第76話
「それではラグナ君には演技でもして貰いましょうか?」
えっと?
「演技ですか?」
「はい、演技です。難しいことは言いません。」
まさか演技をしろと言われるとは……
「えっと……つまりどうすれば?」
マリオン様はニヤリと笑うとこう告げる。
「何、簡単ですよ。私が今から書に記した神託を渡すのでそれを握ったまま倒れたフリをしてください。」
「た、倒れたフリですか?」
倒れたフリくらいなら出来ないことは無いけど。
「神官には神託の後に気がついたら倒れていたとか言っておいて下さい。」
神官で思い出した。
「そう言えば神官によろしく伝えるように言われたのですが……」
「あの神官ですか?あの方は駄目ですよ。信仰とは名ばかり。自分の出世しか考えていないんですもの。」
流石は女神様。
下心などお見通しなんですね。
「それじゃあそろそろラグナ君を戻すけど貴女はいいかしら?」
サリオラはラグナのことをチラッと見ると構いませんと一言返事をする。
「それじゃあサリオラ、またね。」
「うん、またね。」
「マリオン様、サリオラを呼んでいただきありがとうございます。」
マリオン様はにっこりと笑うと
「構いませんよ。こう言うのも良いものなのですね。それではラグナ君、レシピの方は何か思いついたらよろしくお願いしますね。」
そう言うとマリオン様は神託を記した紙を俺に渡してきた。
その紙を手で握りしめて倒れたフリをする。
「ではまた。いつかお会いしましょう。」
その声と共に意識を手放した。
…………
…………
…ラグナ君!
…大丈夫か!?
うん?
ゆったりと目を開ける。
「ここは……」
目をあけると一緒に神殿まで来た商業ギルドの人が一生懸命俺のことを揺すっていた。
周りには神官の人達がワタワタしているみたいだった。
マリオン様。
気絶したフリをするつもりが本当に気絶していたんですが……
「大丈夫かい!?」
大きく息を吐き出すと返事をする。
「ご心配をお掛けしました。大丈夫です。」
司祭のマホッテトが近寄ってきた。
「それで何があったのですか?扉が開かなくなり驚きましたよ。」
何があったのか……
「ここで祈っていた所、マリオン様のお声が聞こえたのは覚えているのですが……気がついたら倒れていたみたいです。」
神官達がザワザワしている。
「そ、そうなのですか……ん?その手に持っているのは?」
手で握っている書類を広げる。
そう言えばマリオン様はなんて書いたんだろう。
『この者に神託と試練を与えた。内容は教えることは出来ない。教会にはこの者を陰から手助けして欲しい。また神託に関連してこの者を崇めるのを禁止する。出来るだけ陰から手助けに徹して欲しい。 商業の女神 マリオン』
マリオン様ー!!
これじゃあ使徒扱いになっちゃうじゃないですか!!
後ろから一緒に書類を覗いていた神官の一部がポツリと一言。
「マリオン様の使徒様……」
すると他の神官も続くように
「使徒様……」
使徒と言う言葉がどんどん広まって行く。
次第に騒ぎ始める神官にむかって司祭が咳払いをするとシーンと静かになる。
「使徒様、お騒がせしてしまい申し訳有りません。」
マリオン様ー!!神官達の中で俺は使徒になってるんですけど!
「こちらの神託の内容を直ぐに全教会へと報告させて頂きます。また秘密裏にと言うことなので、まずは商業ギルドにて登録して頂き身分証の発行をして頂きたいのですがよろしいでしょうか?」
頭の中が真っ白になっている俺は思わずウンと頷いてしまう。
「聞きましたね?直ぐに全教会へと連絡を行います。今日の打ち合わせなどは全て中止にするように。直ぐに行動しますよ!!」
神官達は一斉に散らばり各々の仕事に取り組み始めた。
その光景を見ていた商業ギルドの職員は一言。
「大変なことを聞いてしまった……」
呆然と立ち尽くしていた。
ハッと気がついたラグナは自分の境遇に気がつく。
ここまで騒がれたらもみ消すなんて無理だ……
マリオン様め、やってくれたな!!と言う気持ちでいっぱいだった。
司祭が手揉みをしながら笑顔で近寄ってくる。
「それで……女神様には……」
あぁ、あの事か。
「一応伝えました。」
ダメ出しされましたけどね。
「本当ですか!?ありがとうございます!」
笑顔で手を握って握手してくる。
真実を知らないって大切だよね。
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