第163話

パスカリーノ家の遺産は話し合いの結果俺が管理することになった。


「フィリスはこの後予定とかある?」


「今日は午後からアブリック家に呼ばれているからそちらに顔を出す予定だ。はぁ……思い出すだけで憂鬱だ。」


どうやらビリー様の奥様がフィリスという名の庶子がいる事を知ってしまい大激怒しているらしい。


まぁ内容が内容なだけに真実を話す訳にもいかないのでビリー様はひたすら謝罪を繰り返したとか。


今日はビリー様の奥様とフィリスの顔合わせらしい。


てっきりルーとテオにもアブリック家で会うのかと思っていたら、フィリスが来る前に学園に戻るようにとビリー様が命じたらしい。


「そっか……午後からは大変だと思うけど……頑張って。」


そろそろ準備をするとの事だったのでお暇して寮へと戻る。


ミーシャさんにミルクティーの扱いについて説明しなきゃいけないし……


寮に戻るとミーシャさんにミルクティーの扱いについて説明。


俺の部屋以外ではミルクティーを作ったりしていなかったらしく、これからも同様に部屋に俺だけがいる時にしか作らないと言っていた。


「はぁ……なんか最近悩んでばっかりだ。」


いきなり王様との謁見があったり、パスカリーノ家を引き継ぐ事になったり……今度は莫大な遺産……


そもそもこの国の貴族になったらどんな義務があるのか……税金は?収入は?まだどうすればいいのか何も聞いてない。


ただ流されるままに貴族になっちゃったけど……


部屋にある本棚に目を向けるが、貴族について記載されている本なんて持っていなかった。


『まぁ平民には必要ないと思って気にすることすらしてなかったからな……』


部屋に籠もっていようかと思っていたけど……


最低限の知識は勉強しておこう。


本屋に行くために部屋を出ると暗い雰囲気のテオとばったりと会う。


「お帰り、テオ。」


「ラグナはもう帰ってきていたんだ。ただいま。」


「「はぁ……」」


出会って早々にお互いため息を吐く。


「テオがため息なんて珍しいね。」


「ちょっといろいろあってね。ラグナこそため息……まぁ気持ちは分かるよ。父さんから聞かされたよ。ラグナがパスカリーノ家を引き継ぐ事になってって。」


「うん。あれよあれよと気が付いたら貴族になってた。なんも知らないのにね……テオはどうしたの?」


「家庭内のゴタゴタって奴さ。ラグナはこれから出掛けるの?」


家庭内のゴタゴタって絶対にフィリスの件だろうな。


まだ何も話せないけど……


「部屋に引きこもろうかと思ったんだけど……やっぱり貴族のあれこれは勉強しなきゃと思って本屋にでも行こうかなって。ついでに魔道具屋とか魔法書のお店にも行くつもり。」


「気分転換に僕もついて行っていいかな?」


「いいよ。ついでにどんな本を買えばいいか教えてくれると助かるよ。」


テオの支度が終わった後はそのまま外に……とは行かなかった。


「そこの2人!!出掛けるんやろ?うちの事も連れてけ~!!」


寮から出る瞬間にルーに捕まり3人で出掛けることになった。


「そういや、ラグナ君。おめでとう!貴族になったんやってな!」


「あっ、うん……ありがとう。」


「なんや嬉しく無さそうやな。悩んどるのか?飴ちゃんいるか?」


ルーから袋に包装された飴を手渡されたので口に含む。


「今まで平民で貴族らしいことなんて全く勉強して来なかったのに、いきなり今日から貴族だって言われてもね……」


「考えてみれば確かにそうやな。ウチかて同じ様になったら困るわ。それでこれから本屋やったな。それなら任しとき!テオがバシッと選んでくれるから。」


「そこはカッコ良く、ルーじゃないんだ?」


「ウチ?ウチは当主についてなんてなんも勉強しとらんもん。ウチは可愛い淑女になるためのお勉強しかしとらんよ。」


思わずテオと見つめ合ってしまう。


「「淑女?」」


「よし、その喧嘩買うたる!わかっとる?反撃なんてしてウチに手を出して傷物にでもしたら嫁に貰ってもらうからな!」


「よし、テオガードだ!!行け、テオ!僕を守るんだ!」


「やだよ、姉さんもふざけないの。」


そんなこんなしていると、あっと言う間に本屋へと到着。


「領地は確か無いんだよね。それならこれとこれ、後はこれかな。」


テオが数冊の本をパパッと選ぶと手渡してきた。


『貴族と法律』 『頑張れ!貴族の税金対策!』 『初心者でも簡単!貴族の心得!』 『これを読めば完璧!貴族のご近所付き合い初級編!』


「な、なんか独特なタイトルの本が多いね。」


なんだよ、頑張れ!貴族の税金対策って……


「タイトルはあれだけど内容はまともだと思うよ?僕も実際にこれで勉強したし。」


「テオがまともって言うなら信じるけどさぁ……もうちょっと本のタイトルはどうにかならなかったのかな?」


本を店主の所に持っていき購入。


本は1冊銀貨5枚前後だった。


『4冊で20万円って考えるとやっぱりめちゃめちゃ高いよな……』


流石学園内に作られている本屋なだけあって、寮までの宅配サービスが充実していたのでお願いする事にした。


「あれ?姉さんはどこ行ったんだろう?」


そう言えば本屋に入ってからいつの間にかルーが居なくなっていた事に今気が付いた。


2人でルーを探しに本屋の中を徘徊するとすぐにルーは見つかった。


テオがすぐに声を掛けようとしたのを俺はすぐに引き止める。


そしてルーが手にとっている本のタイトルを確認させた。


『突然現れた庶子との上手な付き合い方』


ルーが立ち読みしていた本のタイトルに挙動不審になるテオ。


2人でゆっくりとルーの側を離れる。


そして……


「ルー、そろそろ行くよ~!」


何も気が付いていないフリをして遠くから声を掛ける。


ルーはすぐに俺の声に気が付くと慌てて本を片付けていた。


「ラグナ……」


少し気まずそうな雰囲気のテオに対して、


「テオ……僕は何も見ていない。わかった?『僕達は』何も見ていない。」


ルーが読んでいた本に対してやや強引に『見なかった』ことにした。


「なんや2人とも。元気ないやん?」


「そんなこと無いよな、テオ?」


「うん。ただやっぱり本は高いよねって話をしてたたけだから。」


「そうやなぁ。確かに本ってごっつい高いよなぁ。もっと安くなればいろんな本が買いやすくなるのになぁ。」


安かったらさっきの本は買っていたの?と突っ込みたくなるところをグッと我慢して次の目的地へと向かうのであった。

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