第113話

コレットさんに案内についてのお礼を伝えると各自それぞれ自分の部屋へと案内された。


前もって専属のメイドさんと部屋は決まっていたらしい。


俺は1階の8部屋あるうち、1番奥の部屋だった。


今年は今の所男子が4人なので、1部屋ごとに間をあけて振り分けられていた。


「こちらがラグナ様の部屋となっております。」


「まじかよ……」


エチゴヤの屋敷で泊まった部屋も広いと感じたけど……


これは広すぎる……


目の前に広がるのはキッチンを備えた巨大なリビングと勉強スペース。


寝室には豪華なキングサイズのベッド。


更にシャワーだけでなく湯船まで……


個室のトイレは助かる。


「こんなにも豪華だったとは……」


「この寮は全て同じ間取りとなっております。」


まぁそうだよな。間取りが違うと騒ぐ奴も居るだろうし。


「何かありましたら遠慮せずにお申し付け下さい。」


「出来れば……そのラグナ様って言うのを辞めていただけると……」


様付けで呼ばれるのにはどうしても慣れない。


「申し訳ありませんが決まりですので……」


断られてしまった。


「ではこれからのご説明を行います。この後は食堂にて集合。皆様で集まって昼食となっております。昼食後はお部屋にて授業に必要な備品の配布。確認後は生活にて必要な物の買い出しとなります。ご不明な点は御座いますか?」


「必要な物の買い出しって何が必要なのかはわからないのですが……それに資金を持っていなくて……」


「本日の買い出しについては私が共にサポートとしてお供させていただきます。資金については既に国より入学支援金として金貨1枚が支給されております。」


支援金の額に驚くラグナ。


『まじかよ、特級組に入学出来ただけで金貨1枚……100万円をポンっと出してくれるのか。この国の貴族は駄目だ何だかんだ言われてるけど、こういうのは気前がいいんだね。』


「それでは食堂へとご案内致します。」


ミーシャさんに案内されて食堂へと到着。


食堂のテーブルは巨大なラウンドテーブルだった。


何故円形のテーブルなのか。


これは学園内では身分差が無いと言う意味らしい。


普通のテーブルだとどうしても意味合いが出てきてしまうので学園内に設置されている全ての食堂のテーブルはラウンドテーブルになっている。


席に座って待っていると、しばらくして全員が集まった。


ちなみに席は自由。


俺の右側にはミレーヌさん。


反対側は空席のまま。


クラスは全員で10人なのに椅子が11人分。


どういうことだ?


その謎は直ぐに解けた。


食堂の扉がやや乱雑に開かれる。


「すまん、すまん。待たせたな。俺の席はっと……」


現れたのはまさかの学園長だった。


「お前の隣か。ちょうどいいや。」


学園長は俺の隣にドカッと座ると始めろとメイド達に告げる。


「とりあえず飯にしよう。」


学園長のかけ声と共にそれぞれのテーブルに料理が運ばれた。


そして皆のグラスに飲み物が注がれた。


「それじゃあ改めて、特級組に入学おめでとう。乾杯!」


「「乾杯!」」


甘い匂いと、とろっとしてるこの感じ。


一口飲んで確信する。


以前エチゴヤの宿で飲んだリンモのジュースだ!


「なんだ、お前はあんまり驚いてないな。」


学園長がリンモのジュースを飲んだ俺の反応を見て話しかけてきた。


「驚いてはいますよ。でもナルタにある宿で一度頂いたことがありますので。」


「ナルタ?あんな辺境でこれを出せる宿なんて……あぁ、あるな。お前、よく泊まれたな。」


学園長も知ってるのか。


「いろいろありまして……」


こればっかりは苦笑いをするしかないよな。


この場で言うわけにはいかないし。


「いろいろか……まぁいい。飯だ、飯。」


この世界って基本的に肉、スープ、パンだからな。


正直言ってこの味付けには飽きてきた……


どれもこれも塩と少量の胡椒だけ。


唯一エチゴヤだけは醤油や味噌を使ったりしてるけど。


『あぁ、スパイス使いたい。』


学園長と少し話をしたあとは他の生徒に文句を言われたくないので、音を立てないように気をつけながら黙々と食事。


チリチリの前髪を持つチャラ男君はどうやら文句を言おうとしていたらしく、チラチラとこっちを見てたけど。


頑張れば俺だってこれくらい出来るからな!


皆が食事を取り終わるまで律儀にも待ってくれた学園長は、皆の食事が取り終わったのを確認すると話を始めた。


「皆、食ったな?それじゃあ話でもするか。お前たちは入学の時点ではこの学年代表となっている。いわば下のクラスの連中からは落とすべき人間って訳だ。特級組に入れたからと胡座をかいているとすぐに今の地位から引きずり落とされるからな。毎年何人も自分の実力を驕った結果、下のクラスに叩き落とされた連中を俺は、何人も見てきた。お前達がどうなるかは自分の努力と才能次第だ。俺をがっかりさせるなよ?」


「「はい!」」


「後はあれだな。こっちの話も大事か。去年まで居た特級組の専属の担任が歳で引退して今年から新しい人間を迎え入れた。もうお前達も会ったと思うが……今年からはフィオナ・パスカリーノが教壇に立つ。既に洗礼を受けたやつも居るみたいだけどな。」


チラッとチリチリになった前髪の持ち主であるシャールを見ながら笑う。


「まぁ言動と行動に問題が『多少』あることは俺だけでなく本人も認めている。」


あれで多少か……


全員が苦笑いしている。


「だが信じられんかも知れないが部下に対する教育の腕は確かだ。現実の結果としてアイツが率いるようになってからは隊の損耗率は劇的に下がり、戦果も凄まじく上がった。まぁ普段の言動が言動なだけに上からはよく思われていなかったがな。結果的にアイツを激怒させた第1魔法師団団長のじじぃは部下が見てる目の前で反撃することも出来ずにボコボコにされて面子を潰されたって訳だ。俺ですら何度ボコボコにしてやろうか悩んでも出来なかったことをアイツがかわりにしてくれた事には感謝してるが。」


うわぁ……


部下が見てる目の前で師団長がボコされたのか……


求心力が下がりそう。


でも先生が率いてから部隊の損耗率が下がったってことは教育者としては凄いんだろうな。


まぁ言動や行動に気をつけないと俺もチリチリ君みたいなことになる恐怖がつきまとうけど。


「まぁ勢いでやっちまった結果クビな訳だが。元々狙ってた人材だからちょうどいいやと思って引っ張ってきた訳だ。あえて言わせてもらうがな……あいつに頑張ってついて行けば強くなれるぞ。」


そう聞いた瞬間に生徒たちはギラギラとした目に変わる。


『ほぅ、これなら大丈夫そうだな。』


学園長は生徒達の空気が変わったのを見届けると安堵して笑顔になる。


「それじゃあ俺はそろそろ仕事に戻るわ。頑張れよ。」


そう告げると学園長は仕事へと戻って行った。

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