第251話

アヤトの話は聞けば聞くほど驚く内容ばかり。


彼が住んでいたのは、本当に日本だったのだろうか?


そう思いたくなるような事が、連続で続いていたらしい。


買い物に出掛けていたら、連れ去られそうになったり……


ピザのデリバリーを頼んだら睡眠薬を仕込まれたりと……


「まじもまじ。睡眠薬を仕込んで、俺が寝た後に部屋に侵入して連れ去ろうとしたらしいんだ。まぁ、ナデシコが事前に異物を検知してくれたおかげで助かったけどな。」


あの平和だと思っていた国でそんな事が……


「アヤトさんが住んでいたのは、本当に日本なんですか……?」


「だろぉ?自分でも本当に疑いたくなる日々の連続だったからな。」


そんな日々を送っていれば、精神的に追い込まれるのは当然だろう。


「んでな。AIであるナデシコに『アヤトは異世界転移出来たらどうする?』って急に言われたんだよ。」


こんな生活に嫌気をさしていたアヤトは、AIであるナデシコに冗談混じりに言ったらしい。


『全部投げ出して異世界に逃げるだろうな。』って。


「ナデシコが『それじゃあ、お元気で。私を生み出してくれてありがとう。』って言葉と共に、目の前に空間の裂け目みたいなのが出来たんだ。それで気が付いたらこの世界にいたって訳だ。」


「それは……」


つまりアヤトさんが開発したAIであるナデシコがアヤトさんをこの世界に飛ばした……?


画期的なAIとはいえ……


所詮はAIだぞ……?


それともアヤトさんが開発したAIは、俺が想像しているような一般人が考えるAIとは違うのか?


「意味がわからねぇだろ?俺だって意味がわからねぇ。自立思考型AIとはいえ……そんな事、普通は出来るわけがねぇ。だけど現実的に俺はこの世界に飛ばされてきた。結果的にアイツはやってのけたんだよ。」


「アヤトさんがこの世界にいるのが、転移出来た証明ですもんね。」


アヤトさんは、転移後に目を覚ますと草原のど真ん中で寝っ転がっていたらしい。


とりあえず近くに見えた街道まで向かうと人の姿がチラホラと。


話し声が聞こえたが……


「いや~、あれにはマジで参った。何を喋ってるのか全くわからねぇからな!」


俺と違ってアヤトさんは、言語理解のチートも無いベリーハードモード。


途方に暮れていると、頭の中に声が響いたらしい。


『おろ~??変な魔力を感じたと思って見に来たら面白いの発見!君、日本人だよね?』


あ~……


つまり、異変を察知したリオさんがアヤトさんを見つけたって訳か。


「頼れるのがその声しか無くてな。胡散臭いと思いながらも、その声の案内の通りに歩いていったんだ。そうしたら、案内された先に居たのがマリオン様の神殿のシスターだったんだ。それから神殿に内密で保護されて、この国の言語、後は自分のスキルと魔道具の基礎的な仕組みを学んだって訳よ。」


「そうだったんですか。」


しかし……と言うとアヤトは悩んだ顔をする。


「俺を案内してくれた声の主が誰だか……未だにわからねぇんだ……お礼を伝えたくても正体が判らなくてな。神殿の関係者に聞いてもニッコリ笑うだけではぐらかされるんだ。それでな、笑うなよ?俺は……もしかしたら、その声の主が海の女神マリオン様だったんじゃないかって思ってるんだ。」


アヤトが真顔でそう言ってくるので、ラグナは吹かないように下を向いて必死に耐えていた。


「俺はあの声の主といつか直接会って感謝を伝えたい。マリオン様かも知れないから、定期的に祈りを捧げに神殿に通ってるんだ。まさか日本人の俺が、こんな風に祈りを捧げに通うようになるとは思ってもいなかったぜ。」


何でリオさんは正体を隠したままなんだろう?


ラグナは必死に笑いを堪えていた。


「それで今更だけど、なんでわざわざ俺の所に来たんだ?」


確かに今更かもしれない。


「学園でアヤトさんの魔道具を買ったんですけど、店主さんに製作者の名前を聞いたら明らかに日本人の名前だったんで気になっていたんです。それで、シーカリオンに行く機会があれば会ってみたいなぁって思っていて。訳あって思っていたよりも早くこの国に来たので、用事を済ませた後に遊びに来ちゃいました。」


「そうだったのか……」


アヤトはふとラグナの耳に付いているイヤーカフスの存在に気が付く。


「ん?お前、まさかイヤーカフスの魔道具まで常時発動しっぱなしなのか?」


「あっ、そう言えばつけたままでしたね。」


「つけたままって……まぁまぁの魔力消費だぞ、それ。どれだけ魔力値がデカいんだ。」


アヤトは思わず呆れ気味にため息を吐く。


ラグナはイヤーカフスに魔力を流すのを止めると、本来の黒髪の姿へと戻っていく。


「それが本来の髪色なのか。珍しいな、この世界で黒髪だなんて。両親が黒髪だったのか……?って悪いな、思い出したくもない事を聞いてしまって。」


「大丈夫ですよ。もう気にしてませんし。」


正直な所、何が元になっているのか判らないからね。

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