第84話
ナルタの街への入場手続きは商業ギルドのカードを提示したら簡単に完了した。
ちなみにサイさんは顔パス。
2人で馬車に乗りながらエチゴヤ商店へ。
「やっと着いたね。とりあえずお昼ご飯でも食べに行こうか。前回はゆっくりと街を見る時間も無かったでしょ?」
「はい、でもサイさんはお仕事とか大丈夫ですか?」
「運んだ荷物は商会の部下に頼んであるから大丈夫。ほら行くよ。」
サイさんに連れられてお昼ご飯を食べに。
大通りから少し外れて小さい商店が建ち並ぶ小道へ。
この辺は料理屋さんが多いのかな?いろんな匂いがする。
「それじゃあここに入るよ。」
案内されたお店は周りのお店とは全く違う外観。
例えるとしたらヨーロッパの古き良き町並みの中に突然現れる日本家屋。
この街にある建物としては異質。
なんせお店の入り口に暖簾があるからね。
「エチゴヤ商店系列のお店ですか?」
「うん、そうだよ。よく判ったね?」
そりゃ判るよ。実際に目にしたこともあるし。
「泊めていただいた宿にどこか雰囲気が似ていたので。」
「そっか。ラグナ君はあそこに泊まったんだったね。ここも初代勇者様のレシピを再現した料理屋なんだ。」
暖簾をくぐり店に入ると店内は本当に日本料理屋。料理を煮込んでいるいい匂いがする。
ちらっとお客さんが食べている料理を横目に奥の個室に案内された。
「ここは勇者様の世界で鍋と呼ばれていた料理を再現したお店なんだよ。」
そしてサイさんに料理の説明を受ける。
味は2種類。
醤油味の寄せ鍋
塩味の寄せ鍋
日本料理を再現したお店なだけあってお値段が凄い。
醤油味は1人前で銀貨5枚
塩味は1人前で銀貨1枚。
やっぱり高いなぁ。
「ラグナ君は醤油味は大丈夫かな?」
「はい、この前初めて醤油味のお肉を食べましたけど美味しかったです。」
「なら良かった。私は醤油が好きなんだ。それじゃあ醤油の鍋を頼もうか。」
サイさんが呼び鈴を鳴らすと店員が個室に入ってきた。
「醤油味の鍋を2人前と果実水を頼む。」
女性の店員さんは緊張した様子でサイさんに頭を下げて下がっていった。
「あの人はサイさんのことを知っているんですね。」
「まぁナルタだからね。王都よりも私の顔を知ってる店員は多いんじゃないかな?」
すぐに果実水が運ばれてきた。
「今日の果実水は柑橘系みたいだね。」
一口飲んでみると確かにみかんのような味がする。
「日によって違うんですか?」
「それはそうだよ。毎日同じ果実が手にはいるわけじゃないし、旬な物だってある。その日仕入れられる最上な果実のみを果実水として提供しているんだ。食材ならある程度融通はきくけど果実は厳しいんだ。傷みやすい物が多いから。」
よく考えてみればそうか。
収穫して直ぐに出荷しても馬車での移動だから時間も掛かる。
毎日毎日新鮮な果実を仕入れるなんて余程近くに果樹園が無ければ不可能だよな。
サイさんと果実水を飲みながら語り合ってくると鍋が運ばれてきた。
そして店員さんがサイさんと俺に均等に鍋の食材を取り分ける。
「それじゃあ食べようか。頂きます。」
「はい、頂きます。」
醤油の鍋の具材は鶏肉、キノコ、人参、大根、白菜だった。
前の世界とは別の異世界なのに野菜の種類は似たようなものが多いので不思議。
先ずは鍋のスープを一口。
「どうかな?」
「美味しいです。お醤油だけじゃなくていろんな野菜やキノコの味もしますね。」
「それが初代勇者様の世界で言う出汁と言う文化らしいよ。この出汁と言う物に馴れてしまうと我が国の料理では物足りなくなってしまう人が多いんだ。」
確かにこれは次元が違う。
まぁしょせん辺境の田舎の村でしか過ごしていないけど基本的にスープは具材を切って煮込んで塩で味を整えてお終い。
だから味にここまでの深みなんて無い。
まぁ美味しい分お高いんだけどね……
サイさんとご飯を食べた後はそのまま商業ギルドへ。
商業ギルドの受付で会員証を提示する。
「ラグナ様ですね、本日はどの様なご用件でしょうか?」
僕が答える前にサイさんがすっと以前にも出したカードを提示する。
今回の受付の人は一切表情を変えることなくカードを確認すると、こちらへどうぞと以前案内された個室と同じ場所に案内される。
しばらくするとマホッテト司祭と何故か商業ギルドギルド長のアムルさんが部屋に入ってきた。
「お久しぶりです。」
サイさんと共に挨拶する。
「おぅ、久々だな。今日はどうした?」
「ラグナ君が魔法学園の入学試験を受けるので王都に向かう途中、一度ここに寄って欲しいと教会の方々から連絡がありまして。」
ギルド長がチラッとマホッテト司祭を見るとこくりと頷く。
「ラグナ様、お久しぶりにございます。ラグナ様にはこちらをお渡ししたいと思いサイ殿に言伝をお願いした次第です。」
マホッテト司祭がそう言うとラグナへと手紙を渡す。
「これは……?」
「こちらは神殿からの学園への推薦状となっております。きっとラグナ様には必要になると思いますので。」
「そうなんですか?」
みんなを見るとサイさんとギルド長は苦々しい顔をしながら頷く。
「ラグナ君には王都に着いたらうちからもそれを渡す予定だったんだ。」
「学園への入学試験を受けるのになんで……?」
答えはギルド長が教えてくれた。
「言いにくいことだがラグナ君は平民だろ?この国の貴族、特に王都に住む貴族連中は平民を見下す奴がほとんどだ。まず平民が入学試験なんかを受けに来た時点で彼奴らは気に入らない。何故平民が学園に通う必要があるのかと。どうしても試験を受けたいならまずはそれ相応の賄賂を寄越せと言ってくるだろうな。」
「えっ……」
「事実だよ、ラグナ君。」
驚いてサイさんを見るとそれが真実だと頷く。
そう言えば両親からも昔聞いたことがある。
この国の貴族連中は腐ってると。
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