第289話

目の前に現れた醤油の容器。


「これって100均で販売してた15ml用の調味料ボトルじゃん。」


料理に使ったらすぐにでも無くなってしまうサイズ。


こんな小ささでは、とてもじゃないけど足りるはずがない。


ラグナはもっと召喚しようとするが……


「あれ?出てこない?」


『今日はもう無理。当分は1日1個さっきの量しか出せないって言われた。』


「言われた?誰に??」


『……間違えた。出せない。』


「……そっか。」


深く突っ込むのは止めよう。


「まぁ、無いよりマシだからね。」


毎日1日1個召喚すれば結構貯まると思うし。


『これ、まだ?』


「おっと、そうだった。ひっくり返さなきゃ。」


イカの醤油焼きをひっくり返す。


醤油でこんがりと焼けたいい色。


「よし、完成!」


イカの醤油焼きと炭火でじっくり火を通したオジサンを2つの皿に取り分けて


「頂きます。」


『頂きます。』


早速食べる事に。


まずはイカから。


「うまっ!醤油の加減もいい感じだし。」


イカを噛み締めると口の中に広がる甘みと醤油の味。


噛めば噛むほどイカの旨味が溢れてくる。


「これってあれだ。お祭りの時に出店で食べたりするイカのぽっぽ焼きに似てるな!!ちょっと調味料か何かが足りてない気がするけど、かなり近い味だ!!懐かしいなぁ……」


久しぶりのイカの醤油焼きに感動しながら頬張っていると


『イカ、美味しい。』


魔道書も気に入ったのかお皿の上のイカがどんどん無くなっていく。


「魔道書も気に入ってくれたみたいで良かった。」


『食事とは素晴らしい。幸せな気持ちになる。』


「そうだね。僕もそう思うよ。」


ラグナも同意すると、今度はオジサンに手を伸ばす。


「こっちも美味しい!カレー風味のスパイスで食欲が進むよ!!」


『こっちも美味しいよ。』



ラグナが食べているオジサンは、バ○まぶしを使って焼いた物。


魔道書が食べているのは、ほり○しを使って焼いた物。


お互いに違う味付けで楽しんでいた。


あっと言う間に食べ終えてしまう。


「ご馳走さまでした。」


『ごちそうさまでした。』


手を合わせて挨拶をする。


「あ~食った。お腹いっぱい。幸せだなぁ。」


『お腹いっぱいは幸せ。』


そんな風にだらけている時だった。


「なんか美味そうな匂いがしないか!?」


「確かに!!」

ちょっと遠くの方でそんな声が聞こえた。


魔道書はすぐにラグナの身体の中へ。


ラグナは急いで火が付いたままの炭やらフライパンやら皿などを収納する。


そして急いでカモフラージュローブを羽織ると木の上へとジャンプする。


ガサゴソと草を掻き分けて、誰かが移動してくる。


「ん?ここだけ整地されてるな。誰か居たのか?」


「この辺で美味そうな匂いがするぜ。」


ラグナがさっきまで食事をしていた場所でクンクンと匂いを嗅いでいる。


「隊長ー!!土がまだ熱いので近くに潜んでるかもしれません!!」


炭火で火を起こしていた場所を触っていた人物がそう報告すると


「総員、警戒態勢!!」


全員が武器を構えて周囲の探索を始めていた。


『お腹いっぱいで寛いで、あとはハンモックで寝るってタイミングだったのに!!何でこんな時に限ってミラージュの兵士達が現れるんだよ!!』


木の上でカモフラージュローブに魔力を流してじっと耐えるラグナ。


「絶対に1人になるなよ!他の隊で原因不明の襲撃があったばかりだ!いつどこから襲われるか分からないぞ!」


リーダーらしき人物の指示で辺りを警戒しながらゆっくりと周囲を探索する集団。


『げっ。あのとき食料燃やした部隊の隊長め……襲撃されたって報告しやがったのか。確かに俺が荷物を燃やしたから間違ってはいないんだけど……』


ラグナはどうしたものかと悩んでいた。



このままだと木の上で一夜を過ごす事になってしまう。


そんな事をと考えていると


「隊長、足跡を見つけました!でもこれは……子供か?」


兵士の1人がラグナの足跡を発見してしまう。


「これは人族の子供の足跡だな。ドワーフはもっと横幅が広い。おい、お前達。この周辺に子供が隠れていないか調べろ!」


「了解!!」


え?マジか。


前回出会った部隊とは比べられないほど優秀な部隊で、ラグナは焦りを感じる。


ラグナがいる木の周囲を兵士達がぐるぐると探索している。


「隊長、それらしき人物は見つかりませんでした。」


「おかしいな……ドワーフとは違う人間の子供の足跡ではあると思うんだが……念のためもう少し周辺の捜索を行おう。場合によっては保護せねばならんからな。」


「了解です。」


兵士達のその様子を木の上からじっと見守るラグナにとって、最悪の展開だった。


『ここから全く動けねぇ……』


下手に動くと見つかる。


木の上で身動きが取れないまま、時間だけが過ぎていくのだった。



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