第270話

王都マリンルーを出発してから6日。


2日前にはシーカリオンとアルテリオンの国境を越えた。


まぁ国境と言っても簡易的な砦があっただけ。


しかもアルテリオン側には兵士の姿は無かった。


『エルフが見れるかと思ったんだけど……』


生のエルフを見たのはヒノハバラの学園内にある本屋の店員さんだけ。


後は元俺の担当者だったハーフエルフのミーシャさんくらい。


アルテリオンに入国してからは日中に移動、夜に寝る生活に切り替えた。


そもそもあまり人族がアルテリオンに行くことがあまりないと聞いていた。


国が違うとはいえアルテリオンは人族の国である救済国家ミラージュと長年に渡り戦争中。


ミラージュと同じ人族の国であるシーカリオンとアルテリオンでは多少の交流はあるが、本当に最低限の付き合いしかしていないらしい。


それにしても……


話には聞いていたけど、ヒノハバラやシーカリオンの国とは違い途中に村などが全く無い。


それに目的地に近づくにつれて木々が明らかに減ってきていた。


「なんだこれ……」


キレイにスパッと切り倒されたのであろう切り株の姿があちこちで見られる。


ラグナは想像とは違う異様な光景に戸惑いを隠せない。


シーカリオンで聞いていた国の雰囲気と目の前に広がる光景が全く違う。


「自然と調和した国って聞いていたんだけど……」


違和感を感じたラグナは魔道具で移動するのを止め、徒歩で向かうことにした。


そして昼過ぎ。


ヒュッ


「うわぁっ!?」


いきなり目の前に矢が飛んできて地面に突き刺さる。


「何者だ!!」


周囲の木々の上から数人の男女がラグナに向けて弓を構えていた。


「えっと……俺はシーカリオンよりアルテリオンへ物資の輸送を依頼された、ラグナと言います。エルフの国であるアルテリオンを目指しているのですが……」


そう言うと、1人の女性が木の上から飛び降りてきた。


どうやら彼女がリーダー格の女性のようだ。


他の人たちは木の上にいるままだが、いつでも攻撃できる態勢のまま警戒している。


「物資の輸送だと?もっとわかりにくい嘘をつけばいいものの、やはり子供か。物資などどこにも持っていないではないか!」


ラグナはそう言われハッとしてしまう。


確かにパッと見では手ぶらで訪ねたようにしか見えない。


慌てて収納のスキルから物資を取り出そうと動こうとしたが


リーダーと思われる女性の声により動きを止めた。


「動くな!!先月も同じ様に人族の子供がわが国を訪ねてきた!何をしたのか覚えていないとは言わせないぞ!」


そう言われても、何のことかさっぱりわからないラグナ。


ラグナのその様子に若干同情した目を向ける女性のエルフ。


「本当に何も知らせてないのか……?」


「えっと……人族の子供が何かしたんですか?」


「仕方ない。おい、この子供に教えてやれ!」


リーダーと思われる女性が仲間にそう指示する。


木の上からラグナを睨みつける男性が答えを教えてくれた。


「先月、人族の子供が3人保護を求めてこの国へとやってきた!我が妻は幼い子供には罪は無いと国へと迎え入れようとした!しかし、その優しさに貴様ら人族は付け込んで来たのだ!一応取り調べという形で話を聞いていた時だ!3人のうちの1人が鞄から何かを取り出しボタンを押したのだ。そうしたら……取り調べをしていた建物ごと爆発により吹き飛んだのだ……我が妻は防御魔法を展開したものの……重傷を負い、我らに何があったのか説明した後……精霊の元へと旅立ったのだ……」


涙を堪えながら説明してくれた。


「わかったか!だから子供とはいえ我らは信用する事など出来ぬ。だが、このまま見逃すことも出来ない!大人しく我らに捕縛されよ!」


厄介な事になったと思いながらも、大人しく指示に従うラグナ。


『今この場で何かしようものなら争いになっちゃう。仕方ないけど指示に従うしか無いか……それにしても子供を使った自爆テロとか……本当にどうしようもない国だな、救済国家ミラージュってのは。』


ガチャリと手枷を装着され、縄で繋がれると連行されていく。


しばらく歩き続ける事30分。


俺を連行していたエルフ一行が急停止した。


そしてリーダーと思われる女性がおもむろに近くにある木に手を添えると……


「すげぇ……」


思わず声をあげてしまった。


先ほどまでただ森が広がってたはずの景色が一変。


突然巨大な壁が現れたのだから。


「一応言っておくとするか、深緑の森アルテリオンへようこそ。我らエルフは人族の子供である貴様を歓迎はしていない。」


全く歓迎されていない状態であり無事にとはいえる状況では無いが、何とか入国することが出来たラグナだった。

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