04、“大抵のこと”

 ネイハウスを素っ裸にすると、見下ろし、その鍛えられた身体つきに感心する。

 経歴や顔立ちを考えれば四十は超えているはずで、五十代でもおかしくはないが、多分まだだ。

 それでこの身体なら、怠らず鍛えているのだろう。

 ベッドの縁から垂らされた足を片方取り、わざと足首を掴んで高く持ち上げ、脚の間を晒させ、辱めてやる。

 思いがけず不満は返されない。

 口元を覆ったまま、目だけを横向けそらしているのが、動揺を見せまいとするように思えて、胸が高鳴る。

 すぐそばに片膝をつき、身を低くして。

 向こうへ折り畳むように脚を上げさせ、影になっている尻の谷間へ手をやり、割れ目の深いところを指でなぞって探る。

 尻の肉を割り開いて穴を目で見て確かめられたら、この男はどんな顔をするんだろうか。

「アナルセックスの経験はあります?」

 ある、と。先と同じように、けれど今度はかすれた息に紛れる声が答える。

 件のアナルを指先に見つけ、しわを伸ばすように揉み解し、碧い目を隠してしまう瞼を眺め。

「変かもしれないけど、意外に感じます」

「そうか」

 ため息のように、素っ気ない声が返され。

 だが、柔らかくなった肛門に、具合を確かめようと指先をほんの少し入れると、ビクリと大きく身体が強張った。

 入口までも入れていないが、痛かったのか、嫌そうに眉を詰めて、手をついて胸を押し返される。

「いや、大丈夫。このままするわけじゃ、」

 指と穴を両方舐めて、挿入する時はツバで、と考えを巡らせていると、嫌な顔のままネイハウスが顎をしゃくり、振り返る。

 目を覚ました時ネイハウスが立っていた場所、彼の向こうにあって見えなかったのだ。鏡台に堂々と置かれているのは、国が違ってパッケージが違っても不思議と分かる、潤滑用のゼリーだろう。

 上げそうになる声も思わず失い、立ち上がって確かめに行ってしまう。

 間違いなく申し分ない、目的に正しい潤滑ゼリーと、コンドームが3パケ。

「3回か…」

 多分、気合を入れれば3回できなくもないだろう。初めての相手とは盛り上がるし、相手も悪くない。

「念のためだ。4枚は必要ないだろう」

 淡としているようで、呆れた色の含まれた声に振り返り、枕のある方へ移動しているネイハウスを一度見て。

 ゼリーとコンドームを持ってベッドに戻り、枕のそばに適当に放っておく。

「4回目ができたら、着けずに入れていいんです?」

 ついでに自分も残りを脱ぎ捨て、横臥に向き合い、ネイハウスの片足、上になっている方の脚を引き寄せ、自分の背中に引っ掛けさせておく。

 失礼、と声をかけて首の下から腕を通させてもらい、彼の背の向こうで、新品の潤滑ゼリーを開封して。

「こちらの不備といえるだろうな。それで構わない」

 公式の手続きか、仕事の話かよ、と思わず笑いながら、たっぷりとゼリーを手に取り、あたたまるのを少し待つ。

「どこの馬の骨とも知れない、」

 肛門にゼリーを塗りつけてやると、形のいい眉が少し皺だつ。

「初対面の外国人に、生でアナルセックスさせて、」

 手に取ったゼリーを送り入れてはまた注ぎ足すよう、中指を押し込み、また引き、次第に深く食わせてやる。

 不快だと言われても驚かないようなしかめ面は、けれど紅潮し始めている。

「、ぅ」

 何度目か往復したところで声が出て、ネイハウスは強く目を瞑る。

 前立腺だな。どこだった、と、ゆっくりと指を巡らせ、探す。

「腹の中に直接射精させるんです? ルスラン・ネイハウス書記官?」

「っア、」

 見つけた。

 指を入れられても痛がらない程度には、確かに経験はあるのだろう。

 だが、尻の穴は引き締まっていて崩れておらず、乳首もそうだが、慣れているとは思えない。

「幼稚な挑発だ。お前が病気を持っていないならな、……、ミザック」

 この野郎、と思う。

 取材を取り付けた赤鼻が電話で繰り返すのも聞いたし、名乗りもしたが、思い出す間を必要とするくらい関心がないらしい。

「ユクター・ミザックです、ルスラン」

「っ、!」

 指先で転がすように前立腺のしこりを撫でてやれば、ネイハウスの閉じた口から、カチッとこもった音が聞こえて。

 食いしばったその歯を、開かせてやりたい。

 一度指を引き、息をつこうとしたところに二本に増やして突っ込み、リズムを狂わせた隙を突く。

「クふッ」

 細波を打たせるように前立腺を細かく揺すってやると、バネのような身体が、たわんだ。

「アッ」

 尻を開くために腰に掛けさせている膝がこすりつけられ、背が反り、口が開く。

 ハラ、と、音すら立てそうに、撫でつけ髪が崩れて、金糸が額に散る。

「外国人の名前だから言いにくいのかな? ちょっと言ってみて」

 ユクター・ミザック、と、教えながら、もちろん、悦がる性腺をいじめ続け。

「ァ、ぁク、っ、クタ、ザッ」

 慣れていないが、これは。

「もう一度、お願いします」

 足掻いて逃げようとする背を引き寄せ直し、今度はペニスも掴んでやる。

「ハ、ァ、あァ」

「ユクター・ミザックですよ」

 水を張ったサファイアブルーが頭を振っても、降参に応じないと示して首を横に振り返してみせ。

「ユクタ、ユクター、ッ、ミザック、あ」

 リズミカルに前立腺を叩きながら、人のペニスでオナニーするように単調に扱き上げてやる。その上、親指の先を立てるように尿道口をえぐってやれば、これで悲鳴を上げない男はそういない。

「アッ、ァゥ、っ、ン、ッ、ゥゥ」

 卑猥な水音が立って、ネイハウスの身体がしなり、時おり不規則に腰を震わせ、限界が近いことを示している。

「クッ、ン、ゥンッ、うンッ――」

 ほら、頂上は目の前だ。

 感極まって我を失ったネイハウスの表情に、こちらまで高揚する。

「ハ、ア! アアー――ッ!」

 身を仰け反らせて絶頂し、思いがけず悦楽を叫ぶ男の声に、勃起していたペニスに燃えるように熱く血が満ち、痛いほどだった。

 えないように雑にチンコをあやしながら、どうしようか迷って。食い荒らされた哀れな犠牲者のように、気怠く身を投げ出しているネイハウスを眺める。

 しゃぶらせてやりたい場面だが、口を開けさせて自分のチンコを押し込むところを想像しただけでイキそうだ。

 口の中に出して精液を飲ませてやるのも興がそそるが、コンドームを消費せず一回分消耗してしまうのが惜しく感じる。

「……なんだ」

 視線に気づいてこちらに向くサファイアブルーは濡れていて、もう取り敢えず犯したらそれでいいような気もしてくる。

「口に突っ込んでもいいですか?」

「……」

 これほど絵に描いたような白い目を今まで見たことがあっただろうか。

 呆れと侮蔑をたっぷりと含ませた視線に、おお…と思わず声が出てしまう。

 じゃあいいか、と、動こうとしたのが、もう。今までたっぷりと余韻に浸って手足を投げ出していたくせに、ネイハウスの方が動くのが早い。

 シーツの上で這うように身をずらし、腰から下を気怠く投げ出したまま、あっという間に咥えられてしまう。

「あっ、あっ上手い、」

 思わず母国語に戻ってしまって、意味は分からないかもしれないが、多分何を言いたいのかは伝わってしまっただろう。

 たっぷりと含んだ口の中で、ためらいなく卑猥にチラチラと動く舌が亀頭を這い回る。

 金髪に指を差し込んで頭を抱き、どこかわざとその髪を乱しながら、口を窄めて吸い上げはしないもどかしいフェラチオに、ペニスを擦りつける。

 いや、これで口が性器みたいな完璧フェラだったら、瞬殺だったかもしれないが。

 けれど、慣れた刺激に突っ込んで浸れば、まだ見ぬ新しい刺激に期待しながら焦れているよりは、色々安定して。

 鼻で息をしながら丁寧にしゃぶるサファイアブルーの瞳が、ふいに上がり、視線がぶつかって。

 この顔を見ながらは多分、我慢できないなと、ネイハウスの口からペニスを引き上げた。

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