第182話

アオバ村周辺の空が急に暗くなる。


異変に驚き上空を見上げると、真っ黒なぶ厚い雲が空を覆っていた。


あまりにも普通では無い現象に兵士達に不安が広がる。


しばらくすると、突如天から金と青の2色の光が地上へと降り注ぐ。


突然の光に驚き、警戒する兵士達。


「綺麗な光……」


子供達は天から降り注いだ光の綺麗さにみとれていた。


すると……


「ねぇ、綺麗な光の中に誰かいるよ?ほら、あそこ!」


光を見ていた子供達が何かを発見した。


兵士達も子供達が指を指す方を見る。


天から光が降り注いでいる上空を見上げると、人型の何かがゆっくりと降りてくるのが見えた。


明らかに魔族とは異なる雰囲気だ。


ゴクリ。


誰かが唾を飲み込む音が聞こえるほど、周囲は静寂に包まれた。


そして徐々に天から降りてくる人物のシルエットが見えてきた。


天から降りてきているのは2人の女性だろうか?


2人の女性はゆっくりと空から降りてくると、地面へと着した。


空から光と共に現れた謎の女性達を警戒した兵士だったが、間近でその女性達を見るとボーッと見とれてしまう。


この2人はこの世の者とは思えないほどの美貌と美麗な衣服、そして何よりも神聖なオーラを放っていた。


明らかに人とは違う雰囲気。


1人はキリッとした顔つきで眼鏡をかけた青い髪の美しい成人女性。


もう1人はさらりとした薄いピンク色の髪を持ちフリフリの服装をした可愛らしい少女。


2人を直視した魔法師や騎士、子供達までラグナ以外の全ての人間が無意識に身体が動き平伏していた。


『我、海の女神は汝の願いに応じ、現世へと降臨した。』


『ゆ、勇敢に戦い、子供達を守った英霊達を導くための力をあなたに授けます。』


サリオラがラグナの近くまで移動すると手を伸ばしてそのまま頭に触れる。


するとサリオラの手のひらから暖かい力が流れてくるのを感じた。


そして徐々にラグナの前髪の色が黒から金と銀の2色に変化していく。


ラグナは広場の方へと手をかざすとスキルを発動する。


『キャンプファイヤー召喚』


突如現れた高さ3メートルほどのやぐらが目の前に現れたことに周囲の人々は驚いていた。


女神様の奇跡だ!


すご~い!


何もないところに突然現れたぞ!


これは何だ?


変わった形の櫓に驚くものの、使い道がよくわからなかった。


人が乗ればすぐにでも崩れてしまいそう。


『使徒ラグナ。櫓に火を灯したまえ。魂の送り火の準備を。』


ラグナはマリオン様の命に従い、火の魔法を発動させると櫓に向かって魔法を飛ばし、ゆっくりと着火させる。


火はじわりと上に向かって燃えていき、数分後には見事なキャンプファイヤーが完成した。


周囲にいる人々はこの神秘的な光景を大人しく見ていた。


燃え盛る炎からも神聖なオーラを感じる。


炎を見ていると悲しみ、悔しさ、憤りを感じていた心が安らいでいくようだった。


この国の重鎮である大臣2人も口を出すことが出来ずに、この光景をただただ見ていることしか出来なかった。


ラグナは事前に地面に突き刺しておいた1本の大きめの松明を引っこ抜くと2人へと手渡す。


2人は松明を受け取ると2人で1本の松明を手に取りキャンプファイヤーの火に松明を近付けて着火させた。


そして2人は松明を手に持ったまま火葬炉の前へ。


『勇敢に戦い、子供達を守った者達よ。』


『どうか安らかに眠りたまえ。』


2人が火葬炉の入り口まで流れていた着火剤に火を点けるとそのまま中に向かって火が進んで行く。


そして火は村人達が眠る場所へ。


大量に撒かれた着火剤により一気に火は強くなる。


あっという間に建物の内部は炎が激しく燃え盛り、建物上部の穴からはゴウゴウと音を立てながら炎が飛び出してくるのが見えた。


地面からゆっくりと土がせり上がり入り口の上部だけを残し蓋がされ、中が見えなくなる。


親を亡くした子供達は、ハルヒィさんや以前うちの村に来たときに仲良くなったフィリスの元に集まって一緒にキャンプファイヤーの炎をじっと見ている。


妹のメイガはフィリスが抱きしめていた。


マリオン様がキャンプファイヤーの炎に向かって手を伸ばす。


すると真っ赤に燃えていた炎が様々な色に変化していく。


そして炎は天高く上へ上へと。


『英霊達の魂への祝福を。』


『安寧の地への導きを。』


2人がキャンプファイヤーの炎に向かい祈りを捧げると、辺り一面が神聖ながらも暖かい光が広がった。


その光は周囲にいた人々をゆっくりと優しく包み込む。


光に包まれると自然と目を閉じていた。


光が収まりゆっくりと目をあける。


すると先程の現象が嘘だったように感じるほど空は明るくなっており、2人の女性の姿はもう居なくなっていた……

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