最終話 変わらない気持ち
まだ頭がボーッとする。
やっぱ俺、負けたのか…?
そもそもゴールできてないのか?
世奈は窓の向こうにある電光掲示板を指差した。さっきのレースの結果がアナウンスされ始めたようだ。1人ずつ、電光掲示板に名前が表示されていく。
1着 青木 渉 3年 8分51秒46
2着 鈴木 将暉 3年 8分51秒98
3着 高田 秀和 3年 8分53秒69
ここまでは次々と表示されたけど、4着以降が中々表示されない。これ、結構あるあるなんだけど、いざ自分が当事者になるとイライラするんだよなー。
4着 高尾 晴琉 2年 9分01秒28
5着 三岡 陸 2年 9分01秒88
6着 高島 景 3年 9分08秒41
7着 松田 竜彦 3年 9分11秒01
8着 塚田 雅史 2年 9分12秒52
一瞬、自分の目と耳を疑った。自分の目をこすってもう一度電光掲示板を見る。
「…やった」
心の奥から喜びが込み上げてくる。俺は一気にそれを外に吐き出した。
「ぃよっしゃーーーー!!!」
叫びながらベッドの上に立ち上がった。でもその瞬間、足に激痛が走った。
「っっってぇーー!!!!」
なんだこれ。太ももがジンジンする。起きてから今まで全然気付かなかったけど、今になってめちゃくちゃいてぇ。たまらずベッドにまた倒れ込んだ。
「ダメだよ、動いたら!多分肉離れしてるって医療班の人が言ってたから」
「肉離れ…」
「そう。治るまで2ヶ月くらいはかかるって。結構重症だよ。もう、無茶するんだから!」
なるほど、世奈が悲しそうな顔に見えたのは、俺の事を心配してくれてたからか。
「でも、肉離れした様な記憶は無いんだけどな」
「レース中、追い込み過ぎて意識失った後に肉離れしたのかもね」
不思議な経験だったけど、まぁそれはいい。それよりも…
「なぁ、世奈」
「なに?」
「俺はお前が好きだ」
「…え?」
「でも今は付き合ってくれとは言わない」
「…なに?どういう事?」
「陸に言われたんだよ。お前には世奈を守れないし、幸せにできないって」
「…」
「それ言われた時はすげームカついたけど、正直、心のどこかで確かになって思っちまった。今の俺は、ただ世奈の1番になりたいだけなんだって。独り占めしたいだけなんだって。世奈のことはなんも考えずに。そんな自己中な考えって、最低だなって自分でも思うんだ。だからこの幼稚な考え方を卒業できるまで、世奈に付き合ってくれとは言わない」
「晴琉…」
「でも俺の気持ちは、きっと一生変わらない。だからその…、世奈のことを守れる、幸せにできるって確信できた時に、付き合ってくれって告白するから。その時俺に少しでも気があれば、俺と付き合ってくれ」
世奈は少し黙り込んだが、しばらくして急に吹き出して腹抱えて笑い出した。
「なんだよ!…おい、いくらなんでも笑い過ぎだろ!」
「だって…、その告白…、おかしいでしょ!好きなのに付き合わないって…」
世奈がひぃひぃ言いながら笑うから、めちゃくちゃ恥ずかしくなってきた。
「じゃあどうしろってんだよ!」
「…いいよ」
笑いが急に止まり、世奈は柔らかい笑顔をこちらに向けた。
「待ってあげる。私も…その…晴琉の事好きだし」
「…え?」
「だから…できるだけ早くしてよね!私が待ちくたびれちゃう前に!」
「…なんだよ、それ」
「不満ですか?」
「いや…嬉し過ぎてもう一回飛び跳ねそうだ」
「だからダメだって!」
そこから休憩室を出るまでの間は、間違いなくここまでの人生で1番幸せなひと時だった。
————それから約3年後…
「晴琉!起きて!」
「んー…、んにゃ?」
「学校!遅刻するよ!」
「…ヤベェ!!!」
俺は飛び起きて制服に着替え、食パンを一気に平らげる。間違いなく3年前より食うスピードが上がった。
そして1分で歯を磨き、世奈と一緒に家を飛び出した。
「もう!私達、通ってる高校違うんだから、そろそろ自分でなんとかしてよね!私の方が学校まで遠いんだし!」
走りながら世奈の説教が始まる。これを聞くのも慣れたもんだ。
「わりぃわりぃ!」
「本当に悪いと思ってる?」
「へへっ!思ってるよ!」
「なに笑ってんの!」
「なんだか、嬉しくてよ!なんだかんだ4年も世奈と一緒に登校できてんのがよ!」
「…もう!そんなこと言ってもなにも出ないよ!」
そういう世奈も嬉しそうじゃん。
そうだ。バタバタしてて頭の中から吹っ飛んでたけど、今日は大事な日だ。
先に俺が乗車するバス停にたどり着いた。世奈はこの先にある駅から、電車で別の高校に行く。
「じゃあ、気をつけて!帰り、時間合いそうなら連絡してね!」
「おう」
「じゃあね!」
世奈はそう言って俺に背を向けて駅に走っていく。
「…世奈!!」
俺は大声で世奈を呼び止めた。世奈が立ち止まって振り返る。
「なに!?」
「今日は絶対帰る時間合わせるよ!今日、世奈に伝えたいことがあるんだ!」
世奈の顔が少し
「わかった!」
そう言って世奈はまた駅に走っていった。今なら言える。絶対に。あの言葉を。
待ってろよ、世奈。
キミの1番になりたいだけ 2号 @yuruyuru2gou
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