学園入学まであと1年。

第41話

あれから4年。 


この世界に転生してから9年が経過した。


「おぎゃー、おぎゃー。」


「産まれたのか!?」


そう。


母さんが子供を出産した。  


「元気な女の子ですよ。」


未だに産婆が居ない我が村では度重なる出産ラッシュにより少しずつだけど出産の介助を出来る女性が増えてきていた。


まぁきちんと学んだ産婆では無いので難産の場合は母子共に覚悟をしなければいけないけど。


母さんは28歳。この世界では高齢出産の部類に入る。


「ミーナ、ありがとう。よく頑張ってくれた!」


泣いて喜ぶ父さんは32歳。最近白髪が増えてきたのが悩みらしい。


そして俺。


「母さん、お疲れ様。ゆっくり休んでね。」


前世と同じように兄になったみたいです。


そして前世の妹は俺が死んだ後も元気にしてくれているだろうか?


急に思い出してしまいちょっと寂しい気分。


ラグナの笑顔に違和感を感じたミーナは手を広げてラグナを呼び寄せた。


「これでラグナもお兄ちゃんね。これからは妹のこともよろしくお願いね?」


そう言いながら母さんが優しく抱きしめてくれた。


心のどこかでは本当の子供じゃない。


いつか兄弟が出来たときに俺はどうなるんだろうか?


不安が無かったわけじゃない。


でも母さんは俺のことを受け入れてくれてるって再認識することが出来た。


嬉しい気持ちと前世の妹に対しての気持ちでぐちゃぐちゃになって涙が止まらなくなってしまった。


「もう。お兄ちゃんになったんだから泣かないの。あなたも大事な家族なんだからね。」


「母さん、ありがとう。俺も母さんに育てて貰えて幸せだよ。」


その言葉に驚いたグイドとミーナ。


「急にどうしたの、ラグナ?」


2人の驚いた姿にラグナはやらかしたことに気がついた。


「ラグナお前……何か知ってるのか?」


これはもう誤魔化しきれないかも。


「うん。知ってるよ。」


「知ってるって何を?」


仕方ない。一部だけど正直に話をしよう。


「僕が2人の本当の子供じゃないこと。」


ラグナが気がついていたことに驚く2人。


「確かに産まれたのは違うかも知れない。でもラグナ、あなたは私達の大事な子供よ。本当に大切な子供なの。」


「わかってるよ、母さん。実はちょっといろいろ不安だったんだ。でも本当にありがとう。こんな俺を受け入れてくれて。」  


父さんが涙目で頭をわしゃわしゃしてきた。


「ラグナは俺達の大事な自慢の息子だ。これからもずっとな。」


母さんに抱きしめられながら父さんに頭をわしゃわしゃされ続けていると……


「おぎゃー、おぎゃー」


妹が大号泣し始めたので母さんが慌てて抱き寄せた。


「でもラグナ。いつ知ったんだ?」


本当は産まれた時から知っていた。


でももしも知らなくても知るきっかけはあったんだよな。


「ダンダって覚えてる?悪ガキの。」


その名前を聞いて驚く2人。


何故ならダンダと言う子供は既にこの世に居ない。


何故いないのか?


ダンダと言う子供は以前村からこっそりと抜け出して魔物によって殺された子供。


いじめっ子の問題児だった。


「ダンダが何か言ってたのか?」


「うん。お前は両親と髪の色も眼の色も違う。捨て子なんだよ!ってよく言われてたから。」


「あのクソガキが。」


「それってだいぶ昔から知ってたってことなのね。」


「うん。でも気にしてなかったし。」


「そっか。ありがとう、ラグナ。話をしてくれて。」


「ううん。こっちこそ黙っててごめんね。」


まぁ本当は転生前からの記憶があるんだけど……


流石にそこまで話せる勇気がまだ無いんだ。


「でも妹が産まれて本当に良かった。おめでとう!父さん、母さん!」


2人が笑顔で返事をする。


「「ありがとう!」」


俺は来年には学園に入学する。


寂しい思いをさせるんじゃないかと思ってたけど、これなら大丈夫だと思う。


あと入学まで1年。


出来る限りのことはしていかないと。

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