第34話 隠れた気持ち
(世奈)
遊園地の出入り口付近は混み合っていた。
沙耶が人混みの中に消えていく。私もその中に飛び込んだけど、沙耶を見失った。
ヒール履いてるからうまく走れない。沙耶はスニーカーだったからな…。
ゲートを抜けたら混雑も緩和された。よし、見つけた!大丈夫、私の方が足は速い。私は猛ダッシュして沙耶の手を掴んだ。
「やっと捕まえた!」
私はゼェゼェ言いながら膝に手をつく。晴琉や陸はこれの何倍もの距離走ってるんだと思うと、とても信じられない。
「なんで追いかけてくんのよ」
「友達だからに決まってるでしょ!」
「…」
「どうしたの?急に帰るって…」
「…ムカつく」
「え?」
「アンタのそういうとこ、ムカつくのよ!」
意味がわからなかった。原因は私ってこと?沙耶は泣きじゃくりながら続ける。
「世奈は何もわかってない。私の事も、晴琉の事も…」
「…」
「あんたがずっと羨ましかった。いつも晴琉と一緒にいるあんたが…。いつも一緒に登校して、陸上も2人で全国行って、お互いの事認め合ってて…私じゃ到底追いつけない」
「そんな事…」
「そんな事あるよ!それに今日だって、晴琉が見てたのは私じゃなくて世奈だったよ、ずっと…。アイツはあんたの事が好きなんだよ」
「えっ…」
「それに世奈、あんたが私に気を使って晴琉から離れた事も、私は気付いてた。それくらいわかるわ。何年も付き合ってきた友達なんだから」
私は否定する事ができなかった。というか、今の沙耶には何を言っても心を見透かされる気がした。
「ホントは陸と晴琉で気持ちが揺れてたんでしょ?」
「…うん。ごめん」
いつの間にか沙耶は泣き止んでた。どうやら落ち着いてきたみたい。
「謝るのは私の方よ。それを察してたのに、陸と付き合う様にアドバイスしてたんだから。そうすれば晴琉を独り占めできるって思ったの。でもそれも無駄だって、今日わかった」
「沙耶…」
「だから私、晴琉を諦める事にしたわ。世奈にここまで気を使わせて、自己中心的に動いて、それでも晴琉は世奈を見てるんだから。完敗よ。だからアンタも私に気を使わずに自分の意思で決めな。まだ気持ちが定まってないのなら」
沙耶はそう言い残して私に背を向けた。
「じゃあね。今日は1人で帰りたいの」
「…うん、またね」
私は沙耶が視界から消えるまで待ってから、1人で帰る事にした。
沙耶には全部お見通しだった。私はまだ、気持ちが定まっていない。気を使わず自分の意思で決めろと沙耶に言われた事で、その事実が自分の中で明確になった。
私も、決めなきゃ。
♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎
(晴琉)
俺は帰らずに近くの河川敷のベンチで座っていた。今、駅に向かったら沙耶と鉢合わせる事になる。それだけは勘弁だ。
「俺、そんなに世奈ばっか見てたかな〜」
沙耶に指摘されるまで自覚は無かった。でも沙耶と陸のおかげでひとつハッキリした事がある。
やっぱ俺、世奈のこと好きなんだわ。
陸と世奈が付き合っている事に対して強烈な嫉妬心が出てきた事、世奈と登校するのが無くなった事、沙耶にも気付かれるくらい世奈を見ていた事。
この数週間で、それだけの事が浮き彫りになった。
多分俺は世奈がいつも隣にいる事が当たり前だと思ってたんだ。でも世奈は俺の隣から消えた。それを目の当たりにしてようやく気付けた。陸上に集中できてたのも、結局世奈が隣にいてくれてる事が前提だったって事か。
こんな簡単な事に今更気付くなんてよ。
でも、もう手遅れだ。世奈はもう、陸と付き合ってる。今更俺がどうあがいても、世奈は陸の隣にしかいない。
俺は失恋したんだ。
そろそろ沙耶も電車に乗った頃か。俺も駅に向かうとするかな。駅に向かってトボトボ歩き出す。
…あ?数十メートル先で誰かがこっちを見て立ってる。誰だ?
陸だった。
「なんだよ、世奈と一緒じゃなかったのか?」
「お前が不甲斐ないから、沙耶を追いかけて行ったよ」
「あっそ」
俺は陸を交わして駅に歩く。
「待てよ」
陸が俺を引き止める。
「やだね、なんでこんな時にお前と2人で…」
「いいから待てよ!」
陸は珍しくキレていた。陸のこんな鬼神のような顔、初めて見た。俺は面食らって足を止める。
「お前、世奈のこと好きか?」
「またその質問かよ。俺とアイツは幼馴染で…」
「嘘つくな」
陸が俺の言葉を遮った。沙耶だけじゃなく、コイツにも見透かされてたってのか?
「俺にはわかる。お前は世奈が好きだ。世奈を見るお前の目はいつも、俺と同じ目をしてる」
「…」
「ひとつ教えといてやる。世奈はまだお前と俺、どちらが好きか迷ってる」
「は?でも今、お前と付き合ってんじゃねぇか」
「あぁそうだ。でも付き合っていれば俺の勝ちってわけでもない。世奈はお前の事、まだ踏ん切りがついていない状態だ」
「どうしてそれを俺に言う?心の中に閉まっとけば、お前に有利だったはずだろ」
「俺は、俺の事を好きになってくれた世奈と付き合いたい。それに、世奈だって馬鹿じゃない。もしお前の事が好きだとなれば、すぐに俺の元から離れていくさ」
「綺麗事言いやがって」
「でも、本気になれない今のお前には負ける気はしない。この事実を伝えたところでな」
そう言い残して陸は去っていく。
なめやがって。
「待てよ。まだ俺はお前の質問に答えてねぇぞ」
陸が振り返る。
「そうさ。俺は世奈が好きだ。認めてやるよ。今までお前にも、皆にも隠してた。でもな、これをお前が言わせた以上、俺ももう本気だ。お前から世奈を本気で奪いにいくからな」
陸は少しだけ微笑み、再び駅に向かって歩き出した。
俺はその背中を見えなくなるまで見つめた。
ついに言っちまった。でも後悔はねぇ。こうなったら俺は世奈に本気で好意を伝えるまでだ。
……。
ってか、あれ?陸の野郎、今から電車乗るって事だよな?
おいマジかよ。
気まずいから電車もう一本遅らせよ。
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