第271話
「あれが……」
目の前に聳え立つ巨木。
「あれが我らエルフの宝である精霊樹だ。」
隣にいたリーダーの女性が教えてくれた。
幹が太くて異常なほど高い。
樹齢1000年どころではない気がする。
2000年以上生きていると言われても納得出来る。
精霊樹と呼ばれた木にラグナは見とれてしまっていたが、手枷に結ばれた紐をグイッと引っ張られる。
「立ち止まるな。こっちだ。」
紐を掴む男エルフがそう言うとグイグイと紐を引っ張る。
その様子に何事だと街の住人たるエルフが集まり始めた。
街の中のエルフからの視線が凄まじい。
激しい敵意を感じる。
『これはキツい。』
あまりにも凄い敵意にシュンとしてしまう。
「何故人族がこんな所にいるんだ!」
「人族!人族よ!」
「はやく追い出せ!」
「それよりも殺してしまえばいいんだ!」
住人からの罵声も飛んできた。
「この子供はシーカリオンから来たと言っていた!先月の事件は決して忘れはしていない!だが万が一本当にシーカリオンの関係者の可能性もある!まずは調べる必要があるのだ!」
エルフの女リーダーがそう叫ぶと周囲のエルフは渋々といった感じで解散したのだった。
敵意を含む視線から解放されたラグナは
「ありがとうございます。」
とお礼を伝えるが、
「ふんっ。」
とそっぽを向かれて終わったのだった。
しばらく街中を歩いていくと、撤去最中の瓦礫の山が見えた。
「あそこだ。あそこで我が妻は……」
俺の手枷の紐を持っている男エルフの手に力が入ったのかグッと紐を引っ張られる。
ラグナは瓦礫の方を向くと手枷を嵌められた手を合わせて祈りを捧げた。
その様子に驚いたエルフ達。
『もしや本当にシーカリオンから来たとでも言うのか?いや、そう思わせる為のミラージュの罠では無いのか……』
リーダーである女エルフは悩みながらも判断を先延ばしにする事にした。
そして案内された先は簡易テント。
それも人気の無い場所だった。
「今手枷を外す。妙な動きは絶対にするなよ。妙な動きをすればすぐに殺す。」
ラグナは弓から剣に持ち替えたエルフ達に囲まれながらそう言われた。
紐を持っていた男エルフが手枷に手を添えるとカチャリと手枷が外れた。
「服を脱げ。」
「へっ?」
今何と……?
「聞こえなかったのか、服を脱ぐんだ。」
どうやら聞き間違いでは無かったらしい。
上半身の服を脱ぐラグナ。
「ほぅ、子供にしてはよく鍛えられているな。下もだ。」
下……
まじかよ……
とりあえず履いていたズボンを脱ぐ。
しかし……
「まだあるだろう。」
女エルフから剣でラグナが履いている下着をツンツンする。
『まじかぁ……』
モジモジするラグナに対してバッサリと女エルフが言い切る。
「子供の癖に恥ずかしがるとは……我らは子供の物を見てもなんとも思わん!さっさとしろ!」
そう言われても、恥ずかしいものは恥ずかしいんだよ!
と言える状況ではないので……
『えぇい、ままよ!』
心の中でそう叫びながらラグナは下着を一気に下ろす。
「おい。」
全裸になったラグナの身体を女エルフは部下に命じてボディーチェックさせる。
「動くなよ。」
そう言われた後、身体のあちこちをペタペタと触られる。
その後は服を入念に調べたりしていた。
「特に何かを仕込んだりとかは無いようです。」
「……服を着ていいぞ。」
そう言われたラグナは顔を真っ赤にしながら急いで下着を履く。
『ミラージュからの罠である可能性は低くなったが……本当にシーカリオンから来たのか……?』
困惑する女エルフ。
そして最初から感じていた違和感の正体に気が付く。
『そもそも子供1人が何も持たずにどうやって此処まで来たのだ……?まさか!ミラージュの奴らが近くに潜んで我らの動きを調べていたのか!?その囮として連れてこられたとしたら何も持っていなくても当然だ!』
「くそっ!急ぎ持ち場に戻るぞ!ガンマ、そいつを牢にぶち込んでおけ!もしも、私の想像通りだったら覚悟しろ!」
女エルフはガンマと呼ばれた男エルフにそう指示すると慌てた様子でラグナの前から立ち去っていった。
「両手を出せ。」
素直に両手を出すラグナ。
ガンマと呼ばれた男エルフがラグナに手枷をガチャリと装着する。
そして再び紐で引っ張られてテントを出るのだった。
そして再び瓦礫の前を通った時にラグナは自然と手を合わせて拝んでいた。
「何故だ……」
急にガンマと呼ばれた男エルフから話し掛けられた。
「えっと……何故とは……?」
ラグナがそう答えると男エルフはラグナが合わせていた手を指さす。
「先ほどもそうだ。我らともミラージュの奴らとも作法は違うが祈りを捧げているのは感じた。何故祈る。」
何故……
何故と言われても……
「理由なんて特に無いです。ここで誰かが亡くなった。ならばその方の冥福を祈るのは当然では無いでしょうか?」
本当にそれだけ。
「そうか……」
そう言うとガンマと呼ばれた男エルフは再び無言になり、俺の手枷の紐を引っ張り始めたのだった。
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