第38話

目の前に置かれた肉の塊に歓喜狂乱しているラグナ。


父さん達が狩ってきた魔物が今日は大量だったので分配された肉の量が凄かった。


我が家の家族分+ハルヒィさんの分。


何十キロ有るんだろうか。


母さんが部位毎に肉を切り分けていく。


そして俺は暖炉に備長炭を召喚して父さんとハルヒィさんに手渡していく係。


今日のお肉は暖炉で炭火焼き。


相変わらず中々備長炭に着火しない。


「この炭って本当に中々着火しないんだな。」


「このまま薪を消費するのもあれだからな。いくか。」


父さんは剣を両手に持ち暖炉の中に突き刺す。


「はぁぁぁぁ!」


剣から炎が発生し部屋の中が暖かくなる。


剣の炎の暑さに耐えながら備長炭の位置を微調整するハルヒィさん。


パチパチパチ。


「今回は早めに点いたな。ラグナ、あと20本くらい炭を出せるか?」


20本か。ちょっと多いけどやってみるか。


「出来るかわからないけど。『備長炭召喚!』」


手の平にずっしりとした重み。


父さんとハルヒィさんが備長炭を持って暖炉の前に移動した。


「ふぅ、やっぱり最初に出した時よりかは疲れなかったよ。」


「多少はスキルが鍛えられてるんじゃないか?」


まぁ定期的にいろいろ召喚してるからね。


母さんが切り分けたワイルドボアの肉をお皿に載せて運んできた。


「今日は年末だからまさにお祝いの量のお肉ね。食べきれなかった分は塩漬けして干し肉にしちゃうから出来るだけいっぱい食べてね!」


確か干し肉って作るの大変なんだよね。


肉を塩漬けにして水抜き。


ここで水気をきちんと抜いておかないと腐ったりカビたりしちゃう。


水分が抜けたお肉を風通しがいい冷暗所で乾燥。


完成までに1ヶ月くらいはかかるんだよなぁ。


本当に手間がかかる。


せめて冷蔵庫があれば多少は食材の日持ちが良くなるんだけど……


冷蔵庫は本当にお金持ちの家にしかないらしい。


ずっと冷やし続けるってのは魔石の消費が凄いらしく実用的では無いみたい。


とりあえず今から肉パーティー。


「炭の準備出来たぞー。どうやって焼く?」


「炭の上に鉄の板でも載せれば良いんじゃないかしら?それか串にでも刺す?」


炭をなるべく平らに並べてその上に鉄板をのせる。


その後に鉄板に油をたらしてのばす。


そして……


切り分けたお肉を鉄板の上に。


ジュー。


鉄板から煙が上がる。


お肉の焼ける匂いが部屋に漂う。


片面が焼けたらひっくり返す。


ジューー。


鉄板から肉汁がこぼれ落ちる。


こぼれ落ちた肉汁が炭にかかり煙が出る。


さらに香ばしい肉の香りが漂う。


「こんなもんで大丈夫か?」


焼けた肉を皿に載せる。


目の前には焼けたお肉。


母さんがみんなに切り分ける。


「今日の食事にも感謝を。いただきます。」


「「「いただきます。」」」


まずは焼いた肉を調味料無しで。


「やっぱりワイルドボアは美味いな!塩無しでもいける。」


今日は大量に肉を食べるので焼く度に徐々に味変をしていく。


最初はそのまま。


次は塩をまぶして。


その次は元々ほとんど使うことが無い高級品。


その名も胡椒。


これはハルヒィさんがうちに置いていった。


なんでも本当にいい肉が手に入った時に使う貴重品。


でもハルヒィさんは出会ってしまった。


アウトドアスパイスと言う名の調味料に。


絶対に家から出さない。1人の時にしか使用しない。門外不出を約束してハルヒィさんの家に通路作成スキルで作った小さい保管庫にスパイスを仕舞ってある。


そんな胡椒と塩を振りかけて3枚目の肉を焼く。


焼けた肉にかぶりつく。


「美味しい。肉汁と塩胡椒の味が口の中いっぱいに広がる……」


確かに塩も良かった。


でもそれに胡椒が加わるとピリッとしたアクセントが加わり食欲が増す。


そしていよいよ4枚目。


「ラグナ香辛料は肉を焼く前にかけるのか?それとも後か?」


「ラグナ香辛料ってなんか嫌だよ。とりあえずお肉を焼いたら振りかけてみようよ。」


父さんが鉄板の上に肉をのせて焼き始めた。


ジュー。


ただ焼けていく肉を見つめる。


ひっくり返す。


肉汁がこぼれ落ちる。


そして焼きあがる。


目の前には切り分けられたお肉。


視線を感じるので顔をあげると皆が俺を見つめていた。


「なっ、なに?」


「なんかそこまでめっちゃ嬉しい顔ってあんまりしないからなぁ。観察してた。」


「だって仕方ないじゃん!ワイルドボアのお肉を食べたのがきっかけでスパイス召喚スキルに目覚めたんだよ?あの日は倒れちゃって食べれなかった食材が目の前にあるんだもん。」


「ならラグナが一番に食べなきゃね。どうぞ食べて。」


母さんに勧められるがまま『ほ○にし』をワイルドボアステーキに振りかける。


熱々の肉に温められたらスパイスの香りが部屋中に漂う。


スパイスが振りかけられたら肉をフォークで掴む。


そして口の中へ。


「………。」


お肉を口の中に入れた途端に一時停止するラグナ。


「ラグナ?」


名前を呼ばれてはっとする。


「美味しい。これはヤバい。」


何だろう自然と涙が出てくる。


「何泣いてるんだよ。それじゃあ俺達も食べようぜ!」


みんなもスパイスを振りかけた肉を口の中へ。


そして固まる3人。


「今までもこのスパイス使って肉を食べてたけどよ。ワイルドボアの肉にコレはヤバいな。」


「こんなにも美味しくなるなんて……」


「滅茶苦茶高い金を出して買って胡椒って何だったんだ……」


無我夢中で肉を食らう。


あっという間に自分用に切り分けられた肉が胃袋の中に消えていった。


普段ならお腹いっぱいになるんだけど……


まだ食べたい。


何か料理無いかな。


あぁ。まだこの世界に来てあれを食べたこと無いな。


作れるかな。


ちょっと母さんに手伝って貰おう。


懐かしのあの味を。

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