第186話

「これより異端者ラグナの処刑を執り行う!」


高々と宣言される。


『えっ……』 


流石に、いきなり処刑されるとは思ってもいなかった……


でもなんだろう。


ビックリするぐらい冷静な自分に驚くよ。


役人らしき人が出てくると手に持った羊皮紙を広げてらラグナの罪状が読まれていく。


・ 他教の女神である海の女神の布教行為


・ 女神降臨などと言う嘘で人々を惑わした詐欺罪


『他教を布教した覚えも無いし、実際にマリオン様やサリオラは現世に降臨したんだけど…… 』


ふと魔力を感じたので観客席を見渡す。


前列席には同じ学園のクラスメイトの皆が歯を食いしばり、目に涙を溜めている姿が見える。


仲良くなった先輩方の姿も。


貴賓室らしき方向からも膨大な魔力を感じたので振り返ると、王と目が合う。


ただ無表情で俺を見つめていた。


ちなみに貴賓室にはビリーさんやマルクさんの姿は無かった。


フィリスの姿も確認出来ない。


宝石をジャラジャラと音を立てながら偉そうな人物が近寄ってくる。


「守護の女神の神殿、教皇ニコラス・フィニョンの名の下に異端者ラグナの刑を執行する!配置へ!」


崖のすぐ側へと連れて行かれる。


「動くなよ。」


そう言われた後に両足の足首には、鉄の重りを装着された。


崖から下を覗く。


『岩とかは無さそうだな……』


ラグナが立つ場所は断崖絶壁。


水深が浅いと岩に当たって痛そうだからやだなと、どこか他人事の様に思ってしまっていた。


一応見る限り水深は深そうだった。


目の前に広がるのは広大な海なのかとも思ったが、潮の香りは一切しない。


『ここはどの辺だろう……?こんな所、王都周辺にあったかな……』


ラグナがそんな事を考えていると、生臭い臭いと共に桶を抱えた2人の人間がやってきた。


「やれ。」


俺を見張っている人物が桶を持った2人に指示すると、血の付いた大量の肉が海?湖?に投げ込まれていく。


水辺に生息する魔物だろうか?


水面へと肉が投下されてすぐにバチャバチャと水面に音を立てて、何匹もの魔物らしき物体が肉を奪い合っている姿が見えた。


そして……


「刑を執行せよ!」


教皇の掛け声と共にラグナは崖から突き落とされるのだった。






……


…………


『あれ?』


ラグナは異変に気がつく。


流石に突き落とされた時には恐怖を感じ、目をギュッと閉じてしまった。


そしてすぐに水面へと身体が叩きつけられた痛みを感じた。


その後は魔物達から襲撃されると思い、身構えていた。


しかし痛みが襲ってこない。


呼吸が出来ない為、限界まで我慢したが……


『ぐはっ!』


我慢出来なくなり口をあけてしまう。


すると口の中に大量に水が入ってくる。


『く、苦し……くない……?』


口の中に大量に水が入ってきたのだが……


苦しみを感じない。


むしろ普通に呼吸出来ている様な感じになっている気がする。


ラグナは恐る恐る目をあける。


『なっ!?』


驚くべき状態だった。


自分が今いる場所は水中と言うより水底と言うのが正解だろう。


確かに水底まで沈んでいるが、普通に呼吸が出来ている。


水を吸っては吐いてを繰り返しているが、苦しくない。


ふと、とある方と初めて出会った過去を思い出した。


『ちなみに貴方への加護ですが、水の中でも呼吸が可能になり水中でも地上と同じ様に自由に動くことが出来ます。』


「あの時の……そっか、マリオン様から貰った……」


あの時は貝とか取るときに便利だと思っていたけど。


その後はこのスキルを試した事が一度も無かった。


むしろ貰った事すら忘れていた。


海に行く機会など一度も無かったから。


『だから呼吸出来てるのか……マリオン様には感謝……!?』


ふとラグナは異変に気がつく。


呼吸出来ているのはマリオン様から貰ったスキル。


本来なら腕輪の魔道具によって魔力を阻害されてるのに、スキルが発動している……?


『呼吸が出来ているって事はスキルが発動しているからだよな……』


恐る恐る結ばれたままの両手を下にのばし、右足の重りに手を触れスキルを発動させる。


『収納!!』


すると右足の重りが収納された。


慌てて反対側の重りもと思ったが、すんでの所で思いとどまる。


『両足の重りを外すと上に浮かんじゃいそうだ……』


右足を曲げて両手を結んでいるロープに触れてスキルを発動させる。


足でも発動出来るのでロープは無事に収納された。


『よし。次は……こいつだな。』


右手で左手首の魔道具に触れる。


相変わらず何かが吸われていく感覚がある。


『収納!』


すると左手首から魔道具が消えた。


『外れた……あっ!?』


魔力が身体中に循環を始めたのを感じたラグナは、慌てて魔力を押さえ込む。


『あ、危なかった……』


魔力感知が鋭い人物がいると、まだ生きているのがバレてしまう所だった。


そして最後は重りを外す。


『ふぅ、とりあえずはこれで何とかなったけど……』


水面へと叩きつけられた後に襲ってくると思っていた魔物達。


水の底から上を見上げると魔物達の姿は見えなくなっていた。


『なんで襲って来なかったんだろう……』


ラグナは崖に沿ってなるべく水底付近を泳ぎながら現在地から離れていく。


どれくらい泳いでいたのだろうか。


急に地面が浅くなってきた。


『このまま進むと砂浜かな……?』


ちょうどお腹も空いてきたので、恐る恐る警戒しながら水面から顔を出す。


『ここは……?』


目の前には砂浜が広がっていた。


砂浜の奥は森が広がっており、目で見える範囲には住宅や船などは発見出来なかった。

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