第192話

昨夜はブリットさんからの好意によりエチゴヤの宿、ナルタ店に泊まらせてもらうことになった。 


「ゆっくり休めたかね?」


「はい!のんびりとお風呂に入ることが出来ました。ありがとうございます。」


ラグナは朝早く起きると、朝風呂を楽しみながらリビオが起こしに来る時間までのんびりと湯に浸かっていた。


「それにしても、話に聞いていた以上にラグナ君は風呂が好きなんだねぇ。」


「湯に浸かると、のんびりとした気分になって好きなんですよ。」


「そんな所もラグナ君は初代勇者様に似てるんだね。」


軽く探りを入れられながらも、ブリットさんと一緒に食堂へ。


「なっ!?この量は一体……」


食堂には2人で食べるとは考えられないほど大量の料理が様々なテーブルに置かれていた。


「僕達の朝食はこのテーブルに載っている分だけ。後はラグナ君の為に作った物だ。旅先で摘まめるように小分けにしてあるよ。」


食堂には従業員の姿は一切無く、ブリットさんとリビオさんしか居ない。


収納スキルで収納し易いように人払いもしてくれていた。


「あ、ありがとうございます。」


ラグナはあまりにも大量に用意された料理の量に驚きつつも次々と収納していく。


「まさかこの目で勇者様と同じスキルを目にする日が来るとは思ってもいなかったよ。あとはそっちにある調味料も持っていって構わないよ。ラグナ君、好きなんでしょ?」


そう言われて用意されていたのは醤油と味噌だった。


「こんなにも大量に……本当にいいのですか?」


「構わないよ。旅の道中は是非楽しんで。」


「ありがとうございます。」


ラグナはブリットからの好意に甘えることにした。


「それじゃあ、1時間後に出発するとしようか。出来れば昨日みたいな服装だと助かるよ。」


「わかりました。出発前に着替えておきます。」


そして1時間後。


エチゴヤの宿の目の前には馬車が既に待機していた。


ブリットさんと共に宿を出ると、エチゴヤの宿の従業員や支配人が総出で見送りに出て来ていた。


「旦那様、お気をつけていってらっしゃいませ。」


「「いってらっしゃいませ。」」


支配人のフームさんの声にあわせて従業員もお見送りをする。


そしてフームさんだけが近寄ってくると耳元で囁いてきた。


「再びのご宿泊ありがとうございました。我がエチゴヤの宿ナルタ店は、何時でもあなた様のご来訪を歓迎致します。またのお越しをお待ちしております。」


そう言うとフームさんは深々と頭を下げてきた。


「やはりここの従業員には君のことはバレてしまうね。くれぐれも秘密で頼むよ。」


「分かっております。それではお気をつけて。」


フームさんを含む従業員のみんなから見送られてエチゴヤの宿を出発する。


俺はエチゴヤの宿のみんなからの暖かい気持ちに触れ、涙が止まらなかった。


ブリットは涙を流すラグナの頭を優しく撫でていた。



馬車に揺られること2日。


「この道を左にまっすぐ向かうとシーカリオンに着くよ。でもその前に最大の難関がある。国境越えだ。シーカリオンとの国境線の街『ヨハネス』はヨハム公爵が治める街で、シーカリオンに行くためにはここを突破しなければいけない。」


ヨハム公爵と聞いてピクッと反応するラグナ。


ブリットもラグナがヨハム公爵の名前に反応したことに気が付く。


「本当に奴は面倒だからね?騒ぎを起こさないように気をつけるんだよ!」


「わかりました。なるべく騒ぎにならないように気をつけます。本当にここまでいろいろとありがとうございました。」


ブリットはラグナの反応に確信する。


『これは完全に何かをやらかすつもりだな。』


ブリットはため息を吐くと馬車の荷物置きからとある道具を取り出す。


「この魔導具は知ってるよね?」


ブリットはラグナに魔導具を手渡す。


「それは転移球と転移柱だ。使い方は?」


『確か転移先に転移柱を設置すればいいんだよね。転移球を使えば登録された転移柱の場所まで転移出来るんだよな。』


「大丈夫です。これって物凄く高いって聞いたのですが……いいのですか?」


「どうせ君は何かをやらかすつもりなんだろう?ならば成功率を上げるためにも持っていきなさい。それに奴にはいろいろとお世話になっているからね。シーカリオンから商品を仕入れるだけでも一体今までいくら無駄に金を払ってきたか……本当に気をつけるんだよ?」 


ブリットさんもいろいろと苦労していたのか。


「本当にありがとうございます。大事に使わせて頂きます。」


手に持っている転移柱を収納すると改めてブリットとリビオにお礼を伝え、ヨハネスへ向けて出発するのだった。

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