第233話

ラグナにどうぞと紅茶を用意してくれた少女。


その美貌にラグナは一瞬見惚れてしまっていた。


しかしすぐに違和感を感じる。


ラグナの視線に気がついた少女はガチガチに緊張しながらもチラッとラグナの姿を見る。


そしてお互いに目が会うとぺこりと会釈をした後に首を傾げる。


『『どこかで会った事があるような……?』』


疑問に感じながらも少女は紅茶と茶菓子を用意していた。


「ラグナ様、どうぞお飲みになって?我が国特産の茶葉を使った紅茶ですわ。」


エミリーに進められたラグナは「頂きます。」と紅茶に手を伸ばそうとしたその時、


『ラグナ様……?ラグナ……ラ……グナ……?』


少女はチラリと改めて目の前にいる少年を見る。


特徴的な髪色の少年。


全体的に金髪で毛先は銀色。


よく見たら一本だけ目立つように青色の髪の毛が。


そして顔……


特徴的な髪色に目がいってしまっていたが、改めて顔を確認すると……


『!?』


少女は恐る恐る客人である少年に声をかける。


「ラ、ラグナなのか……?」


急に少女に名前を呼ばれてビクッと驚くラグナだったが、改めて声を聞いて少女の正体に気がつく。


「イ、イルマ!?」


「お、お前、その髪色はどうしたんだよ!?」


「そっちこそ、どこぞのお姫様みたいな見た目でどうしたんだよ!?」


「バ、バカ。お姫様なんて訳あるか!学園長にメイクしてもらったらこうなったんだよ!」


ラグナは驚いて学園長を見る。


「素材が良かったのよ。久々に本気でメイクしたわぁ。それよりも……ラグナ様はこの娘とお知り合いみたいね?失礼でなければ教えて貰っても?」


「幼なじみなんですよ、小さい頃から同じ村で……」


『村か……イルマのこの様子だと何も情報は来てなさそうだな……』


ラグナが同じ村と言う言葉を発してからガラッと雰囲気が変わったのを感じ取った2人。


「ラグナ様、何かあったのかしら……?その様子だとこの娘に何か伝えるために学園に来たのよね?」


「……はい。」


ラグナが下を向いて俯いた様子にイルマは動揺していた。


「な、なぁ……何があったんだ……?」


歯をグッと堪えながらラグナは事前に背嚢に仕舞っていたイルマの両親の遺髪と2人が良く身につけていたネックレスや指輪などをテーブルに並べていく。


イルマは立ち上がると震える手でゆっくりと遺髪を手に取る。


「……アオバ村が壊滅した。」


ラグナは必死に涙を堪えてイルマにそう伝えた。


「う、嘘だろう……」


イルマはまだ信じられなかった。


「ペッツォ伯爵領にて魔物のスタンピードが発生したんだ。スタンピード発生の連絡が来たときにはすでに伯爵領は陥落。そのまま魔物達はうちの村やナルタに流れ込んで来たんだ。」


「でも!村には腕利きの狩人達や村長、それにお前の親父さんやハルヒィさんだって……」


「魔物達が村を襲ってきた時には狩人達や村長は村に居なかったんだよ……元ナルタ辺境伯が村にやって来たらしくてね。村長や狩人達を無理やり護衛にして王都へと向かったらしいんだ。今考えると魔物のスタンピードが発生したのを知っていたんだろうね……」


「そんな……」


イルマは力が抜けたように椅子に座り込む。


「……お前の両親は?」


「……行方不明だよ。僕があの国を出る前に無事が確認出来たのはハルヒィさんとメイガを含む村の子供達だけ。僕が村に着いた時には村のみんなの遺体があちらこちらに散らばってたよ……」


学園長であるエミリーは絶句していた。


『魔物のスタンピードが発生したとはあの御方から聞いていたけど……この歳でそんな地獄を見てしまったのね……歳不相応に大人びてる印象だけど……そんなモノを見てしまったからかしらね……』


「あの国の一部の軍人の人達に協力してもらって村のみんなは弔ったよ。慰霊碑みたいな物も作ってある。」


「……いちいちあの国の軍人が小さな村が壊滅しただけでそこまで?」


腐敗が進んでいるのは何も貴族だけではない。


軍人だって同じように腐敗が進んでいるのは歴とした事実。


イルマはこの学園に来て学び、知り、ヒノハバラが如何に腐っているのかを知った。


だからこそ軍人がそんな事をするなんて信じられ無かった。


「信じられないかも知れないけど……学園の仲間の親があの国の大臣でね。それで知り合いになったんだよ。」


「そもそも大臣の子供と同じクラスにお前はなってたのか……?」


「うん。一応ね。」


ここで学園長が2人の話に割って入る。


「ねぇ、イルマさん。ヒノハバラでマリオン様の使徒が誕生したって聞いたこと無いかしら?」


「あります。私を含めて皆が浮かれていましたからね。でもその後に守護の女神の神殿が処刑したって……」


「イルマさん、今日のお客様はどんな方って私が話をしていたか覚えてます?」


「は、はい。絶対に失礼があってはいけない御方だ……と……?」


『そう言えばそうだ。なんでラグナが居るんだ?それに学園長がラグナ様って……』


混乱するイルマに学園長であるエミリーは爆弾を投下する。


「この方が噂の御方。マリオン様の使徒であらせられるラグナ様よ。」


「……へ?」


村が壊滅し、両親が亡くなり悲しみに暮れる中、幼なじみが使徒と呼ばれる存在だと言われて混乱するイルマだった。




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