第132話

夕食前である午後6時前までには寮に戻ることが出来た。


手土産の方はミーシャさんに任せた。


「ラグナ君、お帰りなさい。」


「みんな、ただいま。」


「今日はどこいってたん?まさか、誰かとデートだったとか!?」


いきなりぶっ込んできたな。


皆まだ10歳だろうに。


数人がワクワクした目をしてるな。


まぁ、気になる年頃ではあるんだろうが……


すると一瞬殺気が。


振り向くと、にこやかに笑うミレーヌさんがいた。


「そ、そんなんじゃないよ。ルーは僕がそんなにモテるとでも?」


ちょっとミレーヌさんの迫力に挙動不審になってしまった。


そしてルーは何故か物凄く『うーん。』と悩み始めた。


「ラグナ君って、見た目は悪くないと思うんや。……まぁウチらはいろいろ知ってしまったからこう思えるけど、他のクラスの貴族の子達からしたら

どう映るかやろな。突如として現れた謎の平民の男の子。しかも次席入学。うん。普通に考えたらハメて蹴り落とすのにピッタリな人間やな。」


「普通に分析するなよ。ヘコむから。それに最後のは不穏だろうが。」


ハメて蹴り落とすのにピッタリな人間って……


まぁ、確かに平民だから否定は出来ないけど……


しばらくして食事が運ばれてきたので皆で揃って食事にする。


うん、やっぱりこの寮のご飯は美味しい。


気がついたら食事は皆で食べるのが習慣になっていた。


食後は皆に紅茶が配られて普段はそれで終わりだったが今日は違う。


今日は紅茶+各自にドライフルーツが載った小皿が配られてた。


「本日のドライフルーツはラグナ様より皆様への贈り物になっております。どうぞお召し上がり下さい。」


皆の顔が一斉にこっちにむく。


特に女性陣の機嫌が物凄く爆上がりしていた。


「実はちょっと訳ありで……今日は学園の外に行ってたんだ。皆と一緒に訓練も出来なかったし、僕だけ外に出たのも悪いなぁって思ったから皆へとプレゼントで買ってきただけだから。数日間は食べれる量はあると思うよ。」


するとミーシャさんをはじめにメイドの皆も一斉に並んで現れた。


「本日は私共にまで贈り物を購入していただき、本当にありがとうございます。」


「「ありがとうございます。」」


メイドさん達全員がビシッとした動作で声を揃えて感謝を伝えてきた。


「皆さんには普段からお世話になっているのでそのお礼も兼ねてですので。」


「ラグナ君、ありがとう。」


「ありがとな!」


「……ありがとう。」


珍しくシャールまで感謝を伝えてきた。


その後みんなそれぞれ一口かじる。


「あまーい!」


「おいしー!」


「ねぇ、ラグナ君。もしかしてこれって味のフルーツファームってお店でなくて?」


セシルさんに久々に話しかけられた気がする。


「お店の名前……なんだっけ?」


「味のフルーツファーム王都本店です。」


ミーシャさんが知ってたみたい。


それを聞いて驚くみんな。(1人を除く。)


意味が判らなく、ポカンとしてるのはシーヴァだけ。


心配そうにセシルさんが尋ねてきた。


「一流のお店じゃないの。あなたって確か平民よね?お金は大丈夫だったの?」


確かに高そうなお店だったし、実際高かった。


「お金は大丈夫だよ。ちゃんと払ったから。」


ミーシャさんもちゃんと払ったと頷いている。


あのドライフルーツのお店って貴族の皆が知ってるランクのお店なんだ。


「高かったやろ、ウチかてお小遣い貯めて弟からも巻き上げて買ってたくらいや。」


テオはルーに巻き上げられていたのか……


可哀想に……


「……私の領地には支店が無かったから、王都に両親が出掛けた時くらいじゃないとめったに食べれなかった。」


「うちも同じく。男爵の娘がおねだりして常に買って貰えるような金額でもないしね。」


やっぱり貴族の子供からしても高いのかな?


むしろクララの家は男爵なのね。


初めて知った情報かも。


そのあとは皆で紅茶を楽しみながらドライフルーツを食べる。


セシルさんやミレーヌさんはドライフルーツをカップに入れた後、紅茶を入れてもらって蓋をしていた。


数分後に蓋をあけるとこっちにまで香りが飛んできた。


あまりにもいい匂いだったので、残りのクラスメイトも同じ様にドライフルーツティーにして楽しんでいた。


「あぁ、美味かった。そういや今日はこれでいくら使ったんだ?」


シャールが珍しく話し掛けてきた。


「今日は自分のも含めてトータル5瓶買って大銀貨3枚に銀貨8枚だったかな?」


ドライフルーツがこんなに高いなんて知らなかったよ。


最後の一口を食べようとしていたシーヴァが、金額を聞いてそのまま固まってしまった。


「もしかして学園から支給されたお金を使って買って来てくれたのか?」


あぁ、そう言えばお金が支給されてるんだっけ?


忘れてた。


「違うよ。そのお金には手をつけてないから大丈夫。」


「ラグナはもしかしてどこかの商家の子供だったのか?」


「いや?辺境にある小さい村の出身だよ。」


「普通に考えて村出身の子供が払うなんて無理だろ。どこにそんなお金があるんだ。」


あっ。


そこまで考えて無かった……


さて、どう言い訳しようか……


俺がお金を持っている理由……


素直に特許で稼いでいるって伝えられたら一番楽なんだけど……


ミーシャさんからは釘を刺されてるし……


「あっ、もしかしてあの時のお金ですか?」


ミレーヌさんが突然そんなことを言う。


「えっと……」


あの時ってどの時だ!?


「確かにあの時に得たお金であれば言いにくいですよね……」


「なんや、ミレーヌさんは知っとるんか?」


「知ってはいますが、これは少し私達の立場からすると言いにくい事なので……」


ミレーヌさんは1人納得してるけど何のこと!?


「ミレーヌさんが言いにくいと言うことは貴族がらみって事か。ミレーヌさんが知っているって事はエチゴヤ絡みか?ん?そう言えば父様から去年の秋ぐらいだったかな……どこかのアホ領主が盛大にやらかしてエチゴヤを怒らせたと言っていたな。」


気がつけばウィリアムによる推理が始まっていた。


「ウィリアム君は知っていらしたのですね。えぇ、あの時に私のお兄様と共に巻き込まれたのがラグナ君なのですよ。」


「って事は、巻き込まれた村人達ってやつの1人がラグナだったのか。」


俺はまだ何も話をしていないのにどんどん勝手に話が進んでいく。


ミレーヌさんとウィリアムの2人以外は意味が判っていないらしい。


「ラグナ君はその事件の時に賠償金として支払われた資金の一部をお父様から渡されていたのですね。」


それでいいか。


お金は賠償金って事にしておこう。


うん。と返事をした。


とりあえずお金の件については誤魔化しが完了した。


まぁ皆からは改めて『ありがとう。』と感謝をされたけど。

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