第214話

勇者パーティーの記念碑のすぐ近くには、カーリントー記念館という看板がついている建物があったので寄ってみる。


「いらっしゃいませー。カーリントー記念館へようこそ。」


建物に入るといきなり声が聞こえたので身体がビクッと反応してしまった。


声の主をきょろきょろと探してみるが人の姿は見えない。


「カーリントー記念館では街の名前の由来から賢者様についてまで様々な展示をしております。ごゆっくりご覧ください。料金は無料となっております。」


声が聞こえる方向を見ると壁に穴が開いており、そこから声が聞こえているようだった。


「なお、展示物は大変貴重な物も多数展示されているので、お手を触れないようにご注意下さい。全ての展示物には監視装置の魔道具が設置されております。反応がありましたらスタッフがすぐに確認致しますので協力の方よろしくお願いします。」


無料とはいえ、どうやらセキュリティーはばっちりらしい。




『かりんとうと賢者様の出会い』


賢者様がかりんとうと出会うきっかけ。


勇者ヒノが賢者リオの噂を聞きつけて魔王討伐のパーティーへの参加を依頼した。


しかし賢者リオは魔道具の開発にのめり込んでおり、魔王討伐なんてものには興味が無かった。


「どうしても私の心を動かしたいなら、異世界人である君にしか用意することが出来ない簡単に摘まめる甘味でも用意するんだね~。」


勇者ヒノは簡単に摘まめるという部分で悩みに悩んだらしい。


そして思い出す。


『確か転移される直前に安売りしていたから買ってあった菓子がリュックの中に仕舞ってあったはず。』


収納スキルに仕舞いっぱなしになっていたリュックを取り出す。


そして中から取り出したのが『かりんとう』


賢者は初めてみたかりんとうのフォルムに警戒する。


「まさか私に動物の○ンを食べさせようとするなんてね!!それともなにかい?君の世界ではフ○を食べる習慣でもあるのかな!?」


そう言いながら賢者の機嫌はどんどん悪化していく。


勇者ヒノは苦笑いをしながら『かりんとう』の袋を開けると1本取り出して口の中へ。


そして齧ったかりんとうを見せる。


「そんな物じゃないから安心して。」


確かにフ○では無いと気が付いた賢者は恐る恐る1本手に取ると匂いを嗅ぐ。


「確かにフ○では無さそうだねぇ……甘い匂いだ。」


見た目が見た目だけに勇気を振り絞って一口齧る。


サクッ。


もぐもぐ。


サクッ。


もぐもぐ。


「どうかな?」


勇者ヒノは賢者に訪ねる。


「……合格だよ。これはどれくらい用意出来るんだい?」


「残念だけど、これ一袋しか持って無いんだよ。」


賢者はその答えに絶望する。


「私が求めていた甘味がこの一袋しか存在しない……?嘘だろう……」


すると勇者ヒノの隣に天から光が注ぐ。


「あっ女神サイオン様。」


勇者ヒノの隣に守護の女神サイオンが降臨した。


「賢者よ。魔王討伐の協力をしてくれるのならば、週に1度この『かりんとう』を配給しましょう。そして魔王討伐が叶った暁には『かりんとう』のレシピと作るのに必要な作物の種を異世界より取り寄せましょう。」


その言葉にすぐさま賢者は返事をする。


「それは本当かい!?それならば私、賢者リオは勇者ヒノと共に魔王討伐に向けて旅に出ようじゃないか!!」


「賢者よ、任せましたよ。それでは私の願いに答えてくれたお礼にもう一袋差し上げます。」


女神サイオンが手を空中へと向けると『かりんとう』がもう一袋出現した。


そして賢者へと手渡すと天界へと帰っていくのだった。


これが賢者様と『かりんとう』との運命の出会いである。




「えっ……!?」


賢者様と『かりんとう』との出会いの説明を読んだラグナは驚きを隠せない。


「今と違って過去の時代、守護の女神サイオン様は簡単に降臨していたのか……?」


守護の女神サイオン様。


サリオラの母親。 


『ずっと聞くことを躊躇っていたけど……一度きちんと話を聞いてみるしかないよな……』


そう考えながらカーリントー記念館の中を進んでいく。


今の時代でも使われている照明の魔道具やシャワーの魔道具などの生活の質を向上させるような魔道具のほとんどは、賢者様が開発に携わっていたらしい。


勇者ヒノの世界の道具をこの世界でも再現したものが数多くあった。


そして所々賢者様について書かれている文章を読んでいると、どこかで会ったことがあるような気がしてくるのだった。

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