第156話

エチゴヤを後にしたあとは一緒に学園へと向かうと思っていたがそうでは無かったらしい。


「私はまだ学園に入学してはいないからな。学園に入ることが出来ん。」


そっか。


入学式はまだだった。


「あれ?そう言えば入学試験ってどうなったんだ?」


「入学試験ならラグナが入院している間に第2魔法師団が試験官として派遣されて行ったらしいぞ。」


第2魔法師団って事は学園長や先生が元々いた部隊って事か。


「そうだったんですか。知りませんでした。それで……先生は入学式までどうするんですか?」


「学園の直ぐそばに借家を借りてある。そこで生活する予定だ。すでに学園内で借りていた借家の荷物は全て運び込んで貰ってあるからな。」


「そうだったんですか……あっ、もう子供に戻ったんだからお酒に入り浸ったら駄目ですよ?」


そう言うと物凄く悔しそうな顔をする。


「味覚まで子供に戻ったらしくてな……悔しいが酒が美味く感じれなくなっていた……それにたかがエールの一杯も飲み干せずに酔いつぶれたんだ……」


もう試していたのかよ!


先生の借家の場所を教えてもらってから寮へと帰宅する。


「ただいまぁ。お腹空いた……」


結局お昼ご飯を食べ損ねていた。


「お帰りなさいませ。」


ミーシャさんが出迎えてくれた。


「あれ?みんなは?」


「皆様は今急いで準備をなさっているのかと。」


準備?何の準備だろ?


「あっ、お帰りなさい。学園長が慌ててラグナ君を連れて行きましたが大丈夫でしたか?」


「ミレーヌさん、ただいま。大丈夫だったような、大丈夫じゃなかったような……って気分だよ。それよりもみんなはどうしたの?準備って何かあったの?」


「あっ、そうですよね。ラグナ君が連れて行かれた後に発表されたんですもの。ちょっと待ってて下さいね。」


そう言ってミレーヌさんは何かを取りに行った。


「お待たせしました。こちらですわ。」


ミレーヌさんから紙を受け取る。


『魔法学園再開スケジュール。』


4月 休校

5月2日 授業再開。

5月8日 入学式


「あらま。4月は休校になっちゃったのか。」


「新しい教員の方々の準備が間に合わないらしいですわ。軍の方々は引き継ぎなどもありますし。その他もろもろの準備を含めて4月中は休校となりました。それに今回は時間が無いためクラス入れ替え試験が無くなったらしいです。」  


「一部生徒からは反発が来そうな気がするけど……」


「反発はあったらしいのですが……ここをよく見て下さい。」


スケジュールの紙の下の方を読む。


『尚、今回の入れ替え試験が無い事に異議が有る者は、学園事務局迄連絡を。3人組を組んでもらい、闘技場にてスモールアースドラゴンとの練習試合を4月中に行う。見事勝利できた場合は、特級組の人数制限を取り払い特級組へと移動することを認める。尚、今回に限り基準値以下での退学の勧告は行わないものとする。』


おぅ、学園長がやりそうな力業。


特級組に入りたければあれを討伐か……


「何人かはチャレンジするみたいですよ?1学年で倒せたから私達でも行けるはずと思っているようです。」


それは……頑張って欲しい。


ふと1人だけ頭の中に顔が浮かぶ。


あいつはやりそうだよな……


しかも試験が無いかわり、毎年能力が一定以下の生徒は退学になっていたけど今回はそれも無くなったのか。


「それで、皆はなんの準備を?」


「皆さんは帰郷の準備ですわ。まぁ私のように王都に家族が住んでいる方はほとんど準備なんて必要ありませんけど。ラグナ君はどうするんですか?」


村にかぁ。


確かに1年間帰って無いしなぁ……


流石に一度は帰りたいよなぁ……


いろいろあったし……


本当にいろいろと……


よし、決めた。


「僕も一度村に帰るよ。でもその前に病院行かなきゃいけないんだよな……」


「病院ですか?」


「うん。入院していた病院で検査して大丈夫だったら魔力が使えるようになるんだ。」


「そう言えばそんな事言ってましたね。もう身体は大丈夫なんですか?」


「今はもう痛みとかも無いから、大丈夫だと思うよ。」


「それならば良かったです。」


そう言えばあの病院ってどうやって行けばいいんだ?


場所がわからん……


とりあえず明日の朝、先生にでも聞いてみようかな。


部屋に戻り出発準備だけはしておく。


『魔力さえ使えれば収納して終わりなんだけど……まぁ仕方ないか。』


帰る際に持っていく荷物を仕分けると、いつもより早い時間に眠りに着く。


やはり精神的に疲れきっていたみたい。


翌日、数日以内にミーシャさんに村に一旦帰郷する事を伝えて、先生の借家へ。


コンコン。


返事が無い。


コンコン、コンコン。


『まだ寝てるのかな?』


「ラグナでーす。」


声を掛けてみる。


するとガチャリと扉が開く。


寝てたのか髪はボサボサ、目は虚ろ。


そして手を引っ張られて部屋の中へ。


そのままベッドへとダイブ。


先生は俺を抱きしめたまま再び睡眠へ。


『寝ぼけるとかどんだけ朝に弱いんだよ。』


仕方ないので抱き枕となりながら先生の頭を撫でていた。


しばらく頭を撫でていると先生の目がゆっくりと開く。


そして俺と目が合う。


『ちょっと悪戯しちゃおう。』


「おはよう、フィオナ。今日も可愛いね。」


普通に考えたら恥ずかしいセリフだけど、特に抵抗無く言えた。


先生の目が一気に開眼する。


「なっ、なんで!?はっ!?」


先生は急いで毛布をめくり自分の格好を確認していた。


「何もしてないですよ?可愛い寝顔を見ていただけです。」


ボッと真っ赤になる先生。


「にゃ、にゃんでラグナが!?」


慌てすぎてネコみたいな喋りに。


「何でって先生が俺をベッドまで引っ張って来たんじゃ無いですか。」


「わ、私がラグナをベッドに連れ込んだだと!?そんなはしたないことを、私がするわけ無いだろう!?」


ちょっと刺激が強かったのかテンパる先生。


「じゃあ俺がいつ来たか覚えてますか?」


ブンブンと顔を振る。


本当に覚えてないのか……


朝が本当に弱すぎる。


「聞きたいことがあったのでドアをノックしたら、寝ぼけたまま僕を引っ張ってベッドにダイブしたのは先生ですよ?」 


固まる先生。


「本当に覚えていない……」


どうやら少し話をしていて1つ判ったこと。


大人になるにつれて改善してきたが、小さい頃は寝起きが悪く大変だったらしい。


もしかしたら身体が若返ったせいで元に戻ってしまったのかもと話をしていた。


「そ、それで何のようだ?」


「昨日、寮に戻ったら学園が4月中は休校で5月から再開するって連絡があったらしいんですよ。1ヶ月間休みがあるので一度実家に帰ろうと思ったんですけど……場所が場所だけに魔力が使えないと厳しいので、魔力を使う前に入院してた病院で検査受けなきゃ行けないんですよ。でも病院の場所が判らなくて。」


「学園が休校になったなんて連絡、私は知らんぞ?まぁいい。病院なら私も行くつもりだったからちょうどいい。準備するから隣の部屋で待ってろ。覗くなよ……?」


そんな怖いことは出来ないので、素直に隣の部屋に移動して先生を待つ。


準備が終わった先生に連れられて向かったのは学園の入り口だった。


受付で先生が何かを伝えると戻ってきた。


「ちょっと待ってろ。すぐに来るらしい。」


しばらくして空から魔力を感じるので見上げると学園長が飛んでいた。


「私もいろいろと忙しいんだがな……まぁ場所が場所だけに仕方ないか。2人とも準備はいいか?」


先生は頷いている。


準備って何のことだ?


「よし。しっかり捕まっていろよ?落ちても知らんからな!」


そう言うと学園長は俺と先生を両腕で抱え込む。


「ふんっ!」


『まさか!?』


学園長は俺達を抱えたまま地面を踏み込むとそのまま空高く飛びあがる。 


そこからは……もう思い出したくもない……


「はぁ、はぁ、地面、地面だ。」


足が地面につくだけで幸せを感じる……


前世でも大嫌いだった絶叫マシンを命綱無しで味わうことになるなんて……


地面に座り込んだまま立ち上がれない。


「ラグナでも苦手な事なんてあるんだな。」


「何の心構えもしないで空を飛んだらこうなりますって。」


学園長に手を引っ張ってもらい立ち上がる。


すると目の前には見たことがある建物が。


「それじゃあ俺は戻る。帰りは馬車で送ってもらうといい。」


そう言うと再び空高く飛んでいった。


そして俺と先生は到着した病院の中へ。


病院内に入るとすぐに先生とは別れて診断室へ。


「ゆっくり魔力を流して~。そう、ゆっくりだよ~。」


前回と同じお医者さんに検査してもらっていた。


「そうしたら徐々に流す魔力を増やして~。はい、ストップ!」


俺の身体には魔道具が装着されて、様々な場所に魔力を流しては止めてを繰り返していた。


「もう大丈夫そうだ。数値にも異常がない。魔法は使っても大丈夫だよ。」


「ありがとうございます。」


良かった。


診断室から出るとすでに先生が俺を待っていてくれた。


「どうだった?」


「もう大丈夫らしいです。」


「そうか。それじゃあ戻るか。」


病院の外に出ると以前と同様に窓が無い馬車に乗り込む。


「ラグナは実家に帰ると言っていたな?」


「はい。ナルタ行きの馬車があればそれに乗って行こうかと思います。」


「馬車?パスカリーノ家の馬車と馬ならあるぞ?」


「えっ?馬車なんかあるんですか??」


「あぁ。馬車と馬は知り合いの牧場に管理を任せてある。御者はやったことあるか?」


「やったこと無いです。」


「ならばちょうどいい。私も一緒について行くぞ。お前の両親には謝罪しなければならないからな。」


俺に貴族という立場を押し付けてしまった事を両親に謝罪したいとの事だった。


馬車の中で話し合いの結果、今日はこの後牧場に向かい馬車と馬の確認。


明日は荷物の積み込み。


そして明後日出発の流れになった。

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