第197話
『この街……なんだろう何かがおかしい。』
タチアナさん達の馬車から降りたラグナは街中をぶらぶらと適当に歩いていた。
街を歩いてすぐに異変に気が付く。
『住人達の笑顔が少ない。なんか暗い感じだな。』
街自体がどんよりとした雰囲気が漂っている。
「おい、聞いたか?来月からまた税金上がるらしいぞ。」
「まじかよ。年明けに値上げしたばっかりだろ。」
「いいよなぁ、貴族様は。金に困ったら俺たちから搾り取ればいいだけだもんな。」
「でもなんで上がるんだ?」
「まだ内緒にしておけよ。仲のいい商人から聞いた話だがな……どうやら魔の森で魔物のスタンピードが発生したらしい。いくつかの村と街が壊滅したって話だぞ。だから食料品の値段が上がってるらしい。特に魔物の肉の値段がヤバいとか。」
「まじかよ。だからこんなにも食料品の値段があがってるのか。」
どうやらこの街にもあのスタンピードの噂が広がりつつあるらしい。
「おじさん、これなんのお肉?」
ラグナは出店で売っている串焼き屋に立ち寄ると店主に話掛ける。
「おぅ、この肉はウサギ肉の串焼きだ。嬢ちゃん1人か?」
「今ちょっとお母さん達と離れて買い物してるの。ウサギってホーンラビットのこと?」
「ウサギはウサギだ。うちの街には魔物の肉なんて滅多に入ってこないぞ。嬢ちゃんはホーンラビットの肉を見たことがあるのか?」
「うん。たまにお家のご飯で出てたの。」
「そうか。魔物の肉が食えるって事は、さては嬢ちゃん良いとこのお嬢さんだな?どうだ食べるか?」
「どうだろ?ふつうの家だと思うよ?それじゃあ1本ください。いくらですか?」
「銅貨5枚だよ。持ってるか?」
『小さい串焼き1本で銅貨5枚か。ちょっと高く感じるな。』
「はい、銅貨5枚。」
「毎度あり。少し高く感じただろ?すまんな。最近仕入れ価格が急に高騰したんだよ。」
出店のおじさんからいろいろと話を聞けた。
どうやら肉だけでなく穀物など食料品の値上げが徐々に始まっているらしい。
特に肉の値段だけは急に暴騰したとか。
「どこかの領地が壊滅した結果、商人どもが買い占めを始めたんじゃないかって言われてるんだ。何せこの街にはエチゴヤの店が無いからな……商人どもが好き勝手しやがる。」
そんな状態で更に税金の値上げ。
反対したくてもこの領地を治めているのは公爵。
反対意見を言いたくても言える相手じゃない。
「何せ、貴族様は俺達を人とは思ってない……」
更に他の領主が治める領地に移住したくても、この街から他の街へと移住するには莫大な金をヨハム公爵へと支払わないと移住する事が出来ない。
「いろいろ話をしてくれてありがとう!!時間あったらまた来るね!」
「おぅ!待ってるぜ。あんまり女の子が1人でぶらぶら街を歩くのはすすめられねぇからそれ食ったらすぐに親御さん所に戻るんだぞ!」
「わかった、ありがとー。またねー。」
串焼き屋の店主と別れると、近くに公園のような広場とベンチがあったので座って食べる。
『お肉自体は美味しいんだけど、ちょっと塩気が薄いかな。』
周りから怪しまれないように手のひらからこっそりスパイスを振りかける。
『うん。これぐらいならちょうどいい。それにしても……』
さっきからチラチラと人の視線を感じる。
『これは早めに移動した方がいいかな。』
肉を食べ終えた後、手に串を隠し持ったままラグナが立ち上がり歩き始める。
わざとキョロキョロと周囲を見渡すと慌てて木の後ろに隠れた男と、急にわざとらしく会話を始めたグループがいた。
『今までこんな事無かったんだけどなぁ……やっぱり女の子の格好がいけないのかな?』
急ぎ足で再び街中を徘徊する。
『しつこいな。ずっとついて来る。』
ぐるぐると移動していたが曲がり角を曲がると行き止まりの道に進んでしまった。
『あっ、やべっ。』
この光景はマンガでよく見た光景だ。
『でも今の身体能力ならっと。』
ラグナは急いで身体強化魔法を使うと行き止まりの後ろにある倉庫の屋根へと飛び乗り隠れる。
「おじょ~ちゃ~ん、お兄さん達と遊ぼうぜ~」
「楽しいことしよう~!」
そんな事を言いながら男達が歩いて曲がり角を曲がる。
そして男達は慌てる。
いると思っていた獲物がいない。
極上の品が手にいると思っていた男達は声を荒げる。
「どこに消えやがった!!」
自分達が楽しんだ後は売り飛ばせばいいと思っていた獲物が消えた。
「探せ!逃げ場なんて無いはずだ!」
男達はゴミを漁ったり、再び来た道を戻ったりしてラグナを探し回る。
そんな姿をラグナは冷めた眼で見ていた。
『本当に領主がアレだと街もアレだな……』
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