1年限りの自由時間
第248話
イルマとの別れから1ヶ月。
ラグナは仮初めの身分として、巫女様付きの専属使用人という立場を手に入れた。
そして……今。
『そんなに怒らなくてもいいじゃん!向こうはずっと君と会いたがっていたんだから。』
「怒るに決まってるでしょ!!何が『私を助けて……』だよ。慌てて駆けつけた僕の身にもなれ!今にも死にそうな演技までしてさ!」
リオから真夜中に『助けて……』と連絡があり飛び起きたラグナは、慌ててリオの身体が保管されている部屋へと駆けつけた。
「リオ!大丈夫か!?」
リオからの返事は無い。
装置の中のリオの身体には特に異常が見られない。
「ウフフ……」
リオの身体が保管されている容器を、必死な表情で何か異常が無いか探していると装置の裏側から人の笑い声が聞こえてきた。
「誰だ!?」
慌てて装置から離れるラグナ。
カツ カツ カツ。
装置の裏側から誰かがゆっくりと歩いてくる音が聞こえてきた。
そして……
裏側から出て来た人物に照明の光が集まる。
「女の人……?」
照明に照らされてライトアップされたのは成人の女性。
たぶん30歳前後だとは思うけど、綺麗な人。
ラグナは警戒しながら話し掛けた。
「誰だ!?何故この部屋にいる!!」
すると……
『ドッキリ大成功~!!』
突然部屋の中にリオの声が響く。
「驚かせてごめんなさいね。」
どうやらリオに騙されたらしいと理解したラグナは大きなため息を吐く。
「リオさん……本気で心配したんだから……こんな事やめて下さいよ。それで貴女は?」
騙された事を理解したラグナは、目の前にいる女性の正体をリオに問う。
『さぁ、ミオンちゃん!初登場はしっかりとね!』
リオがミオンと呼んだ女性。
「私はシーカリオンの現女王、ミオン・シーカリオンです。初めまして、使徒様。」
この国の女王と名乗った女性が手を伸ばして握手を求めてきたので、反射的に手を伸ばして握手してしまったが……
そのまま固まるラグナ。
「じょ、じょ、女王様!?し、失礼を、」
壊れ物に触れたかのように、ゆっくりと握手をしている手を放す。
「失礼なんてとんでもない。こちらこそ、驚かせてごめんなさいね。リオ様には逆らえないのよ。」
ふふっと笑いながら、リオのせいだから気にしないでと答えるミオン。
『も~!!そんなんじゃ全然物足りないよ~!そこはほら、我こそはシーカリオンの女王、ミオンじゃ!頭が高いぞ!とか言って欲しかったんだぞ~!!』
「リオ様、無茶言わないで下さいよ。そんな事をしてマリオン様にバレたりでもしたら、叱られてしまいますわ。万が一の時は、リオ様のせいにしてもいいのですか?」
『……それは困る。僕がマリオン様に嫌われちゃうじゃないか。じゃあ今回の自己紹介で良しとしよう!』
流石にマリオン様に嫌われたくはないリオは今回の自己紹介で納得する事にしたが……
やられた当事者はリオに対して怒りがこみ上げて来ていた。
「り~お~!!やっていい事と悪いことがあるだろう!俺がどんだけリオを心配したと思ってるんだ!こんな夜中に助けてなんてメッセージが来たら本気で心配するだろ!」
激おこなラグナ。
リオの身に何かあったんじゃないかと本気で心配していた。
あまりにも激おこ過ぎて自分の事を俺と呼んでしまうくらいに怒っていた。
『ご~め~ん~。』
「リオ!!」
『……ごめんなさい』
流石のリオもここまでラグナが怒るとは思ってもいなくて、素直に謝罪するのだった。
「本気で心配したんだからね!こんなドッキリの仕方は二度としないで。」
『うん、ごめん。』
この2人の会話を聞いて思わずふふっと笑ってしまうミオン。
「まるで恋人みたい。リオ様が使徒様に素直に謝罪するなんて。」
ミオンにそう指摘された2人。
『!?』
「僕だって相手は選びますよ……」
『それは言い過ぎじゃないのかい!?』
ラグナの辛辣な言葉にショックを受けるリオ。
まぁこんな事をしていたらラグナの言葉も当然だろう。
「それにしても、どうして女王様がこんな所に……?」
何故女王様がこんな所にいるんだろうという当たり前の疑問を思い出したラグナ。
「女王なんて呼ばないで、ミオンと呼んで下さいな。マリオン様の使徒様であられるラグナ様とこっそり会う機会をリオ様に作って貰えないか相談した所、こんな事になってしまったのですわ。」
「僕にこそ様なんて必要無いですよ!?」
ラグナのその反応にあらっ?というリアクションをするミオン。
「ラグナ様、立場上は私よりも上ですわよ?この国の主神であられるマリオン様の使徒なんですもの。」
「えぇ!?」
まさかの事実を告げられるラグナ。
『そりゃそうだろ~。ラグナ君は現役のマリオン様の使徒なんだからさぁ~。……あれ?現役を退いた僕よりも偉いのか??』
若干混乱するリオを放置してラグナはミオンと話す事に。
「僕は立場も何もいらないです……とりあえずこの一年は自分の好きなように動きたいと思っています。」
『だ~か~ら~こっそりとミオンに会ってるんじゃないか~。』
「えぇ。リオ様から事前にラグナ様は目立つことを良しとしないと伺っていたので、このような場を設けてもらいました。」
「そうだったのですか……お気遣いありがとうございます。」
『ラグナ君が生きてるって知ったら一部の貴族や商人が暴走するだろうからね~。君の正体を知る人間は極力少ない方がいいのさ。』
「本当に足を引っ張る事しか出来ない貴族も未だ多くて……」
ミオンの目から若干光が失われたのを感じた。
本当に日々苦労しているんだろう……
『そういえば、マリオン様からの依頼については既にミオンにも伝えてあるよ~。」
「リオ様から聞いております。1年という短い時間ではありますが、この国でのんびりとお過ごし下さい。我々はその間に2ヶ国に送る物資を準備致します。」
「ありがとうございます。残り11ヶ月くらいですが、お世話になります。」
こうしてこの国の女王であるミオンと初めての顔合わせは無事?に終了するのだった。
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