第239話
「お待たせしました。」
休憩スペースでイルマとのんびり紅茶を飲んでいたが、まさか一杯目を飲み終わる前に神殿騎士の2人が戻ってくるとは思いませんでした。
「個室も空いていたのでおさえてあります。それではいきましょうか。」
ラフな格好になった神殿騎士だけど、腰にはきっちりと剣を装備したままだった。
ぱっと見は冒険者に見えるが、雰囲気が冒険者のソレとは違うのが判る。
目的の食事処は神殿の近くにあった。
『食事処 漁村』
「す、凄い名前ですね……」
店の名前が漁村って……インパクト凄いな……
ラグナが名前に驚いている中、イルマも驚いていた。
「ラグナ、本当に大丈夫?このお店って結構有名な所よ?……その私、持ち合わせが……」
「お金なら気にしなくていいよ。いろいろあって結構稼いできたからさ。」
イルマは一体何があったのよと聞きたい気持ちをグッと堪えて案内されるがまま店の中へ。
「ふぁぁ~!」
「凄いね!」
お店の中にはでっかい池があり、その中でいろいろな魚が泳いでいた。
「いらっしゃいませ~!あっ、スーさんとラフさんじゃないですか。お帰りなさいませ~!」
「あぁ。ただいま。」
「ただいま。さっき話した通りこの2人を個室に案内してもらえるか?」
「わっかりました~!2名様ご案内しま~す。スーさんとラフさんはお好きにどうぞ~。」
そういえば名前を聞いていなかったけど、スーさんとラフさんって呼ばれてたな。
それにしても……
お店に来てお帰りなさいって言われた事にも驚きだけど、普通にただいまって返事してることにも驚くばかりだ。
「我々は2人で適当に食事をしているのでごゆっくりどうぞ。」
とりあえずお言葉に甘える事にして、席へと案内してもらった。
案内してもらったのだが……
普通の個室はお互いが向かい合った席だと思うのだが……
「なんでこんな作り……?」
囲炉裏付きのテーブル。
そして隣り合わせで密着して座る配置。
目の前には窓。
窓から見える景色は……
オーシャンビュー……
『漁村って名前はどこに行ったんだ!完全にカップルシートじゃないか。』
しかも何故か若干ピタッとくっついてくるイルマ。
いくら姪っ子とは思っていても少しは意識してしまう。
「と、とりあえず何か頼もうか。イルマは何か食べたいのある?」
「先輩方はここの煮付けと囲炉裏で自分達で焼く焼き魚が美味しいとは言ってたけど……ラグナは何か食べたいのある?」
「煮付けは食べたいとは思ってたけど……初めて来たお店だからね。後はお店の人にお任せしようかなって思ってたよ。」
「じゃあ私もそうする。」
ベルを鳴らすとすぐに店員さんが来たので煮魚と後はお任せで頼むことになった。
「お待たせしました~。金目鯛の煮付けになります~。骨はこちらで取りますね~。」
金目鯛……
金目鯛!?
目の前で綺麗に骨を取り除かれていく魚は確かに金目鯛だ……
でも……
名前も見た目も同じってどういう事だ……?
なんで異世界に金目鯛が……?
大皿で運ばれてきた金目鯛。
「それでは仲良くお食べ下さい~。うふふ~。」
と笑いながら去っていった。
つまりこれ一皿で2人分って事か……?
「と、とりあえず食べようか。」
「うん!めっちゃ美味しそう!」
「「いただきます。」」
ほぐされた身を口に運ぶ。
ホロホロに柔らかい身。
甘口のタレがきっちりと染み込んでおり、噛む度にタレの甘みと金目鯛の旨みが広がっていく。
「美味しい……」
懐かしい日本の味付け……
思わず目がウルッとしてきてしまう。
「先輩方がまじで美味いからってよく話をしてたけど本当に美味いな!ってラグナ、どうした!?」
イルマがラグナの顔を見ると目がうるうるしているラグナに驚いてしまう。
「な、何でもないよ!本当に美味しいね!」
ラグナは若干慌てながら目を拭いて誤魔化していたが、
『確か使徒様って処刑されたって話があったよな、でもラグナはこうして無事だし……私には判らないくらい辛い思いをしたんだろうな。』
イルマはフォークをテーブルに置くとラグナの方へと振り向く。
イルマが自分の方に向いた事に違和感を感じたラグナ。
「ん?どうした……!?」
むぎゅ。
イルマに突然抱きしめられた。
そしていい子いい子と頭を撫でられる。
「えっと……イルマ?」
「話は宿で聞く。ラグナが無事で本当に良かった。」
「あ、ありがとう。」
ラグナは前世を思い出してウルッと来てしまったのだが、イルマはそれを見て勘違いしてしまったらしい。
「お待たせしました~って、あら~!」
イルマに抱きしめられているこの状態を次の料理を運んできてくれた店員さんにがっつりと見られてしまった。
慌てて離れるイルマ。
「お若いですね~。ごめんなさいね!こちらの秋刀魚は囲炉裏でじっくりと焼いてからお食べ下さい~。」
「……わかりました。」
お互いに顔が真っ赤になりながらも串にさされた秋刀魚を囲炉裏でじっくりと焼きながら金目鯛の煮付けを食べ進めるのだった。
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