第96話
学園を後に馬車で商業ギルドへと移動した3人は話し合いを始める。
「ありゃ駄目だな。」
「女神様を冒涜するなど許せません!」
アムルとアルレットは学園で大人しく我慢していた分ストレスが溜まっていた。
「それじゃあ今後どうするか話し合いを始めましょうか。」
それから数時間話し合いが行われた。
デコス男爵家の領地への対応は以下の通り。
商業ギルドと神殿にて今回の件の公表。
『廃嫡された男爵家の元三男が魔法学園にて働いていたが、入学試験希望者の子供に対して平民だからと見下し金銭を要求していた。』
領地にある商業ギルドや神殿に張り出すだけですぐに商人達から領民にも噂は広がるだろう。
自分達の領主の息子が平民だからと見下して金銭の要求をしていたのを知った領民達はどう思うだろうか?
暴動が起きないように精々頑張って欲しい。
ピエトリ男爵家への対応はデコス男爵家よりも少し厳しい内容になった。
それは当然だろう。
ラグナと揉めた張本人の実家なのだから。
ピエトリ男爵家の対応はデコス男爵家への対応+デコス男爵領で商いをする商人達に噂を流してもらう。
『廃嫡された元三男はエチゴヤ商会が預かっている子供に対しても同様に金銭を要求し、断られると暴力行為を働いた。』
未だに国民から盛大な人気を誇っているエチゴヤの一族。
その一族が面倒を見ている子供に対しての恐喝及び暴力沙汰。
更に他の平民の子供に対しても金銭を要求。
さぁ、領民から見たら領主達はどう映るだろうか?
そして侯爵家と伯爵家。
元々この2家のことはエチゴヤ商会だけでなく商業ギルドや神殿から見ても良い感情は持っていなかった。
まず他領に比べて重い税に苦しんでいる領民。
そして領主達に賄賂などを渡さない商会には重い関税を。
逆に心付けをくれる商会には通常の関税しか取らない。
商業ギルドや神殿に対しても商人から度々相談や苦情が多発していた。
しかし相手が侯爵家や伯爵家と言うこともあり対応出来ずにいた。
「男爵家に対しては潰れてしまうと領民が困るのであの程度で済ませます。しかし侯爵家と伯爵家に対しては大きく動きませんか?」
サイは2人に対してそう問いかける。
「商業ギルドとしては以前よりなんとかしなきゃならんとは思っていたが……神殿はお前さん1人の力じゃ動かせないだろう?」
「流石に私が動かせることには限界が有ります。これ以上となると司教であるタチアナ様と相談しなければなりませんね。」
その時ドアが強めにノックされる。
「し、失礼します。アルレット様はいらっしゃいますか?」
神殿騎士が慌てて室内に入ってきた。
「どうかしましたか?」
「緊急事態です。女神マリオン様より神託の書物が届きました。」
アルレットは急いで立ち上がるとサイとアムルに一言告げて神殿へと向かった。
「このタイミングで神託かぁ。助けになる内容だと嬉しいんだがな。」
「女神様が地上に干渉することなどあまり無いでしょう。それよりも商業ギルドとしてはどこまで動けますか?」
「流石に商業ギルドを撤退させると言う訳にはいかないからなぁ。現実的に出来ることとしたら取引の規模の縮小くらいだろうな。そっちはどうするんだ?」
「領民が困らない範囲で領主達だけにダメージを与えたいのですよね……悩みどころです。」
しばらく2人で話し合いをしていると顔色があまり良くないアルレットが部屋に戻ってきた。
「顔色が優れませんがどうかしましたか?」
「えぇ、まぁ……」
あまりにも顔色が悪いアルレットが部屋に戻ってきたのでどうしたのかと2人で話を聞く。
「マリオン様からの神託があったのですが、その内容がですね……一応先ほどタチアナ様にも連絡を行い、神託の事も含めて伝えたのですが……流石のタチアナ様も神託の内容には驚きを隠せなかったようで……私には神託の通りに動くようにとタチアナ様より言われました。」
「マリオン様からの神託とはどの様な内容で……?」
「どうやらマリオン様は私達のやり取りを含めて全て知っておられました。」
そうして伝えられる神託の内容。
侯爵家、伯爵家、男爵家からの神殿の撤退及び国内全ての新規特許申請の一時停止。
上記4家の子息が学園で行っていた不正を国内に公表。
そして女神であるマリオン様を侮辱したことをこの大陸すべての国に公表。
更に正体を明かすことはしないがマリオン様の使徒に対する暴力行為なども行われたと全ての国に公表すること。
「以上になります……」
「おい、おい、おい。それはかなり不味いぞ。国内だけじゃなく国外も混乱するぞ!」
「流石にこれは予想出来ませんでした。私達が考えていた内容では収まりませんね。」
そうして再び話し合いがやり直される。
そうして決まったこと。
神殿は女神様の神託通りに動くこと。
商業ギルドは業務に支障が出るため王宮に対して対応を取るように圧力を掛ける。
エチゴヤ商会としては動くに動けなくなってしまった。
「私が一番困りましたね……ラグナ君に対する暴力行為を非難しようにもこのタイミングで動いてしまうと女神様の神託と重なってしまい、ラグナ君が使徒だとバレる恐れがありますね。」
「だな。じゃあ動くのを辞めるか?」
「いえ……私は人気取りにでも動くと致します。」
エチゴヤの一族として女神様を侮辱した件と使徒に対する暴力行為を上記4家に対して非難する声明を発表。
侯爵家と伯爵家が賄賂をエチゴヤ商会に対して請求していたことの公表と王宮に苦情の申し立て。
上記4家との取引を停止。
「神殿が動いた時点で4家が治める領地から商会から露天商まで数多くの商人達が撤退するでしょう。すると物が入らなくなり困るのは領民達です。そこで私の出番。一応父上にも許可を取りますが食料の流通をほとぼりが冷めるまでエチゴヤ商会とその関連の商家だけで支えてみせましょう。」
数多くのお店が無くなり困る領民。
領地に残った商店での販売価格は上がるばかり。
困る領民達を助けるためにエチゴヤ商会は動き出す。
他店では値段が跳ね上がった食料を以前と変わらぬ値段で提供。
そしてこっそりと噂を流す。
領民が困っている姿を見ていられなく、エチゴヤは赤字の状態で食料を以前と変わらぬ価格で提供していると。
「なんだかやらせに思えてきたな。今でも人気なのにこれ以上必要なのか?」
「まぁ実際に領民達は困るでしょうから。エチゴヤ商会としてはそれだけは不本意なので動きますよ。実際に赤字になるでしょうし。ならば人気くらい得てもいいじゃないですか。」
「まぁ確かに困るのは領民か……」
「本当に申し訳ありません……」
「アルレットさんのせいでは無いですよ。全ての罪、悪意は全部4家に押しつけてしまいましょう。」
神殿からの神託の公表は明日。
それと同時に全ては動き出す。
想定していたよりも遥かに大きな事態になってしまった事件は国を巻き込む大騒動へと発展していくのであった。
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