スクリーンの中で
文月 いろは
Ep.1 フィクションへの入口
彼は部屋のソファに深く座り、テレビをつけた。
外は
当たり前のように感じる日常。
ごく普通の毎日。
しかし、ある速報でどこにでもあるごく普通の日常をフィクションに変えてしまった。
「えーここで緊急速報をお伝えします。現在地球に時速約120kmの隕石が接近しています。」
そうして映し出されたのは映画やドラマでしかみない巨大な隕石。
「隕石は『カーネーション』と呼ばれていた地球と接触する可能性のある星として──」
彼は悟った。
もうこの地球上に逃げられる場所などないと。
「カーネーション隕石の衝突予想時刻は約24時間後の日本時間で9時27分とされています」
次の瞬間ブツンという音と共に、アナウンサーの声が消えた。
「そうか。カーネーションが」
彼は何もない天井を見上げ、全てを諦めようとしていた。
隕石が地球に衝突してしまえば、人類どころか地球も無事では済まない。
「隕石の衝撃にやられる前に自死するというのも悪くはないかもしれない」
彼はただの宇宙好きだが、それ故に知識は持っていた。
隕石が落ちてくるなら、結果は死ということを深く理解していた。
だからこそ、彼は今全てを諦めようとしているのだ。
そんな彼を余所に外は人で溢れかえっていた。
霧屋街スクランブル交差点──
「おい、ニュース見たかよ」
「あ?隕石のやつだろ?」
「いや流石に死なんてなw」
「それ」
「でも月が降ってくるって考えたらやばそうじゃね?」
常時では考えられない人と人との会話。
「続報です。カーネーション隕石は岐阜県に衝突すると予想されています」
「岐阜だって」
「結構近くね?」
「日本滅亡あるて」
そんな外の様子など気にせず項垂れていた彼のスマホに一件の連絡が来た。
「奏多ちょっと外出てこれない?」
相手は由依という彼の彼女に当たる人物。
家が近いということで最後に会っておきたいようだ。
その連絡で吾に帰った彼はそそくさと身支度を始めた。
一方隕石は今も時速約120kmで地球へ接近している。
地球滅亡まで──あと24時間。
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