第231話

「学園長、説教は後にしてまずはイルマさんを……」


説教を始めようとした学園長に対して、事務の男性職員が待ったをかける。


「……わかってるわ。そろそろ朝食の時間は終わりよ。皆は授業の準備をしなさい。」


食堂内にて恐怖で固まっていた生徒達は大慌てで退出していく。


自分たちにとばっちりが来るのはごめんだと言わんばかりに。


学園長と呼ばれている男性?はふぅーっと深呼吸をするとイルマの方を向く。


「あなたは授業に行かなくていいわよ。」


「えっ……?」


授業料を滞納しているからもう授業には出なくていいという意味だろうかとイルマは考えてしまった。


「何か勘違いしてるわね。今、貴女が考えているような事じゃないわ。」


学園長はイルマに対して椅子に座るように指示をする。


「急で申し訳無いけど、あと1時間ほどでこの学園に大切なお客様が来場されるの。そのお客様が貴女を指名しているのよ。」


「お客様ですか……?えっと……どなたでしょう……?」


イルマは学園長直々に出迎えるような立場のお客が、何故私を指名しているんだろうと全く意味が判らなかった。


その様な立場の方との接点など今まで一度たりとも無かったはず……


「私も直接は面識が無い方よ。ただ、絶対に失礼があってはいけない御方なのよ。とりあえず……このままじゃ駄目ね。ちょっとこっちに向いて座って。背筋はまっすぐによ?」


イルマは学園長の指示に大人しく従う。


すると学園長はイルマの横顔を確認したり、いろいろな角度からイルマを観察。


そして、


「決まったわ。後は私に任せなさい。」


「??」


何を任せればいいのだろうかとイルマは困惑する事しか出来なかったが、訳も分からないままコクりと頷いた。


大量の化粧道具が並べられると、学園長自らその腕前を披露するのだった。


30分ほどで化粧やいつの間にか部屋に用意されていた衣装に着替え終わった。


「ふぅ、久々に満足のいく出来だわ。さぁ変わった自分の姿を見てみなさい?」


学園長に鏡の目の前に立つイルマ。


『いやいやいや!これ誰だよ!本当にアタシなのか!?』


ただただ鏡に映る姿が自分と言われても信じきれないほどの大変身だった。




「ここが商業学園かぁ。」


ラグナは神殿騎士に付き添われながらマリオン商業学園へと到着した。


「よ、ようこそマリオン商業学園へ。」


ラグナ達が学園へと到着すると、すぐに職員が駆けつけてきてペコペコと何度も頭を下げるのだった。


「では、我ら2人はここでお待ちしております。」


「い、いやぁ……何時になるか判らないので大丈夫ですよ?道は覚えたので帰りは1人でも……」


馬車は断ったが、せめて案内人くらいは付けるよ~と賢者リオから伝言が来ていたが……


まさか神殿騎士が2人もラグナの案内にやってくるとは思わなかった。


素顔を晒したままぶらりと学園へと向かう予定だったラグナだったが、神殿騎士が付きそうとなれば必然的に目立ってしまう。


慌ててフード付きのローブを羽織ると深くフードを被るのだった。


「ど、どうぞこちらへ。よ、よろしければ騎士様お二人も中へどうぞ。」


神殿騎士の2人はどうする?と話し始めてすぐに結論が出た。


「好意に感謝する。お言葉に甘えさせて貰おう。」


学園の中でもラグナの警護が出来るようになった為、神殿騎士はその好意に乗ることにした。


ガチガチに緊張した職員に連れられていざ学園の中へ。


『ヒノハバラの学園とは大違いだなぁ。』


廊下を歩いているだけでもすぐに違いがわかるほど。


商業学園の方が圧倒的に金が掛かっているのが一目見てわかる。


立派な壁材だけでなく廊下には一直線に絨毯が敷かれており、まるで貴族の屋敷のようだ。


そしてどうぞこちらへと案内された小部屋……


「動きますがご安心ください。」


職員が壁に設置されているスイッチを操作すると、扉が閉まる。


そしてウィーンという音と共に懐かしい感覚が……


「これはエレベーターという魔導具で階段を使わなくても階を移動出来る魔導具なのですよ。この魔導具は王城とこの学園の2ヶ所しか設置されていない貴重な魔導具になっております。」


ピンポンと効果音が鳴るとゆっくりと扉が開く。


そしてエレベーターを出た先には学園長室が。


コンコン


「学園長、お客様をお連れしました。」


職員が部屋をノックした後、中からどうぞとの声がしたのでゆっくりと扉が開かれる。


そして学園長室の中へ……


「ようこそ、マリオン商業学園へ。」


深々とラグナに対して頭を下げる学園長。


そして驚いてつい、声を出してしまうラグナ。


「な、なんでエイミーさんがこんな所に!?」

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