第31話 揺らぎ
(晴琉)
「晴琉、起きて」
「…んにゃ?」
あぁ、今週も1週間が始まる。月曜の朝ほど憂鬱なものはない。いつもよりベッドから降りる時間が長くなっちまう。すぐに世奈に布団剥ぎ取られるけど。
「ほら、起きた起きた!顔洗って!トースト焼けたからすぐ食べて、歯を磨く!」
「んぁあ〜」
寝ぼけながら顔を洗い、目が覚めたところでパンを口に運んだ。
「…ねぇ、晴琉」
「にゃんだ?」
「晴琉にプレゼントがあるんだ」
一気に目が覚めた。パンを一気に飲み込む。
「なになに!なにくれんだ?」
「これ」
世奈はカバンからとても重厚感のある目覚まし時計を取り出した。
「あ?なんだこれ」
「見ればわかるでしょ?目覚まし時計だよ」
「そりゃわかるけどよ」
「その名も『スリープクラッシャー』。試しにアラーム鳴らしてみて」
俺は1分後にアラームをセットした。1分後、非常ベルの様な大きな音が家中に響き渡って心臓が止まるかと思った。
「これなら流石に起きられるでしょ?」
「…たしかに」
「明日からこれで起きてね。晴琉ももうすぐ中学2年生なんだから、自分で起きて支度できるようにならなきゃね!」
「…あ、あぁ」
世奈のやつ、いきなりどういう風の吹き回しだ?登校中も何故だかいつもよりよそよそしく感じた。
「おい」
「なに?」
「もしかして、なんかあったか?」
一瞬の間。なんだこの緊張感。
「…私ね、陸と付き合う事になったんだ」
「え…」
急に頭が真っ白になった。
「だからね、2人で一緒に登下校するのも、今日を最後にしようかなって」
陸のやつ、いつの間に世奈と…。いや、考えてみりゃ最近、登下校以外で世奈といる時間少なくなってるわ。健や夏樹以外にも、蘭や光永といる時間もできたし、世奈といる時間が自然と無くなっていた事に気付かなかった。
そりゃ陸と世奈が進展してたのにも気付かねえわけだわ。
でもよ、何も一緒に登下校するのを最後にしなくてもよくね?幼馴染だぞ、俺達。
そんな思いとは裏腹に、俺は世奈に強がってしまった。
「そ、そうだな!俺達が一緒に登下校してりゃ、陸も面白くねぇか!」
「うん、ごめんね…」
なんでお前の方が寂しそうな顔すんだよ。絶対俺の方が寂しいに決まってんだろ。
そこからお互いのクラスに入るまで、なんとなくギクシャクした会話になってしまった。こんな会話で登校すんのが最後かよ。
クラスに入ると蘭が俺に駆け寄ってきた。
「ねぇ晴琉くん。昨日、近くの水族館リニューアルしたんだって!今週の日曜さ、一緒に一緒に行かない?」
「…いや、自主練するから」
蘭を冷たくあしらって席に着く。そのまま机の上でうずくまった。
♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎
(世奈)
教室に入ったら、沙耶が私を待ち構えていた。
「世奈、おめでと!やったね!」
そう言って私の手を引っ張り、席まで誘導する。席に着くまでの間に、陸の前を通り過ぎた。
「おはよ」
「お、おはよ!」
挨拶を交わす私達を見て、沙耶がニヤニヤする。恥ずかしい。
「で、どういう経緯で付き合ったの?」
ま、やっぱりそう来るよね。
そこから朝のホームルームが始まるまでの間、沙耶の事情聴取は続いたけど終わらなかったので、昼休みまでこの話は持ち越された。
「へぇ、そんな感じだったんだねぇ」
「うん…」
「いいないいなぁ。うまくいくとは思ってたけど、なんだか羨ましいよ!」
「ありがと」
「私もそろそろ晴琉をデートに誘おっかな〜」
「そうしなよ!最近晴琉モテ期きてるし、早く誘わないと誰かに取られちゃうよ?」
「なにその上から目線、ムカつく〜!あ、そうだ!世奈も陸と付き合ったんだし、晴琉誘ってダブルデートしようよ!その方が晴琉も誘いやすいし」
「えっ…」
ダブルデート…。しかも晴琉、沙耶と…。
「え、嫌?」
「え?ううん、嫌じゃないよ!でもほら、晴琉と陸ってライバルじゃん?なんか2人は乗り気にならなそうな気がするんだけど…」
「俺はいいよ」
陸が目の前にいた。会話に夢中になってて気付かなかった。
「いいの?陸」
「あぁ、別に俺はいいよ。今日の部活の時に晴琉には俺から声かけとくよ」
なんだか凄いことになってきたな。
♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎
(晴琉)
「あ?ダブルデートだ?冗談じゃねぇ。俺は行かねぇぞ」
今日の練習は軽めのジョギング。せっかく気持ちよく走ってたのに、陸の野郎いきなり変な事言いやがって。どーせ自分達のラブラブっぷりを見せびらかしたいだけだろ。胸糞悪りぃぜ。
「お前、バレンタインの日に沙耶と待ち合わせしてたのに行かなかったらしいな」
「お前、どうしてそれを…」
「さあな。沙耶に悪いと思ってるなら、今回くらい沙耶に尽くしてやったらどうだ?」
「別に、ダブルデートじゃなくたっていいだろうが!」
「沙耶が望んだ事なんだよ、これは」
くっそ。どいつもこいつも人の弱みにつけ込みやがって。自然に大きなため息が出た。
「わかったよ、行きゃいいんだろ?行きゃーよ」
俺はスピードを上げて陸を振り切った。そのあと先生に
「軽めのジョギングって言っただろ!」
って怒られたけど。
帰り道は1人。いつもなら世奈と一緒だったけど、世奈は陸と帰っていった。ま、もういいんだ。遅かれ早かれ、こうなってた気もするしな。
俺は久々に松葉公園を散歩してみる事にした。やっぱここは1人で歩くのにはいいな。
いつもの芝生の上で腰を下ろす。
なんだろう、この孤独感。1人で帰るってこんなに寂しかったのか。
その時、誰かが優しく後ろからハグしてきた。シャンプーのいい香りがする。
「だーれだ?」
「蘭か?」
「正解」
「恥ずかしいから離れろって」
「嫌だ」
「おまっ…いい加減に…」
「だって晴琉くん、凄く寂しそうな顔してたから」
「…」
黙り込んでいたら、手で顎をクイッと左に向けられた。超至近距離に蘭の唇がある。
「…おい蘭、どういうつも…」
蘭のキスにより俺の言葉は遮られた。何故だか俺もそこからは抵抗する気にはならなかった。俺は今、自分の気持ちがわからない。
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