第152話
我が1学年の寮では現在不思議な光景を見ることが出来た。
2学年~6学年の一部の生徒が、1学年の生徒と一緒に庭に座り込んで魔力循環法を行っているのだ。
生徒達の後ろでは数人のメイド達が控えており魔力回復薬を手に持っていた。
まずは2学年の生徒達が倒れる。
「くっ!」
「もう限界……」
「……」
そこから連続して、バタバタと倒れる生徒達。
倒れた生徒は、そのまま自分の寮へと運ばれていく。
なんとか倒れずに両手を地面について魔力欠乏症に耐えているのは、高学年組が多かった。
「あぁー!キツい。倒れるギリギリで訓練を止めるタイミングは掴んできたけど、気持ち悪さがやべぇな……」
冷や汗とでも言うんだろうか。
汗で服がビショビショになりながらも魔力欠乏症に耐えていたソリダスは、メイドから魔力回復薬を受け取ると一気に口に含んで飲み干していた。
ある程度の貯金がある高学年組は魔力回復薬を買い込んで訓練後に飲用していた。
「えぇ……思っていた以上にキツいわ。ギリギリまで自分を追い込むって言うのかしら。精神的な訓練にもなるわよ。もうこれで止めてもいいんじゃないかって考えがよぎってからが本番って言われたものね。」
そう言いながら魔力回復薬を飲むエマ。
低学年の生徒達は金銭的に余裕が無いので、訓練開始数日後には飲用を止めていた。
「キツいからと、ある程度余裕を持って訓練を止めると魔力量の上昇率が悪いと言われちゃ、やるしかねぇだろ。それにしても……1学年の奴らはすげぇな。全員がまだ余裕で訓練してやがる。」
「えぇ、本当に凄いわよね。でもそれだけこの訓練には効果があるってことよ。毎日私達と同様に、限界まで魔力を絞り出している筈なのにね。あの子達は訓練後に少し休めば普通に動けるんだもの。」
まだ意識がある生徒達は1学年達を見つめていた。
「それにまだ訓練して2週間だが、なんか自主学習で魔法をぶっ放した後も身体が楽な気がするんだよな。」
何人かが身に覚えがあるのか頷いていた。
「でももう3月だしね。あと1週間ちょっともすれば私達は卒業。卒業式とかどうなるのかしらね?」
6学年は3月の半ばで卒業。
卒業式をやるのかどうかもまだ何も連絡が無かった。
「そっか。先輩方はもう卒業なんですよね。卒業後はどうするんですか?やはり軍で?」
「私は魔法師団に入るけど、コイツはね……」
「俺は自由気ままな冒険者になるぜ。兄貴達が既に領地の手伝いをしているからな。4男の俺は両親からも好きにしろって言われているから。」
確かにソリダス先輩は軍人よりも冒険者家業が似合ってる気がする。
それから一週間後。
今日は先輩方の卒業式。
結局、連れ去られた教師達は誰1人として戻って来ることは無かった。
事務の職員や怪我から復帰した学園長、それに大臣より派遣された魔法師団所属の学園OBの方々が協力して慌ただしく卒業式の準備を行っていた。
そして無事に卒業式は行われた。
卒業式の日に合わせてこの大陸全ての国に通達されたことが1つあった。
『ヒノハバラ国内にて魔族と遭遇。魔族は魔王軍
学園から卒業する6学年の生徒を学園内に閉じこめておく訳にもいかないので大陸全土の国へと通達が決定された。
ちなみに魔法師団から契約の魔法が使える魔法師が大量に派遣され、今回の事件に関して学園内で起きた事実について口外しないことを全生徒に契約させた。
口外しようとすると全身に痛みが走り口外出来ないようになっている。
魔族復活の報はヒノハバラ国内だけでなく大陸全土へと少なくない混乱を招いた。
各国は食料買い占めの規制など様々な対応に追われていた。
「これにて卒業式の終了を宣言する!」
後で知ったことだけど今回の卒業式は例年に比べるとだいぶ簡易的なものだったらしい。
普段であれば国の上層部の方々が来場され、ありがたい話を長々と聞かされていたと。
先輩方は卒業後1週間以内に学園からの引っ越しを終えねばならず、これからバタバタと準備に入るらしい。
俺達はソリダス先輩やエマ先輩経由で先輩方が使用していた私物や家具など引っ越しの際に邪魔になるものを譲り受けていた。
俺はエマ先輩から様々な本を譲り受けた。
本当なら持って帰りたいが実家にも置き場は無いし、軍の寮の部屋にも大量の本を置くスペースなんて無いからと譲り受けた。
中には中級の魔法書などもあったので流石に無償で譲り受けるのも悪いので、強引にお金を手渡して買い取りと言う形にしておいた。
エマ先輩は俺が手渡した金額にびっくりしていたが、強引に握らせたので渋々受け取ってくれた。
そして引っ越し準備が終わった人達から学園を去っていく。
「もっと早くお前達の練習に付き合えていたらって後悔はあるんだがな。」
「仕方ないわよ。交流戦までこの子達の実力を知らなかったんだから。私だってちゃんと調べておけばって後悔してるわ。」
退去期限の最終日である今日までソリダス先輩とエマ先輩は残っていた。
引っ越し準備で忙しい中、毎日夕方前には律儀にこの2人は訓練に参加していた。
「卒業してからもこの訓練は続けていくわ。」
「私も続けるわよ。死にたくないもの。」
「お二人とも頑張って下さい!」
「おぅ!お前らも頑張れよ!」
「また会う機会があればご飯でも行きましょう。」
寮で共に訓練している後輩に見送られながら2人は自分達の道へと進んでいく。
そして卒業式が無事に終了して月末に近付いて、ようやく学園の再始動が発表された。
内容は驚くべきものだった。
前任の教師は全て解雇。
元魔法師団所属または魔法師団からの引退を考えていた人間を雇用。
前任の様に実戦経験がほとんど無い教師など必要無いとバッサリと大臣と学園長が共同で動き解雇していった。
そして……
学園の再始動発表から次の日。
さらに驚くべき内容が国内向けに発表された。
ヒノハバラ国内にて魔族襲撃事件が発生。
軍務大臣マルク・ラヴァンと護衛の騎士が急襲される。
急襲の際に付近にいた市民達を守りながら戦闘を行っていたが、魔族は卑劣にも市民を狙うという卑怯な手を使おうとした為、大臣や騎士は市民の身代わりとなり攻撃を受けた為負傷する。
異変を察知して駆けつけたフィオナ・パスカリーノは負傷した大臣や市民を救うべく魔族へと1人で果敢に立ち向かった。
そして爆炎魔法を駆使して魔族を退けることに成功したものの、残念ながら彼女自身は名誉の戦死を遂げた。
だが彼女が大臣や市民を守り抜いたお陰で魔族復活の情報を王都まで持ち帰ることが出来た。
もしも彼女がその場に居なければどこまで被害が拡大していたかわからない。
彼女は我が国を守り抜いた英雄である。
と大々的に発表された。
「「えっ……」」
ラグナを含めてこの発表には驚きを隠せなかった。
ラグナはクラスメイトと寮に戻ると話し合いを始める。
「なぁ、ラグナ。先生はお前が入院の時には一緒に居たんだよな?」
「うん。ほとんど一緒にいたし、元気だったよ?」
一瞬だけミレーヌさんの表情が変わるのが見えたけど見なかった事に……
「それじゃあなんでこんな発表が?」
「ラグナ君と別れたあと何かがあって亡くなったとか……?」
「それは考えられないよ。あの先生だよ?魔族が襲撃でもしない限りあり得ないよ。」
「もしも襲撃があればもっと学園内がバタバタしているだろうしな。」
やっぱり若返ったことを隠蔽する為なのかな……
若返った事実が広まれば内戦になるかもしれないって話をしていたし。
そして更に驚くことがこの後に起きるのだった……
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