第290話

「やっといなくなった……」


日が昇り始めた頃にようやく兵士達が撤収していったのを確認。


ホッと胸を撫で下ろすラグナだったが……


「流石に眠いわ……」


昨日の夜からずっと動かずに木の上にいたので、流石のラグナも睡魔に襲われていた。


改めて魔道書にお願いしてハンモックへと変身してもらい、仮眠を取ることにした。


『どのくらい寝るの?』


「うーん……日の位置が真上に来た頃に起こして貰える?」


『わかった。何かあったら話し掛けるね。』


「お願い。それじゃあちょっと寝るよ。おやすみ~。」


そう言うと、すぐに意識が遠のいていった。


ユサユサ


ユサユサ


「ん~?」


『起きて。お昼ご飯の時間。』


「ん~!!おはよう。」


魔道書に揺すられて目を覚ましたラグナ。


時間は丁度お昼頃。


まだちょっと寝たりないけど、そこは仕方ない。


大きく伸びをして体を起こす。


そしてカモフラージュローブの隙間から周囲を観察。


「誰もいないかな……?」


『ラグナが寝ている間、誰も来てないよ。』


「そっか。ありがとう。」


ハンモックから降りる。


「昨日は失敗しちゃったからなぁ。よく考えればわかることなのに。あんなに美味そうな匂いがする食べ物食べてたらバレるのも当然だよね。」


『でも美味しかった。』


「確かに。あれは美味かった。」


思わず苦笑いしてしまう。


ご飯をどうしようかと考えていたらぐうぅ~お腹が鳴る。


「とりあえず、ご飯にしよっか。簡単なのだけど食べる?」


『ラグナがいいなら食べる。』


収納からグーナパンを取り出してムシャムシャ食べ進める。


「シーカリオンに戻ったらグーナパンを大量に買い込まなきゃなぁ。何だかんだいってこれが一番簡単に食べれるし。」


前世の記憶を頼りにパクった品だけど。



お腹いっぱいになったので再び少し休憩。


そしてアルテリオンへと出発するのだった。


少し警戒しながら移動したのでガッテスからアルテリオンへは8日間掛かってしまったが無事に到着。


再び精霊達やルテリオ様に魔力をご馳走したりして一泊。


ガッテスから受け取った武器や鉄製品を受け渡すとシーカリオンへと出発するのだった。


アルテリオンを出発して1日。


ラグナは魔道具を使用して高速移動していた。


「ん?煙が見える?」


シーカリオンへと向かう街道を進んでいたラグナだったが、遠くの方で煙が上がっているのが見えた。


魔道具での高速移動を止めて警戒しながら進むラグナ。


しばらくして煙の正体が判明する。


「な、何だよ……これ……」


目の前見えるのは馬車だったであろう残骸と……


無惨に殺害された人のようなものと、馬だったと思われる遺体が、バラバラに転がっていた。


あまりにも悲惨な状況に胃の中の物が逆流しそうになるのを必死で堪える。


「……なんでこんな酷い事を。」


怒りに震えるラグナ。


遺体と馬車の残骸を収納し、すぐにシーカリオンへと出発する。


破壊された馬車。


その積み荷の内容からして、シーカリオンから運んでいる最中の輸送部隊だったと思うから。


その数時間後。


「嘘だろう……」 


同様に破壊された馬車と……


惨殺された人の遺体が転がっていたのだった。


あまりの凄惨さに吐き気を催すが、ぐっと我慢して遺体を収納。


『ミラージュか!?ミラージュの奴らがこんなにも酷い事をしているのか!?』


あまりにも悲惨。


あまりにも酷い。


しかし……


「なんで積み荷には一切手を出していないんだ?」


ミラージュの兵士達や盗賊ならば荷を奪うはず。


何も奪うことなく、ただ壊して殺して放置しているだけ。


嫌な予感しかしない。


ラグナは人目を気にせず、高速移動を開始した。


そしてもう少しで日が暮れるという時間になった頃。


ズドーン!!ドカーン!! と、大きな爆発音が鳴り響いた。


「なっ!!」


音のした方角を見ると……


モクモクと上がる黒煙……


立ち昇る巨大な火柱が見えた。


『急げ!!』


ラグナは更に魔力を込めて速度をあげる。


そして……


「どっせぇーいぃ!!」


逞しい野太い声のオネエサマと、


「アヒャひゃヒャひゃ!!」


人では無い何かが、戦闘していたのだった。


ラグナは高速移動を維持したまま、人では無い何かに向けて魔力を最大限まで纏わせた拳を振りかざす。


「おっりゃあぁぁぁぁぁ!!!」


ラグナが全力でぶん殴ると……


「あヒャャぁぁァ!!」


という叫び声と共に遠くまで吹き飛んでいく。


人では無い何かを殴った拳がジンジンと痛む。


想像以上に硬い感触に驚くが、今はそんなことを言っている場合ではない。


「大丈夫ですか!?」


先ほどまで戦闘していたオネエサマの元へ。


「ピンチだと思ったら王子様が助けに来てくれるなんて……これは運命よね?」


熱烈な抱擁で歓迎されるのだった。

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