第183話

先程まで真っ暗だった空は、気のせいだと言わんばかりの快晴な空が広がっていた。


「今のはいったい……」


「夢……では無いよな……」


ビリーとマルクは呆然としていた。


おい、お前も見たよな!


嘘じゃないよな!?


め、女神様だったよな?


兵士達のガヤガヤとした声で2人はすぐに我に返る。


「お前たち!今は英霊達の弔いの最中だ。騒ぐのは後にしろ!」


「とりあえず、今は彼らを弔うことを優先するよ。」


大臣2人とて騒ぎたい気持ちはあるがグッと堪えていた。


ラグナはサリオラ、マリオン様が天界に帰られた後も火葬炉の中にキャンプファイヤーの櫓を召喚し、燃料を足しながら魔法で入り口から空気を送り続けていた。


ゴウゴウと激しく音を立てて燃え盛る炎。


火葬炉の隣に設置されていたキャンプファイヤーの櫓は時間の経過と共に徐々に崩れていく。


子供達は面倒見の良い兵士達に手伝ってもらい、壊された自分達の家の木材や大きくて避難する際に持ち運べない家族の思い出の品を協力してキャンプファイヤーの近くへと運んでいた。


ビリーはその光景を不思議に思い、子供達に質問する。


「皆で何をしているんだい?」


ビリーの質問に子供達が答えていく。


「とうさんとかあさんの元に燃やして届けて貰うの。」


「きっと、女神様が届けてくれるよ。」


「このままここに置いていく位なら、自分の手で送ってあげたいのです。」


そう答えると少しずつ炎の中へと投入していく。


同じくらいの歳の子供を持つ兵士達だけでなくビリーやマルクも子供達の言葉が心に突き刺さる。


気がつけば涙が止まらなくなっていた。


自分の子供と重なって見えてしまったから。


同じ子を持つ親として、命を賭けて子供を守った事に心から尊敬を。


子供の成長を見届けることが出来ない親の悲しみを否が応でも感じてしまった。




ラグナがスキルで火葬炉の燃料となるキャンプファイヤーの櫓の召喚と魔法で風を送り続けること数時間。


あたりはすっかり暗くなっていた。


となりに設置されていたキャンプファイヤーの櫓はすでに完全に崩れており、大きな焚き火となっている。


子供達は既に眠りについた。


キャンプファイヤーの燃料となる木材は自然と子供を持つ兵士を中心に動き、定期的に投入されている。


「ラグナ、大丈夫か?ほら、飲め。」


フィリスはラグナの側に行くと淹れたての紅茶を手渡す。


「ありがとう。」


ラグナはフィリスから紅茶を受け取ると一口。


「あっ、ちょうどいい甘さ。」


「お前はちょっと甘めが好きだろうからな。」


フィリスの心遣いに感謝しつつ紅茶を飲み干す。


「ありがとう。美味しかったよ。」


「それなら良かった。」


フィリスがジーッと見つめてくる。


そして……


「本当に良かったのか……?」


言いたいことはわかる。


「うん。本当なら隠しておくのが一番だと思ってたんだけどね……」


ラグナは夜空を見上げる。


フィリスもラグナにつられて夜空を見上げる。


「本当はさ。大人になったらこうやってのんびり星空を見上げて、焚き火をしながらご飯食べてゆったりとした生活したいって思ってたんだ。」


「そうか……」


「でも……このままじゃそんな生活出来そうに無いよね……ねぇ、フィリス。一つ教えて?この国に居るんでしょ?あの国王ですら止めることが出来ない悪意の根元が。」


国王に会ってからずっと引っかかっていた事。


あの国王は確かに破天荒な方だが……


気分で他国を侵略したりするようには見えなかった。


他国からの略奪を好き好んでやるとはどうしても思えない。


あの方の実力であれば簡単に止められるはず。


今回の事だってそうだ。


第一魔法師団……


他者を平気で捨て駒として肉壁として切り捨てる集団。


あんな奴らが好き勝手出来るのがおかしい。


あいつらが居なければこんな事にはならなかった……


戦略魔法大臣のビリーさんの事すらどうでもいいと思っている行動。


何故あんな奴らが平然と活動出来るのか……


「あぁ……いる。そしてきっとこの現場にも奴の配下は潜り込んでいるだろう……」


フィリスは周囲を確認してる。


そしてぴったりと身体をくっつけると耳元で囁いてきた。


「まさにこの国の病魔と呼ばれる存在。それは前王の王弟であるヨハム大公だ……」

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