね!?」


いそいそと洋服を脱ごうとしているリオ型ゴーレムを見て慌ててストップをかけるラグナ。


「えぇ~なんでだよ~?せっかくのお泊まりなんだからいいじゃないかぁ~。それにこの身体は所詮ゴーレムなんだよ?」



「だ、駄目なものは駄目です!!」


「むぅ……」


膨れながらも渋々諦めるリオ。


「あんまり駄々を捏ねるなら泊まりませんからね!!」


「わ、わかったよ。」


ラグナの脅しにより、ようやく観念するのだった。


「それじゃあ、先に入っていいよ~。もう何日もシャワー浴びてないでしょ?」


「一応水浴びはしてましたよ!魔法で軽く頭から水を掛ける位ですけど……」


「うわっ、ばっちぃ!!」


「ひどっ!!」


「冗談だよ、じょ・う・だ・ん!!」


ケラケラと笑うリオ。


「全く……それじゃあ先に入らせて貰いますからね!」


「はいは~い。ゆっくりでいいよ~。本当にお疲れ様。」


リオの優しい表情にドキッとしながらも、ラグナは久々の湯船にゆっくりと浸かるのだった。

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