第198話

暴漢達から逃げ切ったラグナは宿を探すことにした。


『本当にこの街の治安良くないなぁ……安宿はやめて、ある程度お金かかっても良いから警備がしっかりしている宿に泊まろう。』


そう思いながら宿を探すラグナだったが、すぐに問題が発生する。


「申し訳ありません。いくらお金を積まれようとも子供だけの宿泊はお断りしております。」


その後、数件宿屋を探し回るが同様に断られ続けた。


『どうするかなぁ……やっぱりお願いしますって神殿に頼むのも巻き込んじゃうかもしれないからあれだしなぁ……』


ふらふら歩いていると少し古びている三階建ての宿があった。


『木陰の宿』


入り口には警備員らしき人が1人立っている。


警備の人にチラッと見られながらも何も言われないので軽く会釈をして、そのまま扉を開けて宿の中へ。


チリン、チリン


宿の扉を開くと鈴の音が鳴り、女将さんらしき女性が宿の奥から現れた。


「可愛らしいお客様、木陰の宿へようこそ。ご宿泊ですか?」


今までの宿とは違う対応に驚く。


「とりあえず一泊したいのですがお部屋はあいてますか?」


「はい、大丈夫ですよ。失礼ですがお一人様ですか?」


「はい……やはり子供だけですと駄目でしょうか?」


「いえいえ。大丈夫ですよ。お部屋はどうしますか?現在あいているお部屋は1人部屋と2人部屋。後は高額になってしまいますがお風呂付きのお部屋などもあいております。」


お風呂という言葉にかなり惹かれたが、ここはぐっと我慢する。


「1人部屋でお願いします。」


「お食事は如何しますか?お食事無しだと1人部屋1泊大銅貨8枚。夜と朝の2食付きですと銀貨1枚になります。」


『1泊2食付きで銀貨1枚は高いけど……ちゃんと警備に人もいるし、妥当なのかな?』


正直な所、妥当な値段なのかはわからない。


でもやっと宿泊先が見つかったラグナは安堵する。


「支払いは先ですか?後ですか?」


「先でお願いします。」


ラグナは女装した時に手渡された小さなカバンに手を入れて収納スキルから銀貨一枚を取り出すと、女将さんへと手渡す。


「それではお部屋にご案内します。」


女将さんの後ろをついて行く。


受付の横にある部屋は食堂になっている。


『ちょっとお腹すいたな。』


階段を上がって2階の廊下を歩く。


「お部屋はこちらになります。」


案内された部屋は小さい窓が1つ。


後はベットと最低限の収納と小さい照明だけ。


「外出する際はこちらの鍵を受付にお渡し下さい。また夕食は夜6時の鐘の音が聞こえましたら、1階にある食堂にお越し下さい。朝食は朝7時に鐘の音が聞こえるので同じように食堂までお越し下さい。」


「ありがとうございます。」


「他にご質問はございますか?」


「大丈夫です。」


「それではごゆっくりと。」


女将さんが部屋を退出したので、手に持っていたダミーのカバンを収納スキルに仕舞う。


そして少しだけ部屋を探索。


「収納は手荷物くらいなら入りそうだな。でも流石に鍵は無いか。照明のスイッチはこれかな?」


ボタンを押すと照明が点灯する。


「蝋燭の炎くらいの明るさしか無いのか。日が落ちたらほとんど室内が真っ暗になりそう。」


後は特に見る場所も無いのでぼーっと外を眺める。


「それにしても人通りも少ないな。」


辺境であるナルタの方がまだ人通りも多く、店を構える商人達も声をあげて商売をしていたが……


本当にこの街は静まり返っている。


「ナルタの辺境伯はだいっきらいだけど、この街に比べたらちゃんとやっていたって事かな?」


そして6時の鐘の音が聞こえたので食堂へ。


「ラーナ様、こちらの席へどうぞ。」


言われた通りに席に座る。


『他の客は3組か。後はご飯抜きの宿泊者がいるくらいかな?』


建物の規模に比べたら少ない気がする。


「本日の夕食は鹿肉のステーキと野菜のスープとパンになります。」


「おー!美味しそう!」


鹿肉と聞いて喜ぶラグナと落胆した様子の他の宿泊者達。


「鹿肉かぁ……」


「まぁ肉があるだけましか……」


『みんなどうしてそんなにガッカリしてるんだろう?』


そう思いながら食べやすいように小さく切られている鹿肉にフォークを突き刺す。


『ん?』


突き刺す瞬間に少し違和感があったけどそのまま口の中へ。


モグっとした瞬間に他の宿泊者達のリアクションの意味を知る。


『なんだこれ!?めっちゃ肉が固い!そして臭い!』


歯ごたえが凄い。


凄すぎる。


そしてこの臭い。


きちんと下処理されてないんじゃないだろうか?


とりあえず飲み込むと口直しにスープへ。


『こっちは塩気が一切無し。素材のままの味だ……』


そして手に持つ黒パン。


持った瞬間に理解する。


『カッチカチじゃん!スープに浸けようにも味薄いし……』


一気に食欲が失せていくラグナ。


頑張って鹿肉だけは食べ尽くし終了。


「ごちそうさまでした……」


部屋に戻ろうとした時に外から帰ってきた他の宿泊者に出会う。


「嬢ちゃんまさかここの飯を食ったのか?」


「はい……」


「ガハハ!そりゃそんな顔にもなるか。いいか、もし次に泊まるときは飯抜きで泊まるのが正解だからな!」


どうやらこの宿はメシマズとして有名らしい。


「次からは気をつけます。」


しょんぼりした気分のまま部屋へと向かう。


『だから子供1人でも泊めさせてくれたのか。宿泊者が少ないから……』


そして部屋へと帰るラグナだった。


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