第88話

「ラグナ君、王都にいる間は自分の家だと思ってゆっくり休んでいいからね。サイ、後のことは頼む。」


「わかりました。お任せを。」


「お世話になります。」


ブリットさんとの挨拶を終えてお店を出ると馬車が既に待機していた。


「それじゃあ我が家まで案内するよ。」 


馬車に乗り込み改めて街中を見渡す。


一般街のメイン通りの中心にあるエチゴヤ商会。


エチゴヤ商会はちょうど交差点の角地になっていた。


「サイさん、今いるお店側ではなく交差点の反対側にある左右の建物はなんのお店なんですか?」


エチゴヤ商会と同規模のお店でもあるんだろうか? 

「交差点の反対側にある建物は倉庫なんだよ。しかもうちのね。」


サイさんは苦笑いしながら教えてくれた。


と言うことは一般街にあるメインの大通りにある交差点の角地は全てエチゴヤ商会。


街の中心に商会が存在しているのか。


本当にやっていることの規模が違うな。


「凄いですね。この交差点をまっすぐ進むと貴族街の入り口に着くのはわかるんですけど左右の道はどこに繋がっているんですか?」


「まずは左側の店舗の方に進むと学園区画に繋がっているんだ。反対に今から私たちが行く右側は住居区画になっているよ。」


ん?と言うことは……


「エチゴヤ商会の左右にある店舗が本当の意味で街の起点に……?」


確か左側は武器や防具などの取り扱い。そしてその先には学園があると……


反対の生活雑貨を取り扱う店の先にあるのは住居……


「エチゴヤ商会凄すぎますね……」


「こればかりはご先祖様が凄すぎるんだよ。普通は1商会の店舗を基準にして街が作られるなんてあり得ないからね?まぁ優遇されている反面いろいろと悩みも大きいのだけどね。」


そりゃこんだけの待遇を受けていたら他の商会からは妬まれるよね。


王都に関していろいろ教わりながら住居区画へと進む。


商業区画から住居区画への目印となりそうな巨大な敷地内に建てられた巨大な屋敷が現れた。


そしてその巨大な敷地の中へと馬車は進む。


「お疲れ様、そしてようこそ我が家へ。」


馬車から降りるとそこはまるで別世界だった。


手入れがよく届いている木々、そして花壇。


屋敷の目の前には水が流れ続けている噴水。


そして屋敷の入り口には使用人が出て来ており左右に整列してた。


「「お帰りなさいませ。そしてようこそいらっしゃいました。」」


屋敷で働く人たちだろうか?


綺麗に声を揃えて頭を下げる姿は圧巻だった。


「お兄さまお帰りなさいませ。そしてラグナ君、我が家へようこそ。」


ミレーヌさんも出て来た。


「ミレーヌさん、お久しぶりです。お世話になります。」


ミレーヌさんはにっこりと笑うと手を握ってきた。


「屋敷を案内しますわ。いきましょ。」


ミレーヌさんに手を引かれて屋敷の中へと入っていく。


その姿を後ろから見ていたサイは少し考え込む。


『ミレーヌもラグナ君の事を気に入っているみたいだな。父上と話をしてみるか。ラグナ君のことは手放したくないからね。』


サイは今後どう動くべきか考えながら屋敷の中へと入る。


その頃、ラグナは


「ここは食堂になりますわ。そして次はこっち。」


食堂からキッチン、食料庫などいろいろと案内されている。


しばらくそうしているとミレーヌさんの後ろに屋敷の人が現れた。


「お嬢様、ラグナ様は遠い所から到着したばかり。そろそろお休みさせてあげては如何でしょう?」


ミレーヌさんはハッとしたあとに顔を赤くする。


「私としたことがハシャいでしまいましたわ。そうでした。ラグナ君は移動してきたばかりでしたね。ごめんなさい。」


「大丈夫ですよ?楽しかったのでありがとうございます。」


「それではラグナ様、お部屋まで案内します。」


「僕はただの子供なので様なんて付けなくても……」


「いえいえ、ラグナ様は大事なお客様と旦那様より申し付けられておりますので。」


ただの子供だと思っていたのにブリットさんからそう指示されていることに驚いて思考が停止する。


執事さんに案内されるまま部屋まで案内される。


こちらの部屋になります。


執事さんが扉をあけてくれたので部屋の中に入る。


左側には大量の書物。


そして窓側には机。


右側には疲れた時に休めるようにテーブルとイス。


そしてこの世界で初めてみたここまで大きくて立派なベッド。


「えっと……これは……」


流石にこの豪華さに驚いて腰が引ける。


「こちらがラグナ様が滞在中にお泊まりになるお部屋となっております。左側の本棚には様々な種類の本を取り揃えましたのでご自由にお使い下さい。」


「取り揃えたってことは僕の為にここまで……?」


「おっと、失言でしたな。それでは私はこれにて失礼します。何かありましたら机にあるベルでお呼び下さい。」


「あっ、わかりました。わざわざありがとうございます。」


ラグナは執事さんに頭を下げる。


執事は礼儀正しさに驚くものの「では。」と部屋を後にする。


『旦那様からは辺境に住んでいる子供と聞いていたのでやんちゃな想像をしておりましたが……とても礼儀正しい。とてもお嬢様と同じ9歳とは思えませんな。落ち着いておられる。はてさて、旦那様は今後どうお考えなのでしょうね』


執事はそう考えながら自分の仕事へと戻っていく。


ラグナはひと通り部屋を見回ると椅子に座る。


「まさかここまでしてくれるなんて……これ絶対に客間じゃないよね……」


あまりにも過大な待遇に驚き思わずため息がでるラグナだった。

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