第153話

バダバタバタ。


寮の中に誰かが慌てて入ってきたみたいだ。


ドン!


盛大に扉が開く。


「ラグナは居るか!?」


息を切らせながら部屋に入って来たのは学園長だった。


「そんなに慌てて、何かありましたか?」


「ありましたもありましただ!フィオナに関する発表がさっき行われたが聞いていたか!?」


「皆で聞いてましたけど……あれはどういう事です?フィオナ先生は亡くなってなどいないはずでしたけど。」


「あぁ。その件についてさっき詳しい話が回ってきた。とりあえず俺について来い!」


強引に手を引っ張られて外へと連れ出されていく。


そしてそのまま学園の外へ。


馬車に乗り込むと学園長から驚くべき内容を告げられた。


「フィオナが亡くなったと言う発表については何となく理由は察しているな?」


「一応ですが……若返った事が広まると内戦が起きる可能性があるからですよね?」


「そうだ。あれが広まっては確実に内戦になる。そしてお前の奪い合いが始まるだろう。」


「えっ?僕の奪い合いですか!?」


「当たり前だろう!どっからどう見てもフィオナがああなったのはお前が原因だろうが!地面に叩きつけられた衝撃で動けなかったが、俺も全部見ていたんだぞ!」


そっか。


俺の中ではマリオン様の力だろうとどこか他人事の様に思っていたけど……周りから見たら俺のせいで若返った事に見えるのか。


むしろ俺がいなかったらそんな事にはなっていなかったのか!


「やっと気がついたのかよ。前々から思っていたが……お前、危機感が無さ過ぎだぞ!」


「はい……気をつけます。」


流石にグサッと来る言葉だった。


「まぁいい。それよりもこれからが問題だ。お前、貴族になるぞ!」


……


「はぁぁぁ?俺が?貴族?なんでぇ!?」


貴族?


俺が?


なんですと!?


「俺もさっき通達で知ったんだよ。大臣2人が手を組んで根回ししたって訳だ。お前の実力を目の前にして逃すまいと囲い込むつもりだろう。それにたぶんこの件にフィオナも絡んでる。」


「……先生もですか?」


「あぁ。出なければあり得ん。だってな……」


コンコン。


「到着いたしました。」


「時間切れだ。覚悟決めろよ。」


いきなり貴族だの、覚悟決めろだの言われても……


馬車を降りて目の前に広がるのは……


王が住む城。


つまり王城だった。


王城の入り口までは赤い絨毯が一直線に置かれていた。


そして絨毯の左右には剣を掲げている騎士達。


背中をトンと学園長に押される。


「俺が行けるのはここまでだ。後は向こうの指示に従うんだ。」


さぁ行けと更に背中を押されたのでビクビクしながら突き進んで行く。


城の扉の前まで突き進むとルーとテオの父である戦略魔法大臣のビリー・アブリックとセシルの父である軍務大臣のマルク・ラヴァンの2人が待機していた。


「急に呼び出してごめんね~。」


「すまんな、如何せん時間が無かった。」


2人の大臣に囲まれながら、王城の中へ。


王城に入るとすぐに控え室へと案内された。


「なんで今日呼ばれたかは聞いてるかな?」


「学園長からは貴族になるとだけ……詳しいことは全くわかりません……」


「そうか、そうか。何せ急だったからね。君にはさっきも話をしたけど貴族になってもらうよ。何も新規でどこかの領地にって訳じゃないんだ。先日まで存在していた貴族家の当主が亡くなってしまってね。その貴族家を引き継いでもらいたいんだ。」


当主が亡くなった貴族家?


家族や身内は居なかったのだろうか……


でも何で俺が貴族なんかに……?


「お前の両親には既に俺が直接話を通してある。許可は貰っているので安心しろ。ふっ、まさか疾風とクラッシャーレディの息子だとはな。近接戦闘は父親から学んだのか。」


「2人をご存知で?」


「あぁ。昔な。何度か共に討伐戦で戦ったことがある。」


そういえば学園長とかフィオナ先生も父さん達の事を知っていたんだよな。


2人はどんだけ暴れていたんだろうか。


「それで君が引き継ぐ家なんだけど……君には男爵家を引き継いでもらうよ。」


「だ、男爵様ですか!?失礼ですが……僕は平民ですよ?それにまだ10歳ですし……貴族様のあれこれなどわかりませんよ?それに領地経営なんてもっと無理です……」


男爵家を引き継ぐとか言われても……


「その点については大丈夫。男爵家と言っても領地は無いし、特に何かやれってことも無いから。それに優秀なサポートをつけるから安心して。書類上では僕の庶子って事になっている子をサポートにつけるから。」


書類上の庶子??


「後は今から王と謁見する。やり方を説明するから覚えるんだ。」


マルク様から謁見時の作法を教わる。


しばらくすると部屋にいた大臣2人が呼ばれた為、部屋の中でひとりぼっちに……


『いきなり連れてこられて、貴族になるからと言われたあげく王と謁見なんて意味がわかんない!あぁ……本当に今すぐここから逃げ去りたい。』


大臣2人が立ち去るとすぐにメイドさん達に囲まれて強制的に着替えさせられていく。


そして部屋がノックされ呼び出される。


いよいよこの国の王様と謁見する。


兵士2人に連れられて城内を歩いて進んでいく。


そして奥へと突き進むと豪華絢爛な扉がある前で停止する。


『爆炎魔法を引き継ぎし次代の魔法師ラグナ様のご到着です!』


ゆっくりと扉が開いていく。


『うっ……』


様々な視線を感じる。


『まじで逃げ去りたい!!』


マルク様に厳命された通りにビクビクした姿を見せないように、堂々とした態度で謁見の間を進んで行く。


そして……


杖が二本重なったマークの手前で止まると片膝をつき頭を下げる。


「お主が次代の爆炎魔法の使い手か。頭を上げよ。」


ゆっくりと顔をあげる。


『この人がこの国の王様……』


今まで出会ってきた人の中では別格なほど強い。


魔力が身体の周囲に漂っているのが判る。


「ふんっ!!」


突如王様から魔力の波動?とでも言える何かが放たれた。


すると謁見の間で整列していた人達がバタバタと倒れ込む。


マルク様やビリー様。あと王様の隣にいた人だけは膝をついてギリギリ耐えていた。


「ほぅ。俺の魔力を受けていてもピンピンしている人間がいるとはな。初めてではないか?」


王様の隣で膝をついていた人がプルプルとしながら立ち上がる。


「王よ……いきなりコレは止めて下され。片付けが大変なので御座います。」


騎士達が何事かとワラワラと室内に入ると全てを察した。


王の悪い癖が出たと。


すぐに騎士達は応援を呼び、倒れた貴族や粗相をしてしまった貴族を運び込んでいく。


「だが試さずにはいられんだろう?お前もどの程度の力なのかは疑っていたではないか。これではっきりしただろう。コイツは本物だ。おい、お前。ラグナと言ったな?」


いきなり名前を呼ばれてビクッとする。


「は、はい!」


「お前は気に入ったぞ。俺の配下になれ。いいな?」


凄まじい眼力で俺を見つめてくる。


『こんなん一般市民の俺に断れる訳がない!』


心では泣きたい気持ちを押しつぶして答える。


「謹んで拝命致します。」


王はラグナの答えに満足そうに頷く。


「そうか、そうか。では、お前の名は今日から『ラグナ・パスカリーノ』だ。でもそうだな……その前にお前、歳はいくつだ?」


急に今日からパスカリーノと言われ頭が真っ白になりながらも王の質問に答える。


「歳は10歳になります。」


「ふむ、まだ子供も子供ではないか。こいつには貴族のあれこれなどまだ理解出来んだろう。手出しした奴がいれば俺が自ら処断すると通達しろ。」


「はっ!!」


この場に残る3人は王命に立て膝をつき答える。


「後の細事はお前たちに任せる。」


そう言うと王は玉座の後ろにある扉を開き立ち去っていった……


『まじで緊張した……あれが本物の王様……もうこんな事、二度と経験したくない!!』


緊張による冷や汗で背中がビショビショになっていた。


それよりも……


『俺がパスカリーノってどういう事だぁぁぁぁ!!』


大声で叫びたい気持ちを押し殺しているラグナだった。

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