真夜中の怪物

水曜

「はあ、随分遅くなっちゃったなあ」

 真夜中の帰り道。

 連日の残業でくたくたになってしまった私は、ふらふらとしながらも何とか足を動かす。もう心も体も限界に近い。早く家に戻って、休みたかった。

 だが、あまりの疲労と空腹のせいでちっとも歩みが進まない。

 我ながら亀のような鈍足である。

 

「カクヨムのコンテスト締切も近いし、帰ったら書かないと。確かお題は『真夜中』だったな」


 小説投稿サイトのカクヨムでは、今連続でお題に沿った作品を募集していた。

 私も参加しているイベントだが、募集期間が短いため毎回スピードとの勝負になる。


 そして、今のテーマこそが真夜中なのだ。



 真夜中。

 まさに今だ。

 残念ながら何もアイデアは浮かびはしないが。

 私は筆が遅いので、出来るだけ余裕をもって取り掛からないと命取りになる。

 帰るまでに何か考えないと。


「そういえば、最近通り魔が出るって噂だったな」


 なんでも。

 夜な夜な一人で歩いている女性が襲われているのだという。

 被害者の首筋には噛み跡があり、犯人は吸血鬼ではないかと噂されていた。


「吸血鬼かあ。まさかとは思うけど」


 吸血鬼。

 まさに真夜中の眷属の代表格。


 そう。

 この世界には、本当に吸血鬼が存在する。

 ただの人間が襲われたら、ひとたまりもあるまい。


「今回のカクヨムのお題は吸血鬼ものと何か絡めるか。いや、でもなー」

「お嬢さん、夜道の独り歩きは危ないですよ」


 ぶつぶつと私が構想を練っていると、見知らぬ男が話しかけてくる。

 黒いマントに身を包み、肌は異様なほど白く、口元からは鋭い牙が伸びている。


「……もしかして、あなたは今話題の通り魔ですか?」

「はい。高貴な吸血鬼として、今日も女性の血をいただきに参上しました。あなたの血も美味しそうだ」

「マジか。本当に吸血鬼の仕業だったとは」


 噂というのも馬鹿にできない。

 しかも、自分が狙われてることになるとは運が……良い。



「ちょうど良かった。お腹が減っていたところだったんだ」

「?」

「それに今日は良い月夜だ」


 真夜中に浮かぶ月。

 それを目にしかと映す。

 刹那、私の体は大きく変貌した。

 三メートルを超す巨体、身体中が毛に覆われて、吸血鬼のものより鋭利な牙が生える。


「お、オオカミ男だと!」


 この世界には吸血鬼が存在する。

 そして、オオカミ男も然り。


 まあ、私はオオカミ女だが。


「た、たすけて!?」


 逃げ惑う獲物をひょいと捕まえて、一口でペロリ。

 ゆっくり咀嚼する。


 バリバリバリ。


 ふう。

 おかげで、腹も膨れた。

 帰ったら早くカクヨムを書こう。


 先程と打って変わって、私は軽い足取りで真夜中の家路を急いだ。













 

 








 

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